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第179夜 逍遙の影
幾千日の逍遥は
足取りを揃え
綱を緩くし
暗黙を交わしていた
金木犀の芳香に
三尺玉如き紫陽花に
祈り燃ゆる曼珠沙華に
霞に咲く山桜に
共に立ち止まり
見上げ見下ろし
深く吸い
深く吐いた
君は鼻先に
桃色の花弁をつけ
僕を大いに笑わせた
尻尾をブンブンさせながら
君は由比ヶ浜の
大潮干潮の海に走り
塩っ辛い水を舐め
光明寺からの陽に干されていた
君は祇園山の道を
私を引くように登り
行交人に譲り
頭を撫でられていた
雨の日は傘に
風の日は生垣沿いに
日差しには木陰に
数千日を添歩き
16度目の霞の日に
君は居なかった
梅の香りの中
横臥は永遠となった
我らを照らした陽は
ただ一つの影を落とすのみだが
あの日の残影は
今も隣に寄り添う




