尽きぬ闘志
感想くださいまし!
「ヒャハハハハハハッ!お前らこの男の何を見てきたんだ?余程薄っぺらい関係だったんだな!まぁいい。教えてやるよ…オレは史人じゃねぇ。だが、史人でもある。俺の口から出るのは紛れもないコイツの本音ダ」
(黙れ…)
(黙れ!黙れ!お前が、俺と美紗希との関係を語るな!相馬との関係を語るな!)
「……お前らは…馬鹿だなァ。俺は史人であって史人では無いから、客観的にそこの女を見れる。いや、同類だから惹かれたのか。キヒヒッ!アァ…愚かしい」
(鮎川の事を語るな…ッ!)
(例え、全て本当だとしても!それを貴様がほざくな!心のほんの隅にある気持ちを全てみたいに!言うんじゃねぇ!)
(悪魔風情が偉そうに、人間を語ってんじゃねぇよ!!返せ…俺に、返せ!)
一瞬の気の緩みで一気に持っていかれた。悪魔との契約の判子を勢いで押され、しかも精神汚染ではなく、完全に身体を乗っ取られて。
ふざけるな。そんな最後があってたまるか。こんなよく分からない最後があってたまるか。取り戻す、まだ戻れるうちに。まだ、今なら間に合う気がするのだ。
必死に叫び、叫び続け、そして身体と景色が開けた。重く垂れた赤黒い雲が空を覆う砂漠。見たこともない、しかし酷く既視感のある世界に、己の身体ともう1人の自分。
「………うるせぇな。黙ってろ絞りカスの分際で。俺のお陰で勝てたろ?仮契約は本契約になって、お前は消える。それだけじゃねぇか」
「……消えてねぇよ。今ここにいる。ここに呼び出したってことはだ。つまり、まだ俺は戻れるってことだろ?そしてその方法もある。悪魔様よ。隠してねぇで答えろ。嘘は言えないからな、誤魔化すしかないんだろ?」
「………めんどくせぇなぁ。心が折れて、楽にいけたと思ったのに。そうだよ赤錆の屑野郎。悪魔の力を使うには代償がいる。その代償は悪魔によって違うし、悪魔から引き出す力によっても違う。今回の契約は俺が全部決めたぜ?勿論俺に有利な内容だ。悪魔の力のほぼ全てをお前へ貸し与える代わりに、最高の苦痛をお前への条件として言い渡してやる。…なに、単純だよ。ここで俺にいたぶられても耐えることだ毎日、俺が飽きるまでな」
「……敗北の条件は?」
「お前の心が折れる時だ。ポッキリと。何、すぐだ。ここは時間っていう概念は無い。毎日好きなだけお前をいたぶれる」
「……抵抗していいのか?」
「おっと、言い方が悪かったな。要は俺と戦うんだよ。といっても実際はただのいたぶりだが。それがずっと、お前の心が折れるまで続く」
「………フンッ…勝手に人の身体に乗り移って偉そうによく言うな。そんで、お前を倒したらどうなるんだ?」
戦う、戦うのであれば必ず勝機がある筈だ。勝利すればいい。そうすれば必ず道が開ける。
「ハッ……ヒィハハハハハハハッ!俺に勝つ?馬鹿な思い上がりをしてるな!お前は!この俺が作った世界で、俺に勝つ?断言しよう!有り得ないとな!お前は一生かけても決して届きはしない、届くはずが無いのだ。才能があるなしでは無い、これは全ての人間にとって至ることが出来ない所に俺があるからだ!何故だか分かるか?」
「…………悪魔の力を使っているからか?」
狂ったように笑い続ける悪魔の俺にそう問いかける。しかし、答えは違った。それやりも遥かに悪質で、納得できる理由で。
「違う。俺様はお前の理想だからだ。俺様は悪魔の力を使ってお前の理想の姿を再現している。お前の理想はなんだ?今より弱い自分か?違うだろ?今より遥かに強い己を思い描く!それが俺だ!それはお前がいくら成長しようと距離は縮まりはしない!成長した分だけ、それ以上に理想の姿は高くなっていくものだからな!だから!お前は!俺様には一生勝てはしない!」
