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第8話、2層浅部

本日3話目

 ダンジョン2層浅部に広がるジャングルは、地上にあるそれとは大きく違っていた。

 最も大きな違いは生き物の気配が無いことだ。

 獣の姿が全く見当たらない。

 獣どころか鳥や虫すら1匹もいない。

 それらが出す音、鳴き声、匂いまで、全く無かった。

 見えるのは木々だけ、聞こえるのは木々のざわめきだけ。

 聡はその異様な森に圧倒されていた。


 事前に調べた情報によると、2層全域は常に真昼のような明るさだそうだ。

 地下なのに太陽が輝き、しかもずっと動かない。

 気が滅入ってしまいそうだが、メリットもある。

 太陽を道標として使えることだ。

 海やジャングルのように分かりやすい目印がない場所では北極星のように動かない星が目印になる。

 ここではそれが太陽というわけだ。

 聡がここへ来るまで数日を要した理由も、太陽測量を習得し、遭難のリスクを無くすためだった。


 他にも、太陽が出たまま天気が変わることがある、切った葉や枝が一瞬で消えるなど様々な異常があるらしい。

「ようやく面白くなってきたな」

 聡はこの先に待ち受けるダンジョンの謎を想像して、思わず笑みが溢れる。


 聡はナイフで枝葉を切り払いながら進む。

 進んでいくと逆魔力探知に反応があった。

 明らかに大きい魔力吸収量。1層に生息するモンスターの数倍はありそうだった。

 

 聡はこのまま進むか迷う。1層でもっと祝福を得てから来れば良いのではないか。そんな考えが頭をよぎる。

 だが聡は進んだ。ただの無謀ではない。

 好奇心もあったが、一番の理由は大蜘蛛よりも魔力吸収量が小さかったからだ。

 大蜘蛛に勝ったという事実が、聡の背中を押した。


 モンスターを植物の影から視認すると、なぜ魔力吸収量が多かったのか分かった。単純に群れていたのだ。

 そこに居たのは森林狼。6匹集まっている。

 聡は原因を見つけて胸をなで下ろす。

「囲まれたら苦戦しそうだ。他のモンスターを探そう」

 心の中でそう呟き、その場を離れようとする。


 その瞬間、背後から強い風が吹く。

 数秒後、狼たちがこちらを見る。そのうちの1匹と目が合う。聡の全身に鳥肌が立つ。

「臭いか。不味い、気付かれた」

 

 聡と目が合った狼が咆哮する。

 それを合図にしたかのように、狼たちが一斉に走り出す。

 しかもこちらを包囲するかのようにやや広がって向かってきた。

 聡は囲まれないよう左と前方に粘着糸を撒き散らす。

 今回は相手が素早い上に数が多い。だから、外した時の隙を最小限にするため手数重視で戦うことにした。

 右手に戦槌、左手にナイフを構え、動き出すタイミングをはかる。


 狼たちは3対3に分かれて左右に回り込む。

 だが粘着糸を大きく避けた。そのせいで左右の到着タイミングがずれる。

 聡は右のグループに切り込んだ。

 先頭の狼が飛び掛かってくる。戦槌を横薙ぎに振るう。脇腹に命中。狼が吹き飛ばされ、煙に変わる。

 

 2匹が右と正面から同時に襲い来る。

 正面の狼は口にナイフを噛ませて防ぐ。

 右の狼は戦槌で防ごうとするが間に合わない。脛に噛みつかれる。

 聡は戦槌を振り下ろし、右足に噛みついてきた狼を煙に変える。

 噛みつきを防いでいた狼には膝を叩き込み、浮いた所をナイフで突く。

 狼の前足に切り傷が出来るが致命傷にはならない。

 左手首と左ひざから同時に粘着糸を出し、手を掲げて狼を空中で固定。そのまま戦槌で倒す。


 聡は後ろを向く。もう1グループの狼は遠巻きにこちらを観察している。1層のモンスターではありえない挙動だった。

 こちらも現状を整理する。

 先程噛まれた部分は生地を貫通されず、ほぼ無傷だった。

「まだナイフはうまく使えないな」

 単純な練度不足に加え、利き手ではない手で持っていることから、有効打には期待できない。

 戦槌一本で行こうかとも考えたが、先程防御には使えたのでそのまま持つことにする。


 聡はこちらを見つめている3匹の狼を見る。

 まずは分断から。

 そのうち一匹に向けて粘着糸を伸ばす。命中する直前鳴き声。糸の先端は狼に当たる直前であらぬ方向を向く。

「本当にスキルを使ってくるのか」

 2層のモンスターは探索者のようにスキルを使うことがある。

 事前に調べて知ってはいたが、自分の目で見るのは初めてだった。


 聡はいつ襲い掛かられても良いように、防御姿勢を保ちながら狼に近付く。

 10歩以上の距離。狼が動く。今度は縦1列に突っ込んでくる。

 聡は下がりながら前方広範囲の地面に粘着糸をばらまく。

 狼は粘着糸などお構いなしに突っ込んできた。

 1匹目が糸に絡まれ、止まる。2匹目と3匹目が1匹目の背中を踏んで聡めがけて跳ぶ。


 聡は素早く反応できなかった。

 狼は粘着糸を避けると思っていたからだ。

 左腕と首筋に噛みつかれる。

 首筋への噛みつきはフード越しだったが、聡に死の予感を与えるのには十分だった。

 慌てて左手のナイフを手放し、首に噛みついている狼を引き剥がす。

 そのまま粘着糸のある地面へと放る。更に上から粘着糸を掛け、動きを封じる。

 左腕の狼は戦槌で自分ごと叩いて処理した。


 糸に絡め取られた狼を倒しながら考える。

「明らかに頭が良くなってるな……」

 遠くからの観察、スキルの使用、仲間を踏み台にする動きなど、明らかに知性があるような行動をしていた。

 

 以前考えた、先に進むほどモンスターの頭が良くなっていくという仮説が現実味を帯びてきた。

「もしかしたら会話できるモンスターがいたりするかも……」

 口にしてから考える。もし本当にそうなら、ダンジョンの謎にもっと近づけるかもしれない。

 聡はこの先に広がるダンジョンの謎に思いを馳せながら先へ進んだ。

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