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汝は何を思うのか

「……この字は…この意味で…この字は…」


ヤナギは黙々と字の練習をしている。来た時は日がまだ登っていたが、今はもう日が暮れ始めている。


「…む?もう日が暮れているではないか…時間が経つのは早いな…ここらで退散とするか」


簡単な字程度なら少し読めるようになったヤナギ、ペンや紙などをまとめ、本を戻しに向かった。


「…この本は…一階の奥の方だったな」


本を戻しに奥に進むと、本棚がズレているように見えた。


「…?」


ヤナギはなんだか不思議に思い本棚に触れると、本棚が横にずれ、扉が現れた。扉を開けると、階段が現れた。


「…シンプルに地下の部屋か?なんだか気になってきたな」


ヤナギは好奇心に押され、そのまま階段をくだり、部屋へ入った。本が置かれているが、どれもまだ習っていない文字のため、理解ができない。適当な本を手に取り内容を確認する。


「これは…」


手に取った本は、文字ではなく絵が書かれていた。無意識に絵に触れてみると、なにかに引き込まれた感覚になった。


――なんだ…


周りには、絵に書かれていた風景が広がる。歴史の黒い部分、人間同士の戦争。その兵士本人になった気分だ。空は赤く染まっている。


「放て!」


身体が、やったことも無いのに勝手に魔法を放つ、身体を動かそうにも動かせず、完全に操り人形の気分だった。

敵兵士達が近づき、どんどんと揉みくちゃの戦闘になる。血飛沫と魔法が飛び交う。草原は、一瞬で地獄になった。まるで血の海を走っているようだった。


――なんだ…これは……一体どういう…


身体が近づいてきた兵士に向かって、剣を振るう。身体を切り裂く感覚が、体温が、匂いが、鮮明に身体に残る。不愉快な感覚。


――落ち着け…何をしている!やめろ!


どんどんと近づいて来る兵士、切っても切っても虫のように湧く兵士。切る度、不愉快な感覚が身体にどんどん染みてくる。段々と追い詰められてくる。血の匂いに慣れ始めた時、兵士が近づき、剣で首を切り裂かれた。

激痛が身体に鮮明にくる。痛い、痛い、苦しい。

首が落ち、自分の身体が見える。そこで、この【記憶】は終わった。



「…っ!!!はぁ…!はぁ…はぁ…」


呼吸の仕方を忘れそうになる。頭に残る、死の瞬間、忘れたくも忘れられない人を殺す感覚。ほんの数分の出来事だったが、数時間にも感じた。


「なんだ…なんなんだ…」


吐き気が迫ってくる。よろけて思わず倒れそうになる。


「もしかすると…これは記憶を保存している本か?」


なんでこんな本をと思ったが、魔法を放つ感覚を何となく覚えているため、そのために保管しているのかもしれない。


「…首に違和感がある」


まだ生きている実感がない。死の瞬間、色んな思考が入ってきた。その中に、恨みの感情があった。もしかすると、あれはあの兵士の感情なのかもしれない。


「あれを美しいと思うほど…俺は壊れてはいない。……ここは危険だな。来るとしても、また今度だ」


ヤナギは本を戻し、部屋を出る。外を見るとまだ夜になっていないため、そこまで時間は経っていないようだ。すると、司書が部屋の前に立っていた。


「あっ、さっきの客じゃないっすか。ダメっすよ〜こっちの不手際とはいえ勝手に部屋に入らないでっす」


「…ああ、悪い。気をつける」


「…もしかして、中の本読みました?」


司書の顔が、一気に真剣な顔になる。ヤナギは平常を装った。


「安心しろ、中で俺の美貌を誰にも邪魔されず確認していただけだ」


「ふーん…ならいいです。その本、戻しとくんで帰っていいっすよ」


「そうか、すまない。ありがとな」


ヤナギはよろける身体を何とか起こしながらも、ゴリナのいる果物屋に向かう。


「…嫌な記憶が残ったが、得たものはあったな」


本の知識を感覚的に学べる、ここだけ聞くと素晴らしい本だった。

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