戦いは続く
「……ここか?3階建てではあるが…」
虐殺を続ける国家魔術師から隠れながら目的だと思われる家に到着することが出来た。しかし…。
「もう破壊されてるね、コレ。お兄ちゃん、どうする?」
そうなのだ。それらしき建物には到着したがまだ原型が崩れずに残っているのが不思議なくらい破壊されていたのだ。煙が燻っているところを見るとつい最近破壊されたのだろう。
「もしかしてとっくに組長は殺されたとかじゃねぇよな?相馬」
「業務連絡用のスマホにはそんな報告は無い。僕以外の国家魔術師は今組長の居場所に繋がる情報を探しているような内容しかないところを見ると」
「本当にまだ見つかってないってか。しかし、地下なんて無さそうだし。ここじゃないとすると…」
「………いや、待ってくれ。業務連絡に民家に立て篭もった、破壊した等の情報は乗ってない。勿論、独断の可能性もあるけど…。国家魔術師がここまで徹底的に破壊するのも珍しい」
「つまり、これをやったのはテメェら国家魔術師では無いと言いたいわけか。なら、やったのは…」
「村上組の残党。カモフラージュのつもりなのかもしれないね。隠すって言ったら、地下に繋がる何かを」
そうとは言うが、瓦礫の量が尋常では無い。ここから探すのは流石に骨が折れる。っと辟易していると。ザッと足音が聞こえた。
「へぇ…。そこにいるんだ。流石この地区の期待の星。野良魔術師を利用して場所を割り出すなんて。策士だね」
「ッ!小南さん」
「そ、そうなんです。相馬くんはわざと野良魔術師を騙して誘導してたんですよ。決して裏切った訳じゃ…」
背後から現れたのは、振り切ったはずの小南という女と鮎川。最初からつけられていた、と見るべきだろう。
「ご苦労様。その臭い演技はおしまいにしていいよ。演技だって分かってても、野良魔術師に味方するなんて虫酸が走るから」
「も、もう大丈夫だよ!相馬くん!こっちに来て!」
相馬に懇願するように言う鮎川。苦しい嘘だと分かっているし、小南も頭から信用している訳では無い。
今なら騙されてやるから、戻ってこいという訳だろう。鮎川は相馬が犯罪者として追われるのをなんとしても阻止したがっている。そりゃ、好きな人が悪の道に堕ちるのは看過できないだろう。
「……鮎川…その気持ちは嬉しいけど」
だが、それじゃダメだ。鮎川、お前はまだ相馬を理解出来てない。そんなんじゃ、相馬は一切ブレはしない。
「…ここまでだな」
「僕は…ッ!?」
そう呟き、錆びた刀を顕現させて背中ががら空きで油断しきっている相馬を斬り飛ばす。斬れ味なんて皆無に近い錆びた刀だからか、殆ど鈍器のような感触であった。が、刀から血が滴るくらいは効果はあったようだ。
「……ハッ!馬鹿な女だな、ご苦労様だ?それはこっちのセリフだ。この男をダシにしてお前らを誘き出すのが俺の目的だったんだよ」
不敵に笑ってみせる。虚勢だ。しかし、虚勢の1つも張らないとここまで付いてきてくれた相馬に悪い。
「誘き出す?アンタが?さっきは尻尾を巻いて逃げた雑魚野良魔術師のクセに大言を吐くわね」
「そりゃ、業務連絡?みたいなことされたら面倒だからな。この男を利用してればそれを防げるって寸法よ」
我ながら苦し紛れの言い訳だ。しかし、騙されてやっている小南という女には多分通じる。騙されてくれる。
「ふぅん。義理固いのね。野良魔術師のクセに。分かったわ、じゃあそういうことにしましょう。で、私を誘き寄せて何をするって?」
「決まってんだろッ!」
全力を持って殺す。この事実を知る女を確実に。いつ漏れるか分かったものでは無いのだ。
「へぇ?武器魔術師が真っ向から。余程死にたいようね」
