釣りする魚達
遅れて申し訳ございません!
「あら、いい実験対象が見つかったのね。勿論許可するわ、威力偵察けん無能処理が出来る一石二鳥の機会ですもの。新しい組織になった国家魔術師達の実力がどの程度か見せてもらいましょう」
スクールバッグを近くの付き人に預け、本革製の高級ソファーに腰掛ける。髪を纏めていた紐を解き、腕と脚を組んだ。まだ若く未成熟な身体だというのにその色香はもはや並のものとは格が違う。居並ぶ男衆達が生唾を飲む程にその肢体は艶かしいものであった。
「で、では。ご当主のご指示通りに進めます。おい!早速行くぞ!」
「はっ!」
月宮家の当主はまだ学生の身分。それの帰りを20分まえから直立不動の姿勢で待ち続けていた黒服の集団は一斉に動き出した。
若く美しい当主の姿に戸惑う事もあるが、それ以外はほとんどにおいて優秀な人材が揃っている。特に月宮零の側近達はその中でも指折りの実力者達である。皆結界の支配者になれるだけの器があると言った方がわかりやすい。
「さぁ、どのくらい持つのかしらね。早く見てみたいわ」
フフッと妖艶に微笑むその姿にドキリとして足を止める若い組員のケツを蹴り上げる者もいるなか。天使のような微笑みを浮かべながら悪魔的な思考を進めていく。
この時、この瞬間からもう威力偵察は始まっている。何気無しに流した情報をいつ掴むか、いつ動くか、制圧にかかる時間は?人材は、戦力は、数は?その全てを測る為の生贄なのだ。
「威力偵察による生贄だと分かっていても動かざるおえない警察の下の国家魔術師達は扱いやすくて助かってたけど…。今回の新組織はどうかしらね。今度は地区ごとでは無く…文字通り全国から。全力で来るなら数も分かるはず…」
ブツブツと天才の思考は続く。月宮組の当主としての力量を疑う者はもはや組員にはいないのであった。
「皆さん。餌がばら撒かれました。早速食いつきましょう。全力で」
月宮組が情報を流して1時間もしないうちに、位置の特定まで済んだ義政正義が国家魔術師達に号令を発する。数人だけの集団ではない。戦闘員に分類される、前線で野良魔術師達を捕まえる役割の国家魔術師だけでも200人ちょっとはいる。戦闘を直接行う者達が6人ほどしかいなかったこの地区にそれほどの精鋭国家魔術師が全国から招集されたのだ。
野良魔術師を1人残らず狩り尽くす。その為にまず都内に無数にある結界を全て潰すのだ。ひとつずつ丁寧に、確実に皆殺しにする。結界のひとつを軽く潰せるだけの戦力が義政正義をトップとした新しい国家魔術師組織にはあった。
「質問ええか?義政さん」
「えぇ。構いまさんよ…確か…関西の方でしたよね?」
「せや、俺は北上ゆうねん。よろしゅうな。そんで質問やけど、餌ゆうのはどういうことや?」
「言葉の通りですよ…っていうのは最近ここに来たばかりのあなた方達には意地の悪い言い方ですね。月宮組はご存知で?」
「あぁ、全国に広く分布しているヤクザやろ?関東に本拠地があるっちゅう」
「そうです。そちらも非合法の集団の中に魔術師が出てきているでしょう?」
「あぁ、こないだまでそいつらとドンパチやっとったからな」
関東に次いで関西も国家魔術師と野良魔術師の抗争は激しい。魔術師による事件も国家魔術師の死亡数も関東に近い数字を出している激戦区なのだ。
「関東、特にこの東京都内はそれが顕著です。いまや、ほとんどの非合法組織に野良魔術師が確認されています。当然、その親玉的存在の月宮組は…」
「なるほど!かなりの戦力を保持しているってことやろ!」
「ええ。こうして集まった我々に真っ向から対抗出来るだけの戦力があると考えていいでしょう」
この一言に集まった国家魔術師達の表情が固くなる。ここには200人の精鋭国家魔術師がいるのだ。国直属の才能を認められた者達。それに真っ向から戦える戦力。
