新たな組織
「いやいや、お見舞いすみませんねぇ」
都内の最新式で大規模な病院。その広い1室に義政正義はいた。全身に包帯を巻かれて痛々しい姿で。
「いえ、私達がもっと早く駆けつけていれば…」
広い1室だからだろう。魔術師課のメンバー、人数を絞っても10人以上になってしまった国家魔術師達がゾロゾロと入ってもまるで狭さを感じない。
「あれは私が先走った結果ですよ。貴方達に責任はありません。少々熱くなってしまって、冷静さを欠いていた私が悪いのですからね」
それに、とニヤリと好戦的な笑みを浮かべて続けた。
「アレは1人で戦って勝てる存在ではありません。その為の国家魔術師課という組織なのですから。囲んで物量で押し潰す。その方が結果的に被害は少なくなるもの、貴方達の頑張りが悪を断ち人々を救うのです。……私の愚かな姿をみて肝に命じて下さいね」
「い、いえ!愚かなど!国家魔術師最強の呼び声高い義政さんがそんな事をおっしゃらないで下さい!」
「最強…ね。ははっ、妄執の産物だよ。そんなものに価値は無い。それより、この組織の方が遥かに価値があるものだ。君達には期待しているんだよ。特に新人の相馬くん、鮎川くん。君達はこの国家魔術師課が始まってから類を見ないほどの才能値を叩き出した。その才能を存分にいかしてくれよ」
「「は、はい!」」
お見舞いに来ていた国家魔術師達の後ろに気まずそうに立っていた相馬と鮎川は突然名前を呼ばれ背筋を伸ばし大きな声で返事をしてしまった。
「馬鹿!ここは病院だぞ、大声を出すな!」
「す、すいません」
「ハハハ、構いませんよ。ここには私しかいませんからね。………ん?誰か来たようですね、入って構いませんよ」
場が少し和んだ時に、扉からノック音が聞こた。義政の許可を得て失礼しますと男性の声が聞こえて扉が開かれた。
「初めまして。私くしは警視庁の者です。義政正義様で間違いありませんか?」
「えぇ、中々個性的な名前ですからね。私と同姓同名は知りません」
「……お話があります。極秘なものとなる為に部屋にいらっしゃる皆様は…」
「分かった。すぐに出る。じゃあ、義政さん。これでおいとまさせていただきます。早く元気になってくださいね」
今回のお見舞いの代表格の男が義政に頭を下げて、それに合わせて周りの人達も頭を下げる。
「えぇ、ありがとうございます。皆さんもお仕事頑張って下さいね」
相馬と鮎川が扉を開けて全員を出した後に、一礼してその後を追う。これで義政正義と警視庁から来た男の二人きりになったのだった。
「それで、警視庁は何を私に求めるんですか?」
「……それは警視庁の本部の方で話すと。今すぐに来てもらうように言われました」
「酷いですねぇ…こんなに瀕死の重傷なのに」
「……何か情報の不一致があったと見られます。すぐに連絡して対応を…」
「いえいえ。大丈夫ですよ。人間扱いされてないのは、私がもう人間では無いからですもの」
首や足、右腕などにある骨折を治す固定ギプスを人間離れした力で容易に剥がして包帯すらビリビリと破いた。包帯の下、傷一つない見事な筋肉が見える。
「なっ…」
言葉を失くす男。動けるはずが無い。全治半年の生死を境を何度とさまよった大怪我だ。だと言うのに、その上半身には怪我の痕跡ひとつ無い。
「さぁ、行きましょうか。私にとっての吉報である事を祈りますよ」
その笑みは男の背筋を凍らせるものがあった。深淵を見ている気分になる漆黒の瞳は、隠しきれない狂気が含まれている。
「悪魔…」
口をついて出た言葉。義政正義の人となりは善人のように気性は穏やかで部下に慕われている男。のはずだが…、そんなちゃちなものでは無い大きな闇を心に秘めている、それはまさに悪魔を心に飼っているような、そんな予感が口を滑らせた。
「えぇ、悪魔ですとも。寿命は人間の倍あり、この身体が老いる事は無い。怪我だって、ほらこの通りですからね。才無き者が至った1つの道が悪魔という化物ですから」
「…………悪魔を取り込んだというのは…」
「真似はお勧めしませんよ。先に精神が壊れる事がほとんどです。どうしても、やりたい時は死んでも復讐したい相手が出来た時くらいですかね」
国家魔術師御用達のコートを羽織り歩き出す義政正義。その背中を不気味な存在を見るような目で見るのであった。
「国家魔術師、義政正義。只今参上いたしました」
「来たか。…ふんっ、瀕死の重傷が聞いて呆れる。悪魔堕ちなど人間では無いな。忌々しい…」
「辛辣ですね。忌み嫌う悪魔堕ちになんの御用でしょうか?」
「最近、魔術師が起こしたと思われる事件が急増している。それは知っているだろう」
「はい」
なにせ義政が水増しした事件も多くある。分からないはずが無い。
「その増え方が異常なのだ。取り締まりを強化したにも関わらず増加は収まらない所か加速している」
それは義政も体感していた。明らかに義政正義が水増ししただけでは説明がつかない数が野良魔術師になり国家魔術師に追われている。捕らえる数も大幅に増えているが、それを上回って魔術師という存在が増えている。
「今現在分かっているだけで国家魔術師達は1人で10人の野良魔術師を捕えないといけないだけの数の差がある。とてもでは無いが、対応しきれないだろう?」
「はい、正直手が回っていません」
これは本音だ。義政正義自身、家に何日も帰って無いのだから。増える野良魔術師に全く対応しきれていない。野良魔術師達の無法地帯と呼ばれるところも出来てきた。
「このままでは、関係の無い国民達が魔術師の存在を知ってしまうのも時間の問題だ。それに国連から脅されたようで…国からもかなりの圧力をかけられてな。魔術師という存在の駆逐に本腰を入れる。その為に、新たな組織を作るんだと。勿論非公式だが…強い権限と潤沢な予算、優秀な人材を回す。そこの組織のトップにお前を国はご指名だ。受けるか?」
「浅学非才の身の自分をご指名いただけるとはありがたいことです。勿論、お受け致します」
「ッチ。……今のうちに魔術師課の連中を整理しろ。新たな組織の長として国家魔術師達の手網をしっかり掴んでおけよ。後で正式な通知が来るだろうから、それまで待て。話は終わりだ」
「わかりました。では、失礼します」
一礼して退出する義政正義。それを機嫌の悪そうな目で見送る警視庁のトップ。
「ったく、国はなに考えてんだか。あんな危険な奴に全国の国家魔術師の管理を一任するなんて…それに」
警視庁とは違う独立した組織、そのトップに義政正義は立つ。国家魔術師を指揮し野良魔術師を捕らえる専門の組織を国が創設したということは。
「警察は…役に立たないという判断をしたわけだろう…」
ギリッと歯軋りをして屈辱に震える。国は警察組織ではもはや無理だと判断したことになるわけだ。
しかし、警察組織を使わず自衛隊も使わず何故国は独立した組織を創設したか?なぜ、そのトップに義政正義を置いたか。魔術師は世の秩序を乱す存在。あってはならない存在
その真意に気がついてニヤリと口角をあげる者は義政正義。今はただ一人である。
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