魔術陣が2つ空中に現れて史人に照準を向ける。赤い光が強くなり放たれるのは炎の矢。その速度は銃弾とほぼ同じ。
「…ッ!…ッヌグァ!」
それを全神経を限界まで魔力で強化し、1発目を避けて2発目も腕に掠り血が吹き出るが致命傷では無い。ほぼ直線の移動だと言うのに2発目とも避けた勘の良さに目を見開き驚く小南。
「…へぇ、いいもの持ってるのね。でも」
今度は10を越える魔術陣を一斉展開。明らかに避けることは不可能で進めば死ぬだろう。
「……ッ!」
しかし、史人がとった選択は更なる加速。足を止めずに更に前へ。人が出せる速度では無いほど高速で進んでいてもやはり遅い。魔術陣が強く光っていくのをみて、己の足が酷く遅く感じるのだ。
「届かないわよ。あんたじゃ、絶対にね」
「でも、私がいれば届くんじゃない?お兄ちゃんを護れ!」
一斉に放たれる炎の矢。それを全て防ぎきる美紗希の防御魔術。その堅さは魔術師として習いたての美紗希が出せるはずが無い強度。しかし、何よりおかしいのが。
「高速移動に合わせて防御陣を展開!?そんな…嘘でしょ…」
天災ゆえにこなせる技。感覚だけで魔術を理解する天賦の才。魔術師として正しく学んでいないからこそ出来る魔術の常識外の使い方だ。
「取ったァァッ!」
更に加速。刀の切っ先が射程に入る。
「っ!?ぐぅッ!のっ!」
反応の一瞬遅れた小南の肩に史人の刀が強かに打ち付けられる。スーツが破れ血が吹き出すがその傷は浅い。もう一歩踏み込んでトドメをと思うが小南が小さい魔術陣を史人に向けて放つ。
それは、距離を離させる為の魔術だったのだろう。炎が数秒間史人を包み込む。
「ッう!」
熱く、動きが止まりそうになるが、我武者羅に錆びた刀を振るいとにかく前に進んだ。目を開いた先にいたのは文字通り目と鼻の先にいる小南の顔。殺意の篭った目と目が交差し、刀を振り上げる史人と新たな魔術陣を展開する小南。
武器魔術師にとってもっとも有利な超近接戦ですら、魔術行使を間に合わせる小南の技量は凄まじいのだろう。しかし、ここまできたら史人がコンマ数秒速い。
「終わりだ!」
攻撃魔術陣ごと、切り潰す。決して脆い訳ではない錆びた刀が折れる程の威力で振り抜き小南はアスファルトに身体を叩きつけられる結果になった。
「小南さん!」
鮎川の声に反応は無い。完全に意識を刈り取ったようだ。
「……」
「史人!?何するの!」
意識の無い小南の身体を踏みつけて万が一にも起き上がれないようにして刀を再度顕現させる。明らかに格上の相手だ。ここで確実に息の根を止めなければならない。
人を殺すと覚悟を決めた史人はどこまでも冷酷になれる。今更なことを言う鮎川の言葉を黙殺しその心臓に刀を突き刺そうとするが。
「やめて!」
鮎川が抱きつくような体当たりに、切っ先が少しズレて肩を刺してしまった。これでは致命傷にはならない。
「……」
必死に止めようとする鮎川を冷たい目で見る。魔力で強度されている史人にはその力は酷く非力で軽く押し返しただけで突き飛ばされたように尻餅をついた。
「………大人しくしてろ。死にたくなかったらな」
肩に突き刺さった刀をそのままに、新たに刀を顕現させ鮎川に向ける。これはお前用だぞと脅すために。
「ヒッ……い、嫌…や、めて」
「――――あー。本当にイライラする」
そう呟いた声が史人の耳に聞こえた瞬間、鮎川に向って氷の槍が放たれていた。
「グッッ!!」
咄嗟に鮎川の手を引き抱き寄せて錆びた刀で氷槍の軌道をずらす。
「……何してるの?お兄ちゃん。そいつ、国家魔術師だよ?」
「……………相馬を敵に」
「さっきお兄ちゃんが突き放したばかりでしょ?違うよね、まだそいつの事…」
