第186夜 とうめし〆の夕暮れ
第二弾は前評判通りストーリー展開はハイスピード、出演者もプロゴルファーまで登場する多彩さ、お馴染み二人の主役は腕力が増しており映画館も最新の音響で上映する。NYの相変わらずさに少々疲弊しエスカレータを降り切ると日本橋の街は暮れかかっていた。新日本橋駅に向かい歩き出すが、すでに街は夕餉香で充満しており足が駅へと向かわせない。仕方なく心の食感ナビに任せて歩を進めると、見事に今の気分に合わせて導いてくれた。お多幸。生魚も塊肉も受け付けない胃袋はそもそも大半のリストを除外する。その中から最もNYらしくないもの、おでんだ。しかも濃汁の東京おでん。この味はシャンパンには合うまい。大瓶のビールを手酌しながらお任せ4品を待つ。暇つぶしに見るスマホには下調べしていた先ほどの作品の口コミページが映る。
“アンディのネゴパワーといったら!”
“ナイジェルが写真選びしているシーン、手に持ってたのはあの懐かしのダーマト!”
“ミランダはやっぱりモード沼の妖怪魚”
こういった声は細部までこだわったシナリオ作りの結晶だ。私はといえば4品後の展開を構想中。大根、ちくわ、こんにゃく、がんもどきを大瓶ビールで片付けたら、次の麦焼酎には旬の物を合わせたい。アサリ? 山菜? と考えているところに4品が届く。
劇中ではアンビバレントがメインテーマとなっていた。デジタルメディアとオールドメディア、斬新と回帰、矜持と効率、伝統と革新…、甲乙つかないものがまるで振り子のように行き来する。それが今の気分にフィットする。それも当然だ、片方だけが蔓延る世の中を想像してみれば即答、息が詰まる。多種多様こそが地上の楽しみなのだから。などと自己完結したところで4品だ。濃口醤油の芳醇、それを丸みづける糖、そしておでんをおでんたらしめる練り物たちの旨味渾然一体。それが染みた大根が美味しくないわけがない。そしてこんにゃくの食感の寄り道。汁で飽和充満したがんもどきを喉奥に流し込むビール。至福だ。何より今ここに居ることが。マンハッタンのリムジンシートではなく、お多幸の相席テーブル席。隣のOB会風シニア4人組は一生懸命前立腺の話をしているが、私はお構いなくビールを手酌しあおる。抵抗と邁進。
さて麦焼酎のアテだが、ここの振り子もしっかり戻っている。おでんしかない。そしてあれしかない。とうめしだ。めしにお茶漬けのごとくおでんだしをかけ、その上にだし風呂から上がりたての少し色づいた豆腐を乗せただけの、店伝統の〆。これを少しだけ水を足した麦焼酎でやるわけだ。口蓋に約20度の酒刺激が行き渡ったのちに甘辛い豆腐湿布をする。これこそメトロポリタン東京の矜持、伝統、回帰、そして悪魔の沼なのだ。