「……本当かいな…それ。そんな組、聞いた時無いで…」
「ええ、残念ながら。だから皆様をお呼びしたんです。我々だけでは時間がかかりすぎる」
「……まるで時間をかければ倒せると言ってるように聞こえるで」
「ハハッ、話を戻しましょう」
義政正義が悪魔堕ちなのは有名な話だ。だからだろうか、冗談に聞こえないのは。やろうと思えば1人で全てを皆殺しに出来ると、そのように思った北上を初めとした地方の国家魔術師達は冷や汗を垂らし底の知れない義政の話の続きを素直に待つ。
「餌というのは今回の情報が我々を誘き出すものだからです」
「罠…っちゅうことか?」
「それは分かりません。しかし、可能性は低いでしょう。何故なら、月宮組は慎重な事でも有名です。すぐに動く事は無いでしょう。恐らくは我々の実力を測ることが目的」
「だとすれば、全力で動いて月宮組に我々の手の内を知られるのは不味いんじゃないんですか?」
また別の歳若い女性の国家魔術師が手を上げて発言した。至極真っ当な意見である。
「当然の疑問ですね。しかし、据え膳食わぬは男の恥と言うでしょう?」
「……私は女性です」
「失礼、例え方が悪かったですね。冗談は得意ではないのです。そうですね、なんと言えばいいか。言葉を選ばすに言うとすれば…無駄…ですかね」
「無駄?」
「えぇ、無駄です。最終的には結界は全て潰し、野良魔術師は全員処刑します。早速そのうちのひとつを潰す機会ができたのです。それが、月宮組の監視の元であってもすぐさま全力で潰しにかかるべきでしょう?手の内を知られてもたいした問題ではありませんから」
「ですから…その我々の力を見て恐れ、隠れられたら余計時間がかかりるのではないかと。それに、手の内を知られるのは結構重要な問題だとおもうのですが!」
「国家魔術師に月宮組が恐れる?なんの冗談ですか?そんなはずないじゃないですか。月宮組は慎重ですが、臆病ではありませんよ?彼等は逃げません。それに、どうせ彼等は全てを調べ終わるまで動きません。ならば、最初から知ってもらった方が早い。また、この状況は彼等も望んだこと。彼等はどうせ全力で我々を潰しに来ます」
「逃げないって…それに…いちヤクザが国の直轄国家魔術師を潰しに」
「来るで。魔術師の力はそれが出来るゆうのは知っとるやろ?嬢ちゃん」
「……そう…だったわね。でも、月宮組が望んだっていうのは?」
「彼等は我々国家魔術師達に戦争を仕掛ける気です。それに勝利し取り締まる者達からの解放。…かは、分かりません。ただ、彼等は我々との戦争と勝利を望んでいる。小さい集団を叩くのでなく、決戦戦力での我々の壊滅をね」
「何故…そんなことを知っているのですか?」
「なに、刑事歴が長いからねぇ」
そうぼかした義政正義。言うつもりは無いということだろう。
「………わかりました。どちらにしても、決定権があるのは義政正義さんです。質問は以上です」
何となく煙まかれたような気分を味わいながら渋々と引き下がる。
義政正義は月宮組の成り立ちを知っている。十年前の事件の発端の一つでもある。それを義政正義が知らないわけが無いのだ。知っているのはこの集団の中でも年配のもの達だけだろう。
「では、他に質問のある方は?…………いないですね。では、行きましょう。国家魔術師24時の始まり。まず、最初の結界から一斉摘発です」
使い古されたコートをバサリと翻し進む義政正義の後ろに国家魔術師達がそれぞれ歩き出す。不満そうな若い女性の姿もあれば好戦的な笑みを浮かべる関西人もいる中。不安を押し隠し気丈に歩く相馬とその後ろを不安そうに付いていく鮎川の姿があったのだった。
邂逅はちけぇだよ。