好きなのか、と続けたかったのか。顔を俯かせる美紗希の真意は計れない。
「ふ、史人くん?あ、ありがとう」
「…………………ッチ…」
厄介なものだ。嫌いになる理由は沢山出来たというのに。理論的にいけば嫌いになれるはずなのに。まだ、未練タラタラの己に腹が立つ。
「……鮎川さん。このさいだから言っておくね。私、あなたの事大っ嫌いよ。八方美人で、自分が無くて、現実を直視できなくて、他人に縋らなければ生きていけない弱虫。なのに、お兄ちゃんに好かれて、気付かないで生きてる。お兄ちゃんはどう思ってたか知らないけど、アンタが1番弱くて卑しい性根の持ち主。ほんっと、心底軽蔑するわ」
吐き出される美紗希の秘めていた思い。これ程、強い敵意を鮎川に向けるのは初めてだろう。いや、鮎川自体これ程の敵意を向けられるのは初めてかもしれない。
「…………あ……その…」
口をぱくぱくさせて、反論できずについに俯く鮎川。……これを慰めるのは自分の役目ではないと思い寂しくなる己を嗤い、軽く鮎川を突き放し美紗希の元へ歩いていく。
「…あっ……ふみ…と…」
そんな声が…聞こえない。聞こえないと暗示をかけて美紗希の元へ。己が守るべきは鮎川では無い。美紗希だ。その前提を間違えるなと言い聞かせながら。
「1度俺は鮎川に生命を救われている。今回はその時の借りを返すだけだ。他意は無い。鮎川自体に戦闘能力は無い。放っておけ」
美紗希の隣に立って言い聞かせる。
「……うん。お兄ちゃんが言うなら…」
「ああ、小南とかいう女も、もういい。移動するぞ」
「…分かった。でも、少しいい?」
美紗希が抱きついて史人の匂いを嗅いで顔を顰める。史人が、ではなく先程鮎川を抱き寄せた時についた匂いが嫌なのだろう。力いっぱい、抱きついて離れた。
「…まぁ、とりあえずはこれで大丈夫。でも、お兄ちゃん帰ったらもっと…」
「はいはい、好きにしなさい」
これは私の物。それを鮎川に見せつけるように、鮎川の残り香を消して上書きしていくのであった。
「……私だって…昔は…」
それを見せつけられた鮎川は珍しく、イライラした表情を見せて美紗希を睨みつける。それは、鮎川が初めて明確にした敵意。
「――――無能共が……共倒れしてくれるって期待を裏切るな。特に小僧、国家魔術師を殺すなら殺せ。でなければ、お前が死ぬぞ?」
瓦礫から現れた1人の男。その姿を見て顔を青ざめる鮎川。
「……村上…竜二…」
作戦前に写真で顔を見ていたのだろう。そう呟いた鮎川を竜二は睨み、ヤクザがよく持つ直刀の刀、ドスを顕現させる。
「…名前を知ってるって事は俺の性格も知ってるはずだ、嬢ちゃん?」
残忍で残酷、冷酷にして容赦は一切無い。そのドスに土手っ腹に風穴を開けられて死んだ者は数多く、死んだ者は皆苦悶の表情を浮かべていたという。
「あ…あ…」
恐怖に震える鮎川。常に後方にいた鮎川が初めて経験する、濃密な殺意。史人の本気で殺す気のないものとはまるで違う。
「…………なんの真似だ、小僧」
「……あれは俺の獲物だった奴だ。横からかすめ取るな」
「ハッ…ハハハハッ!本気で言っているのか?小僧!貴様のようなガキが、よくも俺にそんなことを吠えれたな!………いいだろう、糞ガキ、テメェから腹の風通しを良くしてやるわ!念入りにな!赤錆の小僧!」
「ッチ…気がついてたのかよ。最初から殺すつもりじゃねぇかッ!」
ドスを右手に持ち歩いて距離を詰める村上竜二に、錆びた刀を顕現させ構え飛びかかるのであった。
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