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鎌倉千一夜  作者: Kamakura Betty
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179/221

第179夜 逍遙の影

幾千日の逍遥は

足取りを揃え

綱を緩くし

暗黙を交わしていた


金木犀の芳香に

三尺玉如き紫陽花に

祈り燃ゆる曼珠沙華に

霞に咲く山桜に


共に立ち止まり

見上げ見下ろし

深く吸い

深く吐いた


君は鼻先に

桃色の花弁をつけ

僕を大いに笑わせた

尻尾をブンブンさせながら


君は由比ヶ浜の

大潮干潮の海に走り

塩っ辛い水を舐め

光明寺からの陽に干されていた


君は祇園山の道を

私を引くように登り

行交人に譲り

頭を撫でられていた


雨の日は傘に

風の日は生垣沿いに

日差しには木陰に

数千日を添歩き


16度目の霞の日に

君は居なかった

梅の香りの中

横臥は永遠となった


我らを照らした陽は

ただ一つの影を落とすのみだが

あの日の残影は

今も隣に寄り添う


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