↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/48

第2話、1層中部

 翌日。聡は攻略費用を稼ぐためにダンジョン館へ行った。

 ダンジョンを知りたい。その願いを叶えるためには武具や消耗品など先立つものが必要だからだ。

 何か有用な情報がないかと壁に貼られているチラシに目を通す。

 そのほとんどが浅部のダンジョン構造や異常個体モンスターの警告、パーティー相談所やギルド員募集のチラシなど。

 ダンジョン情報は先日までのネット調査で大体頭に入っている。

 パーティーも今の段階では不要だ。むしろリスクを増やすだけだ。

 

 基本的にパーティーを組む者同士は攻略実績が同程度のものが好ましいとされている。

 聡は第1層でしか活動していない。だから組める相手は第1層で足踏みしている者に限られた。

 そうした者らはほとんどが食い詰め者だ。彼らは金以外に興味を持つ余裕がない。

 金やドロップ品をめぐるトラブル、動機の変化などによるメンバーの離脱リスクを考えると現段階ではパーティーを組むべきではないと判断した。


 結局あまり役に立つ情報は無かったが、パーティーについて考え直す良い機会になった。

 第1層や2層ではソロでも通用するだろうが、その先は未知領域も多い。

 一人では攻略に行き詰まることも出てくるだろう。

 いずれはパーティーを組まなければならない。でもそれは今ではない。

 「まずは第1層を攻略してから考えよう」

 皮算用しそうになる思考を現実に引き戻し、聡は入場受付を済ませる。

 

 ロッカー室に移動し、いつものルーティーンを行う。

 貸しロッカーから防具を取り出す。

 下着、防刃作業服、プロテクター、手袋、ポーチベルト、ランプ、探索用リュックと順に装備していく。

 最後に戦槌をベルトに固定したら体の具合を確認し、準備運動をする。

 ポーチの中の地図と低級ポーションを確認する。

 リュックの中の予備のランプを確認する。

 最後に指差し確認をする。

 準備は万端だった。

 

 聡はダンジョンへと入った。

 今回の目標は当面の資金稼ぎと、ダンジョン1層中部の偵察だった。

 まずは奥の偵察から。体力を消耗する前に危険な行程を済ませておきたかった。

 魔力吸収スキルは空腹感を消してはくれるが体を癒す効果までは無い。過信は禁物だ。


 運よく1度もモンスターに出会わず浅部と中部の境まで到着した。

 境はあくまでも地図上のものだったが、聡には見えない壁があるように感じた。

 そこから一歩踏み出す。正直不安はあった。だが、それ以上の好奇心が聡を前に進ませた。


 ダンジョンでは奥へ行くほど魔力が濃くなり、モンスターは強くなる。

 研究者は魔力が濃くなるとそれに依存して生きているモンスターはリソースを多く持てる。だから強い。そう推測していた。

 

 進みながら地図を確認する。

 このまま付近を探索し、モンスターと何回か戦ったら浅部に戻る。

 無策で先に進むのは危険かもしれないが、ここに限っては問題無い。

 1層中部は食料品をドロップするモンスターが生息しているため、それを狩る探索者が多い。

 いざという時助けを求められるし、浅部に戻る時も人通りの多い所を通れば安全に戻れる。

 そう考え、聡は中部に進むことを決めた。


 警戒しながら歩いていると、正面から足音。明かりで照らすと、1匹の洞窟猪だった。

 猪は光を感じたのかこちらに気づき、目を向けてくる。即座に突進してくる。

 人間の腰まである大きさの猪が突っ込んで来る光景は聡に恐怖を感じさせた。

 モンスター狩りには慣れているとはいえ、初遭遇の敵と戦うのは1年ぶりだった。

 それは相手が手加減してくれる理由にはならない。

 

 震えそうになる足を意志の力で押さえつけ、戦槌を振り上げる。

 出来るだけ大きいステップで横に躱す。通り過ぎる前に戦槌を振り下ろす。

 突進は聡に当たらなかったが、聡の攻撃もまた空を切り、地面にぶつかる。

 金属音が響く。振り返った猪は戦槌が出した大きな音に気分を害したのか、こちらを睨んでいるかのように見た。

 

 また突進。先ほどより近い位置からの突撃に、空振りで姿勢を崩した聡は対応しきれなかった。

 体を投げ出すようにして避ける。

 地面に手をついて素早く立ち上がる。

 猪を見る。丁度振り返った所だった。

 攻撃を当てられなかったこと、ギリギリで掠めていった突進に焦りと恐怖で手が震える。


 それからは戦槌を振るのをやめ、回避に専念した。

 無理に振るうと手からスッポ抜けてしまいそうだったからだ。

 繰り返し突進を躱すと動作に余裕が生まれ、それに伴うように頭に冷静さを取り戻す。


「行動が分かれば対策できる」

 よく観察してみると猪は突進と振り返りを交互に行うようだった。

 それが分かると自然と手の震えが止まる。

「対策ができれば勝てる」

 突進が終わってから振り返るまでの時間、確実に動きが止まる。

 そこを狙うしかない。

 そう結論づけ、実行に移す。

 

 猪の突進。今回は余裕を持って躱す。

 武器を振らず、通り過ぎていった猪を追う。

 猪が立ち止まる。振り返りかけたところでゴルフスイングの要領で戦槌を振る。

 脇腹を狙ったが、ワンテンポ遅れたのか前足に棘が付き刺さる。

 猪がバランスを崩し横倒しになる。

 立ち上がる暇を与えず、槌で何度も追撃する。

 何度目かの打撃で猪が煙に変わった。


 聡は息を整えながら周囲を警戒する。

 自分の他に音は聞こえない。

 初めて戦うモンスターだった。それでも勝てた。

 その事実が、聡に第一歩を踏み出した実感を与えた。

 

 その日は中部で何度かモンスターを倒し、余裕があるうちに浅部へと戻って狩りを続けた。

 普段とは違う戦いをしたせいか、浅部のモンスターが弱く感じた。

 ダンジョンを出てドロップ品を売却する。

「これが最大の問題だな」

 スマホに表示された金額は浅部だけで狩りをしたときと殆ど変わっていなかった。


 モンスターが落とす魔石は奥に行くほど魔力量も多くなるが、その上昇量は微々たるもの。

 買取金額もそうだ。

 他のドロップ品の価値はそれよりもマシだったが、モンスターを多く倒さなければ安定して入手できない。

 そのため結局は格下狩りに落ち着いてしまう。

 無理に先へ進むのは危険度の上昇度合いに比べて割に合わないというのが一般的な考え方だった。

 聡自身もそう考えて1層浅部でのみ狩りをしていた。


 その割に合わなさを飲み込んでなお先に進むにはどうすれば良いのか。

「難しいな」

 モンスターは一人で倒せる。地図もある。

 いずれ訪れるであろう限界の壁はかすかにだが頭を覗かせていた。

リアクション、高評価、ブックマーク、感想をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。