第3話、新たな使い道と危機
聡は1層中部の奥まった通路で洞窟蝙蝠2匹と戦っていた。
倒すためではなく、自身を鍛えるために。
前回の洞窟猪戦では攻撃を外して隙を作ってしまった。
大きな隙は、ソロだと致命的だ。
だから、攻撃を当てる練習と外したあとのリカバリーの練習を始めた。
洞窟蝙蝠は中部の中では比較的弱いモンスターだ。
不規則な飛行で探索者を惑わせてくるものの、攻撃方法は噛みつきのみ。
しかも近づいてから噛みつきまでワンテンポ遅れるという特徴があった。
つまり動いていれば当たらないということだ。
聡は足でステップを踏みながら戦槌を横薙ぎに振るう。
1匹に命中する。だが浅い。少しバランスを崩すだけに留まる。
もう1匹が噛みつこうとしてくる。
聡は戦槌を引き戻し、柄で押しのけるようにして噛みつきを逸らす。
一旦距離を取り、状況をリセットする。
「コンパクトに振りすぎたな」
戦槌は取り回しが難しい。
聡が戦槌を選んだ理由は、素人でも威力を出せる上、ハンマーと棘を相手によって使い分けられると考えたからだ。
だが使ってみると、重心が先端に寄っているために細かな動きが難しいというデメリットも感じる。
次の攻撃計画を頭の中で立てていると、背後から足音。
蝙蝠の羽ばたきの音で聞こえづらかったが確かに聞こえた。
後ろをチラリと見ると、洞窟猪がいた。既に突進を始めている。
1秒もしないうちに距離が半分になる。
「マジか」
聡は戦槌を抱えるように持ち直すと、猪に向きなおらず、壁に飛んだ。
そのまま三角飛びの要領で猪をギリギリで飛び越える。
猪が振り返る。蝙蝠は近づいてくる。
聡は蝙蝠へ牽制のように戦槌を大きく振り、後ろへ走る。
蝙蝠と猪の速度差を利用して別々に相手をする作戦だ。
予想通り猪が突っ込んでくる。
猪のほうが早い。追いつかれそうになる。だが蝙蝠とは十分距離を離した。
聡は足音を頼りに大きく横に避けようとする。
左足に衝撃。猪の牙がふくらはぎを打っていた。
バランスを崩しながらも片手で猪の背中に戦槌を振るう。
命中。浅い。猪の足が僅かに鈍る。
その隙に右足でジャンプするように前へ出る。
「ぐうっ」
左足で着地。鈍い痛みを戦闘の興奮でごまかす。
そのまま戦槌を振り下ろす。
ジャンプの勢いを乗せた打撃は猪の脳天を直撃する。煙が視界を覆う。
残った蝙蝠を手早く処理して怪我部分を見る。
軽い打撲のようだった。
戦闘に問題ないとはいえ痛みがあるのも事実。
聡は余力があるうちに帰路につくことを決めた。
先ほどの戦闘を思い出しながら考える。
今回の問題はケガをしたことではなく、不意を打たれたこと。
「今後ソロで活動するには索敵も必要だな」
基本的に、ダンジョンでは奥に行くほどモンスターの密度が増える。
狩り手が少なくなるのと、魔力濃度が上がるからだ。
モンスターは周囲の魔力を吸って生きているから、魔力濃度が上がるとその分生息密度も増える。
不意の遭遇や挟み撃ちなどで死ぬかもしれない。
そう思うと索敵は今後の重要課題だ。
帰り道、深部との境界近くを通った。
深部の方向を見ながら、少しだけ足を止めて解決方法を考える。
「常に音を聞き逃さないようにする」
却下。うるさい戦闘時や音を立てずにいるモンスターに対処できない。
「魔力の濃さを調べられればモンスターが近づいてきた時分かるかもしれない」
魔力濃度は普通の人間には感知できない。
測定するには専用の機械か、魔力感知などのスキルが必要だ。
その考えに却下を付けようとした時、聡には魔力吸収があることを思い出した。
常に魔力を吸収し、自身のエネルギーに変えるスキル。
自身の魔力が回復する感覚は分かる。
そのスピードを確認すれば魔力濃度をある程度測れるのではないか?
早速実践する。
聡は生活魔法で指先に火を灯しながら自身の感覚に集中する。
何度も火を付けたり消したりする。
そのたびに増減する魔力の感覚を覚えようとする。
だが、何度繰り返しても、火を消したあとは感覚が長続きしない。
「流石に一度じゃ成功しないか」
今日は諦めて、今度こそ出口に向かって歩き出した。
聡は未練がましく何度も火を付けながら帰路を歩く。
その時、明らかに魔力の回復が遅れた感覚があった。
1分ほど引き返す。回復の遅れはない。
また戻る。回復の遅れを感じる。
「とうとう感覚を掴んだ!」
この感覚の先にモンスターがいれば、新しい索敵が成功したことになる。
その理論を実証すべく先へ行く。
聡は自然と走り出していた。
回復量を再確認する。進む。また再確認する。
これを繰り返すうち、ほとんど魔力が回復しなくなる。
モンスターの存在を確信し、先へ進む。
通路の奥から何かが動く音が聞こえてくる。
結論から言うと、索敵は成功していた。
感知力の低い聡が見つけられるのは細かな変化ではなく明らかな環境の変化だけ。
そして周囲の環境を変えるほどの事態は異常と紐づいている。
索敵の可能性に浮かれていた聡はその可能性を完全に見落としていた。
目の前には2mほどの大きさの蜘蛛。1層中部ではまず見かけない大きさ。
明らかに異常個体だった。
しかもこちらを認識している。
正直言って逃げ出したかった。
しかし初見の、しかも異常個体に背を向けたら命の保証はない。
だから逃げられない。聡は覚悟を決めて戦槌を構えた。
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