新たな才能
怪しい光を放つ繁華街。その怪しさは仕事に疲れた男や女達の興味を煽る。火傷しそうな危険な香りは、平穏な日々を生きる現実人にとってのスリルでもあるのだ。
そんな、店が軒を連ねる繁華街の中心部にその店はあった。漆黒の看板に金色のお洒落な英字。店自体も他の店より大きく、かなりの高級店であることが分かる。
店に入って一番最初に執事服を着た上品な年配の男性が丁寧に席まで案内する。店の格の高さから、お客様の質の高さも伺えた。高級リムジンから降りて次々に入店してくる揃って身なりのいい服に身を包んだ女性達。
「そんな貴婦人を喜ばせもてなすのが俺たち、ホストの仕事だ」
そんな店に史人達はいた。
「いや……これ。ホストクラブじゃないですか。えっ?こんな所で働いてるの?大井さんって」
「あぁ、短時間でかなり稼げるからな。ま、ここで働いているのは本当だが、俺達の役割は他にもある。ってか、そっちがメインだ」
なんとも、ここら辺はヤクザなどの縄張りがあるらしくその為の店のボディーガードらしい。ちなみに、今のご時世魔術師という存在は裏の世界では普通らしくヤクザ達にも魔術師というのがいるらしい。
「本来はこんな大きな店、俺達みたいな小さいファミリーじゃ護衛に雇って貰えねぇんだぞ?ここのトップとは昔馴染みだから雇って貰ってんだ。感謝しろよ?」
ファミリーとは、ヤクザの組みたいなものなのか?まだ史人には分からないが…多分生半可なファミリーを雇うより大井武蔵一人を雇った方が遥かに安全だということを知っているのであろう。
「確かに大きい……いや…大きすぎません?」
座席数は…かなりゆったりしているのに100を超えてそうだ。働いているホスト達も皆一級のイケメン達。ショタっぽいのから、年配のダンディなおじ様まで、何でもござれだ。
史人が並ぶと同じ人種とすら認識されない人達ばかり。
「えっ?俺何するの?」
裏方で料理?俺料理なんてやった時ないよ?掃除?まさか、接客はありえないとして…。
「何言ってんだ。俺と同じに決まってんだろ。お前も護衛兼ホストだ。金持ちのお嬢ちゃん達をもてなすんだよ」
………馬鹿じゃないの?いや、大井武蔵はいいよ。最近流行りのイケメンじゃないけど筋骨隆々でワイルドな印象があるナイスミドルだ。ここにいても違和感はないよ?でもね、俺は違うじゃん。そんなん美紗希を男装させた方が遥かにいいに決まってる。
そんな事を言ったら、うるさそうに耳を抑え。
「うるせぇな。もう許可は貰ってんだよ。行くぞ、習うより慣れろだ。勿論いったん着替えてメイクしてからだがな」
許可したやつ馬鹿じゃ無いの!?そんな心の悲鳴はだれにも届きはしない。
「よぉし。ゴミ屑から小金持ちのちょいひねくれた坊ちゃん位にはなったな」
「ゴミ屑って…いや、確かにかなり変わったけど」
みすぼらしい史人が、髪を固めて軽くメイクを施し黒いスーツを来ると確かに見れるようにはなった。でも、イケメン達には数歩劣る。
「ホストってのに順位があるの知ってんだろ?ここには今120人位のホストがいるんだがよ、俺は8位だぜ?」
「えぇ!?嘘!」
大井武蔵だって、違和感は無いかもしれないが際立って輝いている訳ではない。それでもTOP10の一人だと言う。
「つまりだ、ホストってのは女を喜ばせたもんが上に行けんだよ。顔がどうこうってのは一定の基準さえクリアすれば案外関係ねぇんだ」
つまり、基準ギリギリで合格した史人にもチャンスがある訳か。ちなみにここは完全出来高制だ。お客が取れなかったら、お給料は無し。タダ働きである。
「そうそう、護衛が必要になることなんてねぇからよ。稼ぐにはここで稼がねぇと暮らしていけなくなるぞ?家賃とか食費とかは何とかなるが、パーカーとかの魔術道具が手に入らねぇと何もできなくなるからな」
「わかりましたよ。やれるだけやってみます…。ってそう言えば俺と美紗希は犯罪者として写真が出てますね。いいんですか?」
「ここで働いているホストはみんなスネに傷があるやつばっかだから気にすんな。それに、ここに来るお嬢ちゃんや婦人方はそんなニュース見ない」
「……どんな生活している人達なんですか…」
「文字通り世界でも数パーセントしかいない金持ちの娘さんやご婦人達だ」
「俺…そんな人たちの喜ばし方なんて分からないですよ…」
なんだろう。少し泣きたくなってきた。戦闘とは少し違ったベクトルで精神を削ってくるのだ。
「ほら、兄ちゃん頑張れ。妹を守るってことは稼がねぇとならねぇだろ。必死に働いて、妹を楽させろ」
その言葉を聞いて意識が変わる。そうだ。ここで弱音を吐いている暇は無い。金はいくらあっても困るものじゃないのだ。ここで稼がねば何処で稼げるか分からない。
「……やります…」
「ホストクラブで戦闘モードに入るなよ…」
目に殺る気を帯びる史人に呆れる大井。まぁ、このくらいの勢いがあった方がいいかと放置する。
その後史人のまさかの才能が開花するなど、この時の大井には全く想像出来なかった。
その時、美紗希と青葉はそのホストクラブの姉妹店いた。ここはホストクラブではなく、落ち着いた雰囲気のバーだ。青葉がここで働いているというのが理由の1つだが、何より美紗希を史人から離す為にここに連れてきた。
愛する兄がホストクラブで働いているなんて言ったらどんな反応するか。必ず反対するのが目に見えている。
「はぁ、安心した。青葉さん、夜の世界なんて言うからなんか怪しい店なのかと思ったわ」
「史人もこの店の姉妹店で働いている。だから大丈夫」
「同じような店で働いているってことね?」
「……ん」
コクリと頷く青葉。まぁ、似ている。飲食店のくくりには入るだろう。同じような店だ。ただ、少しだけサービスが違うだけなのだから。
美紗希が知った時にはホストクラブが決して手放さない稼ぎ頭の1人になっている。見つかったら辞めさせられるだろうなぁなんて、気楽に考えている青葉の予想すら遥かに超える結果が待っているなど誰も分からない
「よい!よいぞ!この子気に入った!一番高いのちょーだい!」
「は、はい!」
店が最も繁盛する時間。開いた口が塞がらない程驚いている大井武蔵の視線の先には殺る気に満ち溢れていた史人が酒を飲んで更にハイになっている姿だ。熟練ホストを押し退けて上客を掴み、大層気に入られていた。
「ありがとう、美しいご婦人。では、お礼に私めに出来ることを…なんなりと」
「まぁ、美しいなんて。言われなれているけど!貴方に言われると嬉しいわぁ!今日は最高に楽しいわ!もう1本!」
「かしこまりました。もう1本入ります!」
酒を飲んで理性が飛んだからなのか。殺る気スイッチが入ったからなのか。分からないがいつも纏っている辛気臭そうなオーラ、それが今日は金色に輝いている。実力主義のホスト達もその姿を嫉妬と憧れに満ちた目で見ていた。
「誰だ…あいつ…」
数時間前にあっさり売上を史人に越された大井は、豹変し過ぎた史人を見て口元を引き攣らせるのであった。
人って意外な才能があるものですからねぇ。
感想よろしくお願いします。