「……理想の……俺…」
「なに…試して見れば分かる。全て思い描いた攻撃の筈だ。一足先に至ったお前の未来の攻撃。ゆっくりと味わえ、自分自身を。これもお前にとっては身から出た錆と言うやつだ」
時間はたっぷりとある。心が折れない限り、何百年も続けることだってできるだから。
「ガァッァァァァァァッ!」
「四肢を失っても死ねないって人間って丈夫だよなぁ…。ささっさと死ねたら楽なのになぁ。どうだ?今の気持ちは?」
「…次…はッ!…テメェ…を」
「そうかい。じゃ、次まで待ってる。トドメは刺すのは面倒だから痛みに耐えて死ね」
20回目の死を迎える史人。この精神世界において心が折れない限り死は訪れない。次とは、身体の機能が停止した瞬間に無傷の身体に戻りまた戦う事だ。終わりは人間より遥かに気の長い悪魔が飽きるまでだ。
「……ッ!ガァ!ハァハァハァハァ」
「あら?随分と再生が速いな。急所でも攻撃しちゃったか?」
「舌を噛みちぎっただけだ。無限の時間があっても無駄は嫌いだからな」
「……痛覚をかなり敏感にしているこの世界でよくまぁ思い切った事を。ふむ……確かに…しぶとさはかなりのものだな」
「さっきから…お前が徐々に強くなっているってのは…俺の理想の姿が強くなっているからか?」
「さぁな。興味が無い」
「そうかよ。……でもよ、だとすれば今の俺は強くなってるってことになるわけだよな」
「だからどうした?差は決して縮まりはしない。お前に勝利の未来は無い」
「別に…ただ単に……少しやる気が出ただけだッ!」
そう叫び、斬りかかる。この世界をほんの少し救いに感じた事を目の前の悪魔に悟らせないようにしながら。
500回目。どれほどの時間が経っただろうか。そんなこと分かりはしない。雲の位置も砂漠の形も何もかも変わりはしない、ただ死に続けるだけの苦行―――のはずだった。
「ハァ!」
「面倒だなっ!」
戦意など微塵も欠けていない、むしろ闘志を燃やす史人の姿があった。
「……貴様…何故折れない…」
「ラァッ!」
ガキンという音が響き続ける空間で、折れる気配を見せない史人に疑問を投げつける。
「うるせぇ!いいから戦え!もっと見せろ!俺の理想を!太刀筋を!動きを!」
「…コイツ!」
ようやく理解した。押し黙ったまま、戦意を増していく史人にもしやと思っていたが…。
ここを修練の場として利用しようとしている。
何百回も死ぬという環境下で。正気の沙汰ではない。ここに来て、史人の根底に潜む武器の特性を理解した。錆びた刀は脆い、が尽きることは無い。
「……これは最悪の物件を拾ったか…」
「ガハッ!?」
迫り来る史人の首をはね飛ばした。普通ならば、心が折るために念入りに殺すというのに。楽に殺してしまった。
「今日は終いだ。返してやる、今日はな」
悪魔の腹立たしそうな顔と共に世界が崩れていく。それを見て史人が叫んだ一言は。
「まだだ!まだ終わるんじゃ――」
ゾクッ。悪魔に悪寒が走る。そして、それに対する激しい怒りも同時に燃えていくのであった。
「……さて、相馬くん。いったいどういう状況か教えてもらおか」
そう北上が相馬を睨みつけながら問いかけた瞬間に、史人の身体に変化が産まれた。急激に魔力量が増大し雰囲気が変わった。それはいつもの史人ではなく、とはいえ、狂人ではない。新しい史人に。
「アァッ!…ガッ……戻った……。ここは…何が……もう覚えてねぇや。今どんなに状況だ?」
精神と時の部屋というチート。あれずるいよね、試験前に欲しいよ。




