葛藤
まぁ、時期的に何で更新が途絶えたかわかる方も多いと思いますが…。本当に映像綺麗ですね(小並感)
はい。更新遅れて申し訳ございませんでした!
「ガハッ…貴様…武器が…」
「う…る…せぇ…。黙って…死ね」
震える腕。尽きかけの魔力を掻き集めて今にも砕けそうな錆びた刀を顕現させる。それを、突き刺し終わりだ。相手が死んだと確信した瞬間に錆びた刀は全て粉々に砕ける。赤錆の粉末が返り血と混ざり史人の身体に引っ付いている。その姿はまさに錆びた人間を表している。
「こ…れで…5人目…」
「あー、そろそろ限界か。3人目で苦戦したのが原因だな」
魔術師の中でもっとも数が多いのは武器魔術師だ。だからだろうか、史人も自身と同じ武器魔術師が相手だと慣れている為にそれほど苦戦はしないが、問題はそれ以外の魔術師。
3人目の村上組員が、大井と同じ攻撃魔術を放つタイプである。威力と精度は大井とは別次元の格の低さだが、それでも防御手段が無い史人からするとかなり苦戦した。
何度も攻撃を受けて、吹き飛ばされる。何とか潜り込んでも、防御魔術に錆びた刀の威力の低さは致命的であった。相性が悪すぎるともいえる。
そこからは泥試合のような魔力の消耗戦である。攻撃魔術と防御魔術は史人の錆びた刀を顕現させるものより遥かに魔力がを食うので魔力切れた組員を倒すことはできたのだが。史人も負傷し、魔力と体力を大幅に削られた。
「まぁ、今日は課題が見えた分だけマシか。さぁて、帰るぞ」
「…………………」
「返事が無い、屍のようだってか。しょうがねぇなぁ…」
意識を失い顕現していた赤錆の刀も細かい粒子になり消えていく。完全に魔力が尽きたのだろう。力なく路上に崩れ落ちた史人を苦笑いしながら肩を抱えて帰路につく。
「待てや、コラ。テメェらこのまま帰れると思ってんのか、アァ!!」
味方が次々に殺される異常事態に気がついたのか。息をきらして急いで駆けつけたようだ。数も多く今出せる戦力を総動員してこの場に現れのが分かる。
「……三秒やる。俺は今機嫌がいいからな。そのくらいは待ってやるよ」
「何言ってんだ?テメェ」
「わからねぇか?雑魚ども。この実力の差が、よ」
魔力が、規格外の魔力が大井の身体から吹き出した。大井からすれば控えめの威嚇。それでも分かる、今この瞬間見逃していただいている事に。
「………っ!?」
「今から1時間そこから一切動くな。それを破ったら…」
死ぬ。自覚すら出来ずに、簡単にあっさりと。まるで、目の前の蟻を踏み潰すが如く容易に。目の前の化物はそれをするだろう。
喉を僅かに震わせる事すらできない。その身体は刻みつけられた恐怖に完全に支配をされていたのだ。冷や汗がポタリと落ちることさえ許されないような静寂。
「……最近の魔術師は数ばっか多くて質が低いねぇ…。この程度で動けなくなるなんてよぉ」
あ、いっけね。なんか今のおっさん臭いなと独り言を呟きながら、その場から離れていく大井。
その背中が見えなくなり、1時間が経っても誰も動き出す者はいない。結局、動き出したのはそれからさらに2時間が過ぎようとした時に腰から崩れ落ちるようにへたりこんだのが最初だ。それ程の時間が経っても全員がうるさいくらいに心臓が鳴り響いていたという。
「お前弱いなぁ。弱い、弱すぎるよ。それじゃ、誰も守れないし救えない」
「くっくっく。わかってるって?そうだろうね。わかってて言ったもの」
「何より、この俺がお前の側にいる時点で何よりお前の弱さを証明している」
「凡人、凡才、けっしてその身では届かぬ物ばかりの君。だと言うのに、降りかかるであろう困難と期待は君が生涯をかけて得られる実力でも指の先すら決して届きはしないと来た。そりゃ、何でも良くなるのも分かるけどね」
「だからって…俺を側に置かせるとはなぁ。死にたくないのか死にたいのか…ってもっと酷いか。贖罪、罪悪感、責任、復讐と託された願い。人間って馬鹿だよなぁ…そんなもの捨ててしまえば楽になるのに。まぁ、俺にとっては都合が良いんだが」
「おっと。大井武蔵とかいう野郎はやっぱり勘がいいな。そろそろ隠れるぜ。でも、覚えておけ。お前のすぐ近くに常に俺がいることを。そして、早く全てを理解し契約させろ。俺という存在は嘘は決してつけねぇからな。約束してやる、お前の守りたい救いたい者を、守り救う力をお前にくれてやるとな」
「くっくっく……。本当に愚かな奴だよ。俺は全く理解ができねぇや。救いたい人の中に……自分が無いんなんて」
あぁ、なんだ。やっぱりいるじゃねぇか。これで――――。
何か深いところにある混濁した意識はここ浮上し、目が覚める。記憶が曖昧だ。何かと話していたような気がするが、その内容は全く思い出せない。ただ覚えているのは、仄暗い感情が渦巻いていた事だけ。
何故そんな感情が芽生えたのか。けっして、届かぬ己の才への憤怒。亀の如き速度でしか成長できない歯痒さ。それが、ドロドロした薄汚い他力本願に繋がる。力を得る為なら何でもするという言い訳をしていると自覚しながら。しかし、それだけではない。けっしてそれだけでないのだ。
それだけ、悶々としていてなにかを呼びせているのに。それでも、まだそれに手を伸ばしはしない。決定的に、それに手を伸ばすまでまだ何か足りないのだ。それは勇気であり、覚悟を決めたはずでも尻込みする己でもある。ここに来て、大井に会って青葉に会ってそれが弱い己がより強くなった。
望む力が目の前にあるのに、他力本願に縋るどうしようもなく薄汚ない己の弱さを認めているのに。それでも、手を伸ばせない。
多分、なにかはそれすら見透かして嗤っている。そんな強さの欠片も無い史人が己に手を伸ばす出来事が起こる事を待ちながら。
なにか、貴様の力など借りない出ていけ、と言える気高さも。プライドも。才能も力も。己の中にある芯も。全てが錆び付いて動きはしない。錆び付いた刀は決して輝きはしないのだ。
「だから……今、大井がこんな俺を研いでくれてんだろうが…。なにかに、取り込まれないように」
迷いを深める。大井武蔵はこんな俺に期待してくれている。錆びた刀から鋭く硬い刀へ昇華することを。
「なのに……俺は…」
なにかがいた事に心底安心してしまった。お前はいらないとは言えなかった。それが余計に史人の心をきつく締め付けてくる。錆びた刀のまま死のうとする史人と、輝く刀になり生きる事を望む大井武蔵。それに対する申し訳なさが。
己の弱さを開き直る事も出来ずに、だからといって強くなることも出来ずにもがく。どちらかを選ばず、ただこの場に甘えるという選択肢がいつまで通じるか。
「やめた……答えは出ないし」
ここで考えていてもじゅくじゅくと腐っていくだけ。答えはその時出そう。結局、追いつめられないと選択出来ない愚か者なのだ。
ただ、願わくばこの幸せな生活が少しでも長く続きますように。と、思いながらまた意識を手放すのであった。
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