第7話、修練と1層深部
本日2話目
聡は洞窟蝙蝠と戦っていた。
糸放出スキルと予備武器の大型ナイフの練習のために。
糸を発射し、伸びきる前に自切する。それを繰り返すことで弾幕のように糸を発射していた。
こうして飛び回る対象に当てる練習をしている。
対する蝙蝠は全身糸まみれで、ただ滞空するのにも苦労しているようだった。
動きが鈍ってきたところでナイフを構え、突く。そして切る。ナイフを当てたり外したりを何度か繰り返し、蝙蝠は煙になった。
「これくらいは一発で決めたいな」
ナイフの扱いはまだ練習が必要だった。
魔石を拾おうとすると、逆魔力探知の反応を捉える。
すぐさまそちらに向き直り、ランプで照らす。
しばらく観察すると洞窟猪が姿を現した。
聡は粘着性を高めた糸を放射状にして地面へとばらまき、数歩下がる。
猪の突進。だが地面の糸に捕らわれる。
バランスを崩し、地面に倒れた猪にナイフを構えながら近づく。
「いい練習台だ」
そのまま動きを確かめながらナイフでトドメを刺す。
聡にとって、1層中部のモンスターは敵ではなくなっていた。
大蜘蛛との戦闘経験、そこで得た祝福とスキルが聡を1段階強くした。
そろそろ進むべきだと考え、足を動かす。目指すは1層深部。
聡は深部との境界を何の抵抗もなく越えた。
深部の景色は今までと変わらない。しかし、魔力濃度が少しずつ、だが確実に高まっていくのを感じる。
聡は戦槌を構えながら進んでいく。
最初に遭遇したのは洞窟鹿だった。後ろを向いていて、こちらには気づいていないように見えた。
「角に警戒だな」
聡の肩幅ほどの大きさの枝角は先が尖っていて、容易に人体を傷つけられるように見えた。
聡はゆっくりと鹿に歩み寄る。
音を立てないように近付いたのだが、あと2歩ほどの距離で気付かれてしまう。
鹿はこちらに振り向こうとする。
聡は不意打ちのアドバンテージが残っている間に攻撃を当てようとする。足を大きく踏み出し、胴体に向けて戦槌を振るう。
だが、振り返った鹿の角で弾かれる。振り始めで威力の乗っていない攻撃は有効打を与えられなかった。
聡の隙を察知したのか、鹿が角を押し付けるように前進してくる。
この距離では戦槌を振れない。そう判断した聡は戦槌を柄の中間で持ち、左右の角を同時に止める。
一瞬の拮抗。聡が鹿を押し込み始める。
鹿はそれを嫌がったのか戦槌を振り払うと、数歩後ろへ下がった。
正面からぶつかっても角が邪魔で有効打は入らない。
そう考えた聡は策を練る。
あの鹿は角が大きい分、重量バランスが前に寄っているはず。そこを突く。
そのためにはまず足を止める。粘着性の高い糸を地面に撒き散らしながら後ろへ下がる。
下がった聡を見て鹿が近づいてくる。
糸地帯に足を踏み入れるかと思いきや、そのまま跳躍。聡の目の前に着地。勢いそのままに角を振り回そうとする。
聡は1歩下がりながら左手から糸を発射し、鹿の角に繋ぐ。無理やり引っ張る。
鹿がバランスを崩し、前のめりになる。
そのタイミングで鹿の角を目掛け戦槌を振り下ろす。
角を根元からへし折る。
鹿が下がろうとする。
聡はもう1本の角を目掛けて糸を出す。
命中。引き合いになる。
鹿の動きが止まった瞬間、無防備となった脳天に槌を振り下ろす。鹿が煙へと変わる。
ドロップした魔石と毛皮を拾いながら聡は考える。
「あの鹿、地面の糸を避けてたよな……」
中部の猪は地面の糸を避けていなかった。
たまたま鹿の移動方法と聡の罠の相性が悪かったということも考えられるが、聡の脳裏にはある仮説が浮かんだ。
「もしかして奥に行くほどモンスターは賢くなるのか?」
モンスターは魔力が濃くなるほどリソースを多く持てるというのがメジャーな仮説だ。
単純に考えると、脳に回すリソースも増えるはず。
実際、魔力を多く吸収していた大蜘蛛は、子蜘蛛をけしかけたり自分の攻撃を当てるための囮に使ったりしていた。
異常個体だからかと思っていたが、この説なら辻褄が合う。
聡には荒唐無稽な考えでは無いように感じた。
「戦術をもっと磨かなきゃいけないな」
深部を奥へと進むと、遠くに明るい光がさしていることに気づく。
「眩しい……」
光を追うと、視界がいきなり緑一色に変わる。
鬱蒼と生い茂るジャングルが見えた。2層浅部だ。
聡は行きたい気持ちをぐっとこらえ、光に背を向けた。
そう遠くないうちに向かう。だが今日は準備が出来ていない。
そう思いながら、来た道を戻った。
その日は深部でモンスターを何体か狩り、帰路についた。
数日後、聡は初めて2層へ足を踏み入れた。
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