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第197夜 銀塩とキャンバス あるいは雨の不忍
梅雨が水面を打つ濠池のたもとに奇蹟の結像がひしめいている。ゼラチン質の微塵、油脂隆起する宇宙。耐えきれぬほどの含有熱と絶湿度に視覚がやられる。
銀塩のモノトーンは水平線の湾曲を無きものとし、蒼き星を陰陽の二元へと昇華させたかと思えば、プリズムの非可視色帯や超時間生命体をも眼前に据えて見せる。常識に硫酸を掛けられたような呆気に囚われる。そういえば三十三間堂の観音が纏う夏の朝日は華厳因陀羅網の宝珠投影に間違いない。
蓮の蔓延る不忍池を見下ろす丘、白いテントを目指せばそれが入場前の心の白紙を象徴するものであることを匂わせる。案の定、ひとたび足を踏み入れたならば、バレットで絵具を混ぜることなく盛大にキャンバスに乗せる純潔、補色を駆使する激情、コリオリに操られたかのような時計回りの渦が心に塗りたくられていく。
うつつに姿を現した幻。揺れる東京に掛けられた結像たちは雨上がりとともに静かに消去していく。




