誓い
このお話から第2章にはいります。
きらきら
さらさら
微かな、あるかなしかの音が阿礼を呼ぶ。
これは桜貝が触れ合う音。
阿礼が沙伎に贈った簪がたてる音だ。
沙伎。
阿礼の心に喜びが湧く。
沙伎がすぐそばにいる。
振り返ろうとして、それをとどめる気配を感じる。
そうだ。死者を見ることは死者に辱を与える事だ。
阿礼は自分をとどめて、固く目をつぶる。
沙伎の気配は阿礼に寄り添い、それから静かに離れてゆく。
きらきら
さらさら
かそけき音が遠ざかろうとする。
嫌だ。
沙伎が行ってしまう。
「行かないでくれ。」
どうしても行かなければならないなら、俺も連れて行ってくれ。
遠ざかろうとしていた気配が、ふととどまる。
阿礼は必死に気配に縋る。
目を開くことなく、振り返ることも、手を伸ばすこともせず、ただここにあって欲しい、そうでなければ自分も連れて行って欲しいと念じる。
見てはならぬなら見まい。
触れてならぬなら触れようとするまい。
声も聞けなくても、姿も見られなくても、触れる事もできなくても。
そばに。
ただ、そばに。
他には何も望まない。
躊躇
逡巡
迷い
惑う
生者に生者の在り方のあるように。
死者には死者の在り方がある。
両者の間には黄泉平坂があり、交わってはならぬ定めだ。
阿礼と、沙伎と。
二人の思いは絡み合い、もつれ合い、理の在り方のぎりぎりのところで押しとどまる。
見てはならぬなら見まい
触れてはならぬなら触れようともするまい。
お互いの微かな気配しかよすがもないのだとしても。
そばに
ただそばに。
きらきら
さらさら
かそけき音だけが二人をつなぐ。
そばにいて
そばにいたい
離れたくない
二人の思いは絡み合い、もつれ合い、固く、複雑に結び合う。




