第45話、最深部2
前に出た聡は黒い聡に向かって走る。
黒い聡は戦槌を振り上げ、待ち構える体勢をとった。
聡は5歩ほどの距離から手投げ矢を投擲する。
それは黒い戦槌に命中し、黒い液体に変えた。
戦槌を破壊された黒い聡は左手から粘着糸を放射状に放つ。
聡は放たれた粘着糸を左手で巻き取るように受けながらなおも直進する。
その勢いのまま、黒い聡を左右に両断した。
両断された黒い聡は断面をくっつけて再生しようとするが、それを許さない。
再生する前に何度も戦槌を振るい、無数の断片へと刻んでいく。
聡の視界の外から黒い舞が氷柱を飛ばして攻撃しようとする。
そのとき、聡と黒い舞の間に氷の壁が生み出された。舞の援護だ。
壁の向こうから氷と氷がぶつかる音が響く。
だが聡はそれに見向きもせず、目の前の黒い液体を分離することに集中した。
数分の時間が経ち、黒い液体が再生しなくなったことを確認した聡は魔力吸入器を使う。
そして魔力がほぼ回復したことを確認した聡は舞に叫ぶ。
「今から黒い舞さんを倒しに行きます!攻撃準備をお願いします!」
「分かった!援護はできなくなるから気をつけて!」
聡は氷の壁の端から顔を出して、黒い舞の様子を窺う。
黒い舞は相変わらず舞の言葉を復唱しているようだ。
聡は黒い舞を観察し、舞の方向を向いた瞬間に駆け出した。
完全には視界の外にいたわけではなかったようで、黒い舞が聡の方向を向いた。
黒い舞が頭上に氷柱を生成し、聡に向けて飛ばす。
聡は魔力噴射で無理やり体を横に動かし、氷柱を避ける。
そのまま黒い舞の作り出した氷の盾に隠れた。
聡は新しい攻撃が飛んでこないことを確認してから戦槌を振りかぶる。
そこから魔力噴射を最大出力にして氷の盾を叩く。
1度目の打撃でひびが入る。
2度目でひびが更に大きくなる。
そして3度目の打撃で盾が崩れた。
聡はすかさず叫ぶ。
「舞さん!今です!」
その声とほぼ同時に氷柱が飛んできて黒い舞に刺さり、そのまま氷漬けにした。
聡はすぐさま氷漬けになった黒い舞に近付き、その体をバラバラにした。
舞が聡に近付き、ねぎらいの言葉を掛けようとしたところで、次の異変が現れた。
聡たちの背後から人の話し声や生活音が聞こえてくる。
振り返って見ると背後の空間が裂け、その向こうにダンジョン入り口前の光景が広がっていた。
聡と舞は全く予想外の展開にあっけにとられていた。
ダンジョン館にいる人々も空間の裂け目に気づいたようで、騒ぎが起き始める。
そのとき、壁についていた小玉が動き出し、ダンジョン館の見える裂け目へと飛んで行った。
聡たちはそれを止められるわけもなく、小玉がどんどん飛んでゆく。
やがて小玉のほとんどが裂け目の向こうに飛んでいくと、何事もなかったかのように裂け目は閉じた。
「今の……夢じゃないわよね?」
「夢……ない……」
聡の代わりに大玉のあった場所から声が聞こえる。
少なくとも、聡たちが聞いたことのある人間の声ではなかった。
聡たちは再び振り返る。
そこには黒い液体で出来た人間が座っていた。
確認してみると、バラバラにした黒い聡と舞の残骸が無くなっている。
再度戦闘になるかと思い聡たちが武器を構えると、黒い人間は片手を開いて前に突き出した。
人間同士では相手を制止するときに使うポーズだ。聡たちは警戒から思わず動きを止めてしまう。
「時間……いる……」
再度黒い人間が話す。言葉はたどたどしいが、聡たちに待ってほしいようだ。
聡たちは小声で相談する。
「ここはとりあえず従って待ってみましょう」
「今すぐ逃げるべきじゃない?」
「逃げてもさっきの小玉に追いかけられて終わりです。相手との技術か能力の差は歴然。
何をしても勝てない相手が明確にこちらを認識しているんですから、とにかく出方を見ましょう」
「そうね……月野さん、笑っているわよ」
舞は若干あきらめ気味にそう言った。
「そりゃあ笑いますよ。ダンジョン側の会話できる相手が現れたんですから、待ち望んでいた状態です。
舞さん、ここが正念場ですから、どうにか生き残りましょうね」
聡たちは2時間ほど待った。聡は期待に満ちた、舞は警戒に満ちた目つきで黒い人間を見つめていた。
すると黒い人間が話しかけてきた。
「呼び名は月野さん、舞さんでいいかな?私の名前は————だ。
日本語の発音では表せないから、今はクロで良い。黒いからね」
聡と舞に緊張が走る。先ほどまでたどたどしく話していた謎の存在が、たったの2時間で流暢に話し始めたからだ。
しかも若干おどけた口調で。
聡が答える。
「呼び方はそれでいいです。もしかしてたった2時間で日本語を習得したんですか?」
「そうさ、不自然なところはあるかい?」
「いえ、ありません。完璧です」
聡たちとクロの会話が始まった。
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