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震えながら進む


何回かホストクラブでの仕事をこなして慣れて来た時期。歓楽街に怪しい男達が出歩く事が多くなった。


「ウチの店に来るヤクザもんも多くなったな」


「……そうですね。っていうか、瞬殺…」


オラオラッとホストクラブの扉を開けたが最後。すぐに身体を燃やされて店から逃げ帰っていく。史人が戦っている魔術師達とは違い、一定の力を持つ魔術師達だが大井武蔵にしてみれば底辺もいいところだ。


「しっかし、何処の結界の魔術師達かねぇ。ウチの結界内には支配者はいねぇはずだが…」


なにせ、大井が来た時に全て殺し尽くした。なのに、大井がその座につかないから未だに支配者と呼ばれるだけの力のある存在が史人がいる結界にはいないのだ。


「国家魔術師達の巡回が減ったなと思ったら今度はヤクザもんの巡回だ。めんどくせぇ…」


ここの歓楽街のシャバ代を取ろうとする他の結界の魔術師達。自身の結界近くから取れる金だけでは足りないというのか。それとも、支配者のいない結界など怖くないと舐めているのか。


多分両方だ。何かで入り用になり金を掻き集めている中で、いけるのであれば史人達が住む結界を掌握してしまおうとしているのが本当だろう。


結界自体は都内に大小含めて数がある。国家魔術師に特定されて潰される結界や、新たに出来る結界ができることだってある。個人で自分の家だけを結界にすることも可能だし、やっているものも少なくない。


「よし。決めた。史人仕事が終わったら行くぞ」


「行くって…何処ですか?」


嫌な予感して、顔を顰める史人。だいたいこういう時の大井武蔵の閃きは良かった試しがないからだ。


「今来た魔術師達の親玉を叩く。つまり、隣の結界に顔を出すぞ」


来たよ。ほら、やっぱりだ。この人頭のネジが数本所じゃない程抜けている。


「いや!待ってくださいよ!そんな簡単に…相手は一人じゃないんですよ!?隣の結界内で一番強い人が率いるヤクザ達じゃないですか!」


「だからなんだ?このままだと、あいつら俺らの結界内に入って荒らし始めるぞ?お前の妹の美紗希にも危害が及ぶかもしれねぇぞ?いいのか兄貴?」


「ぐっ…」


ニヤニヤしながら弱い所をついてくる大井武蔵。確かにいつかはそうなる可能性が高い。だが、敵の本拠地にそのまま行くのは…。


「結界内は無法地帯だからなぁ…妹がああいう下衆のなぐさみ者になる可能性だってあるわけだ。嫌だろ?」


「………行きましょう」


「話が早くていいねぇ。それにしてもシスコン過ぎて普通に引くわ…」


「そりゃあ、そうですよ。妹の幸せを奪った俺が美紗希に与えられるのは穏やかに暮らせる今だけ。その為なら俺の全てを捧げるつもりなんですから」


なんのことは無い。当たり前の決意。史人の原動力の全てだ。


「――――なるほど。兄妹揃って重傷だ」


「…?」


「いや、何でもねぇよ。今は都合がいいからな。それに、出来の悪い息子を鍛えるいい機会だ」


「悪いって…まぁ…いいとは思ってないけど…」


少し不貞腐れる史人を見て、大井は可愛い息子を見守る父親のように優しい笑みを浮かべる。その表情とは、全く想像ができない事を今からするつもりであるが。







「おい、ゴラァ!ここから先は村上組の居住区だ!雑魚野良魔術師如きが入っていい場所じゃねぇんだよ!」


「やっぱりそうか。わかりやすい建物で助かったぜ。じゃ、史人やれ」


何とかは高い所が好きというが、そういう意味では確かにわかりやすい所に住んでいた。比較的に近くにある地区的に隣の結界。史人は初めてだが、それでも何処に親玉がいるかというのは一目で分かる。ひとつだけ際立って高い建物…レトロな雰囲気のあるビルがあるのだ。


「はい、分かりましたよ。クソっ…マジでやるのかこれ」


悪態と共に意識を集中させる。幾度の戦闘を経てある程度こなれてきた武器魔術の展開。赤黒い稲妻が少しづつ強くなり刀の輪郭を形作る。


「てめぇ…俺ら村上組に喧嘩を売るつもりか?」


「ちげぇよ。三下、潰しに来たんだ。ほら、史人。キリキリ働け」


悠然と構える大井、腕を組んで静観の構えを見せるのを、横目で見て悪態をつきたいのを堪え、駆ける。


「ッチ!まさか、頭のおかしい奴の相手をすることになるとはな!」


いかにもチンピラと言った風貌の男ではあるが、武器魔術師としてはそこそこの実力者であることが武器展開の時点で分かる。また、武器の格も錆びた刀の史人より数段上の短い槍。と言うより、武器魔術師で史人より下がいないと言うべきか。


