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第5話、大蜘蛛戦2

 何よりも不味いのは、囲まれること。

 今までの経験からそう判断した聡は、巣のあるエリアを脱出するため大蜘蛛に背を向ける。

 大蜘蛛に背中を向けた状態は糸吐きに対して無防備だ。壊れかけた口からは糸を飛ばせない。そう願いながら走った。

 走りながら手近の子蜘蛛を潰す。

 前方に巣がなくなる。振り返る。

 そこには20匹以上の子蜘蛛が見えた。


 そこからは泥沼の戦闘だった。

 聡は囲まれないよう壁に寄り、じりじりと下がりながら子蜘蛛を片端から煙に変える。

 だが手数が足りない。

 

 処理しきれなかった子蜘蛛が飛びついてくる。

 同じ数だけ服に穴が開く。傷の数が増える。

 子蜘蛛を引き剥がして倒す。一手遅れる。さらに飛びつかれる。

 下半身が子蜘蛛に覆われる。戦槌を自身ごと打ち付け無理やり倒す。

 それでも身動きが取れなくなる。


 衝撃。大蜘蛛が子蜘蛛を巻き込みながら体当たりをしてきたのだ。

 子蜘蛛の処理に集中していた聡は受け身を取れず吹き飛ばされる。

 視界が真っ白になる。体が宙に浮く、地面を転がる。止まる。全身の痛み。

「痛……」

 それでも身体に鞭打って立ち上がる。生き残るために。

 

 聡はボロボロだった。

 下半身は隙間なく噛み跡が残り、傷跡からは肉が見えていた。

 張り付いていた子蜘蛛がクッション代わりになったおかげか、体当たりの影響は小さく、まだ立ち上がることができる状態だ。

 上半身は体当たりの直撃をモロに受け、全体に打撲痕が広がる。

 特に胸と左腕に違和感。動かすたびに強い痛みが走る。おそらく骨にヒビ。


 大蜘蛛、そして残った子蜘蛛と十分距離が空いていることを確認し、低級ポーションをあおる。

 少し間をおいて傷が塞がり始める。

 下半身の出血が止まり、上半身の痛みが軽くなる。完治には至らない。


 もうポーションはない。

「ここが正念場だ」

 聡は大蜘蛛と子蜘蛛の同時攻撃を警戒しながらじりじりと距離を詰める。

 大蜘蛛が鳴き声を上げる。子蜘蛛だけがつっこんでくる。

 聡は大蜘蛛を視界に捕らえたまま子蜘蛛を相手取る。

 ゆっくり下がりながら一匹ずつ確実に仕留めていく。


 大蜘蛛が脚をたわませ、跳んだ。聡の真上に落ちてくる。

 聡は数歩後ろに下がり避ける。子蜘蛛が下敷きになり潰れる。

 着地の隙を狙って後ろに回り込もうとする。大蜘蛛が聡に尻を向ける。

 

 背中を向けることに違和感。聡はすぐさま戦槌を振り下ろす。

 命中と同時に尻の先から糸が発射される。

 勢いで狙いがぶれ、聡の足に当たる。

 口から出た糸とは違う、周囲に設置されていた巣のような形だった。

 足と地面が離れなくなる。


 大蜘蛛がこちらに向き直ろうとする。

 動きを封じられた聡は、焦りからパニック気味に戦槌を振り回す。

 足の一本に当たる。だが有効打にはならない。

 大蜘蛛がこちらを見た。聡には勝利を確信した目に見えた。


 大蜘蛛の口から糸が発射される。右手と戦槌の柄に当たる。糸が引かれる。

 今の状況が、聡の脳裏に1つの奇策を浮かび上がらせる。

「やるしかない」


 聡は左手が張り付くことも厭わず右手を糸ごと掴む。

 手足を曲げ、足元の巣の粘着力も使って引く力に抗おうとする。

 しばらくの間、綱引きの構図になっていた。

 しかし、綱引きでは足が多く体重の重い大蜘蛛の方に軍配が上がる。

 聡の体が限界を超える。悲鳴が聞こえるかのような全身の痛みを意思の力で無視する。

 足元の巣がぶちぶちと音を立てながら千切れていく。


「今!」

 足元の巣が完全に引きちぎれた瞬間、聡は跳んだ。真正面に向けて。

 跳びながら右手の糸を引く。加速する。

 蜘蛛の目の前で着地。全ての勢いを乗せ、大蜘蛛の口に戦槌を突き込む。

 大蜘蛛は反応できなかった。

 命中。大蜘蛛の顔がめちゃくちゃになる。

 大蜘蛛がよろめく。聡は戦槌を引き抜き、追撃しようとする。

 

 視界の端に動くものが映る。大蜘蛛の脚だ。

 大蜘蛛は左右の足でがむしゃらに攻撃を仕掛けてきた。

 ほとんど目が見えていないのか、狙いは雑だ。

 聡は一旦距離を取ろうとする。だができない。先ほどの糸がまだ繋がっている。

 糸を外そうにも両手が繋がっているため、簡単には外れない。

 大蜘蛛の方も口が破壊されているため嚙み切ることも出来なさそうだ。

 いわゆるチェーンデスマッチ状態だった。


 聡は覚悟を決め、大蜘蛛に密着する。

 狙うは脳。棘を突き刺して確実に破壊すると決めた。

 1振り目、命中。肉をかき分ける感触が手に伝わる。

 2振り目、外れる。左腰に大蜘蛛の脚が突き刺さり、バランスを崩したからだ。

 3振り目、命中。戦槌の先端が違うものと接触した感覚。

 右肩と左足に大蜘蛛の脚が刺さる。無視して戦槌を振り上げる。

 振り下ろす。命中。大蜘蛛が煙に変わる。


 「終わった……」

 聡はその場に崩れ落ちる。戦闘時間ではなく、密度が聡の心と体を限界まで消耗させていた。

 全身傷だらけで、糸にもまみれていたが、それでも勝利した。

 「勝ったんだ……」

 少しの間地面に倒れてからやっと、ようやく聡の中に勝利の実感と生き残ったことへの喜びがこみ上げてくる。

 それと、もう迂闊な行動はしないという反省も。

 聡はもう少しだけ休むと、地面の魔石と大蜘蛛のドロップを拾い今度こそ帰路についた。


 ダンジョンを出て、魔石を売り、低級ポーションを2本買った。1本はその場で飲み、もう1本は予備としてポーチにしまった。

 予期せぬ買い物のせいで今日の儲けは無くなってしまったが、聡には得たものがある。

 大蜘蛛のドロップ品であるスキルオーブだ。

 これは鑑定に出した。どんなスキルが入っているかは未知数だが、自分の戦闘スタイルに合っていれば使おうと考えている。

 

 聡は家に帰りながら、今日得たものを数える。

 新しい感知、異常個体との戦闘経験、スキルオーブ。

「これでまた先に進めそうだ。」

 ダンジョンにはまだ謎も、探索できる場所も残っていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

物語的に区切りが良いので今日の投稿はここまでにします。

続きは毎週土曜日の昼~夕方にかけて投稿したいと考えております。

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