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宿直

 きらきら

 さらさら


 滲むように強くなる気配に、阿礼は微笑む。

 沙伎だ。

 宿直(とのい)の大舎人寮には他にも何人かいるが、室内に待機する者は皆、横になって仮眠をとっている。

 阿礼は一人部屋の隅で柱にもたれ、御簾越しに外を眺めていた。

 見回りの相棒である(ふひと)は、少し離れて手枕で横になっている。息をする背の動きで、史も寝ているのだとわかった。

 次が阿礼たちの見回りの番だが、もう少し寝かせておいていいだろう。

 ぱちぱちと爆ぜる松明が、夜空に火の粉を飛ばしている。 

 その松明の爆ぜる音の隙間の静寂に、幽き貝の触れ合う音が忍び込む。

 阿礼は、目を閉じる。

 決して見ない。

 触れようともしない。

 それはすでに世を異にした、阿礼と沙伎の約束だった。

 ただ、そばにいられるならそれでいい。

 ここに、阿礼がいる。

 そして、沙伎がいる。

 それ以外の何も求めない。

 阿礼は目を閉じて静かに沙伎の気配をきく。


 きらきら

 さらさら


 幽き気配は静かに阿礼の傍らにある。

 触れなくても

 話せなくても

 見ることさえできなくても

 それでも

 ただ、そばに。


 きらきら

 さらさら


 むしろ、沙伎が生きていた時でもこれほどに沙伎の気配を近く感じた事はない。

 未だ妻問わない阿礼と沙伎の間には、それに相応しい距離があった。

 今、沙伎の幽き気配は近い。

 もしも感触を得ることが出来るなら、ぴったりと密着しているか、いっそ溶け合っているのではないか。

 しかも沙伎の気配は常に阿礼と共にある。

 あまりに幽き沙伎の気配が、他の種々に紛れる事はあっても、完全に消えてしまう事はない。

 そしてこんなふうに他の気配が薄れると、じわりと滲み、阿礼をおし包む。

 阿礼は目を閉じたまま、沙伎の気配を愛おしむ。

 ただそばに。

 お互いがそばにいる以外を求めない。

 それでいて二人の在り方はいかなる逢瀬よりも近く、いかなる交わりより深い。

 二人の気配は甘く触れ合い、もつれ、溶け合う。

 沙伎の内にあるものは全て阿礼へと滲み。

 阿礼の内にあるものは全て沙伎を求める。

 それでいて完全に一つに溶け合うということはなく、世界さえも異にする。

 阿礼は肉の交わりを未だ知らないが、それで自分を清童だとは思わない。

 阿礼は沙伎を知っている。

 沙伎は常に阿礼と共にあり、阿礼の周囲が静まるとじわりと気配をにじませる。

 例えば、こんな宿直の夜更けにも。

 ただ共にあるだけで、世界さえも異にしながら、二人の気配はもつれ、交ざり、睦み合う。

 それで十分ではないか。

  

 「おおい、次は誰だ。交代だぞ。」

 がたりと音がして戸が開き、見回りに出ていた二人が帰ってくる。沙伎の幽き気配は、たちまちかき消されてしまう。

 「史、起きろ。俺たちの番だぞ。」

 阿礼は寝ている史を起こすと、連れ立って外へ出た。


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