「うるせぇ!いいから俺の刀の錆になれ!」


「最初から錆びてんじゃねぇか!!」


二人の会話に腹を抑えて笑っている大井に軽く殺意を覚えながら、戦闘は続く。


「ラァッ!」


「ぐっ!?」


1本目、3回打ち合っただけで砕けた。最近かなり強度が上がっているのにである。


なるほど、結界内を支配する村上組とかいう組織の1員なだけある。史人が今まで戦ってきた同じ新人同士の拙い戦いではない。武器魔術師としての格も練度も全く違うのだ。


「っは…もう武器が砕けてんじゃねぇか。そんなカスみてぇな武器魔術でよく俺らに喧嘩を売れたな」


「俺が好きで売ったと思うならテメェの目は腐ってるよ…」


「錆びた刀を使っている奴よりマシだろ」


「違いねぇ!!」


チンピラの冷静なツッコミに大井が相槌を打って更に笑う。この自称お父さん、どっちの味方なんだろう…。


「……問題は後ろの偉そうな男だな。お前は強そうだ…何もんだゴラ」


武器の砕けた史人はもう戦力外だと、注意の対象を大井に移すチンピラ。


「おいおい…いきなりラスボス戦ってのは気が早すぎだぜ?ウチの四天王はしつけぇんだ」


「なにを……っ!?」


「ッチ!もう少しだったのに!だが、まだまだぁ!」


自身に集中が向いていない間に武器をこっそり再展開して、油断するチンピラに大段上に上げた刀を全力で振り抜いた奇襲攻撃は後一歩の所で失敗する。


が、そこから体勢が崩れたチンピラに猛攻をしかけた。卑怯と言うことなかれ、この刀が砕かれて油断した敵に奇襲するというのは最弱能力者の史人が最も得意とする戦法なのだから。兵は詭道なりというやつである


「テメェっ!武器が…クソっ!復活が早すぎる…!」


「舌噛むぞォ!もっと喋ろゴラァ!」


会話が成立しないのは剣戟に全ての意識を捧げているから。明らかに攻撃の精度が上がった史人の連撃。錆びた刀にまたヒビが入り砕けたが、今度はほぼ瞬時に新たな刀を出して更に速度を上げる。


「グウッ!」


「ラァァア!」


槍という構造上、超接近戦に弱い。中距離かある程度の接近戦が適切な武器なのだ。だからか、格下であるはずの史人に完全に懐に入られ、狂ったような連撃が更に崩れた体勢を崩していく。


徐々に無理な体勢になっていき、遂に錆びた刀の刀身がチンピラの脇腹を強かに打ち付ける。いくら錆が酷い刀とはいえ、切れ味が全く無い訳では無い。僅かに肉を裂き血が吹き出した。


「グッ!?……だが…これで」


錆びた刀では致命傷は与えられない。肉を裂いたが、内臓に達している訳では無いのだ。多少血が吹き出る程度、更に押し込まれようと抜こうとしようも、時間が出来る。その時間を利用し…体勢を立て直して…。


「なっ!?」


チンピラの瞬時の判断は普通の武器魔術師が相手だったら的確であったが、、高速で刀を再生させる能力者の史人が相手だ。最悪の予想をしなかったのが敗因になるのだろう。


史人は脇腹を切り裂いた刀をすぐに手放し、痛みで一瞬動きの止まったチンピラの胸を穿つ2本目の錆びた刀を展開させた。


「まっ!」


「ウラァァア!!」


充分に引き絞った身体から放たれる突き。それは錆びて切れ味などほとんど無い刀でもその胸を貫通させるだけの威力があることを証明した。


「……ガフッ…てめぇ…村上組に…喧嘩を売って…ただですむ…ガァア!」


「うるせぇよ。さっさと死ね。美紗希にかかるかもしれない火の粉の消化活動がこれからも控えてんだから」


胸と脇腹に錆びた刀をはやして倒れるチンピラ。それに、三本目を追加して完全にトドメを刺す。


「ハァハァ…きっつ…クソ強かったぁ…」


「雑魚狩りに時間がかかりすぎだ。こいつは油断して仲間を呼ばなかったが呼ばれてたら死んでたぞ?」


「…分かってますよ…。次はもっと早く殺します」


んな事言われても武器魔術師になって1ヶ月しか経ってないし…とかは言い訳にはならない。早く強くなると誓ったその日から、強くなるその日まで全ては実力不足なのだ。


「分かってんなら次行くぞ!次!才能がねぇ奴は数をこなすしか無いからな!」


「……ふぅ。行きます」


息を整えて錆びた刀を引き摺り進む。こんな無茶は大井がいる時しかできない。大井武蔵がつくってくれた成長の機会。これを逃していつ成長できる。この機会を逃す訳にはいかないのだ。そう震える自分に言い聞かせる。


全ては美紗希を守れる力を得るため。弱気になって折れそうな心を何度も何度も叱咤する。まったく、覚悟を何度決めても折れそうになる。そんな性根が、錆びた刀の脆さの原因なのだろうと、自嘲げに考えながら。多少自分を誤魔化しながら大井の背中を追うのであった。


戦闘描写下手なクセに、興に乗っちゃうから冗長になるんだよなぁ。他の作品の戦闘描写みてヘコむ毎日を送っている作者。慈悲の感想をどうぞ!

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