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第34話、新装備と観察

 聡は探索用具店に来ていた。

 前回氷柱に貫通された手袋と靴を買い替えるためだ。

「ついに全身モンスター素材装備になるのか」

 借金に追われていた頃からは考えられない装備の充実を目前にして聡は感慨にふける。

 昔の聡なら、コストパフォーマンスと安全性の観点から奥に進もうとはしなかっただろう。

 だから高価な装備も必要なかった。


 しかし今は体のわずかな部分を守るためだけに、割に合わない大金を投じようとしている。

 人生はどうなるか分からないと今になって思う。

 もし魔力吸収スキルの使い方に気づかず生きていたら。

 

 そんなことを考えながら聡は手袋と靴を買い終えた。

 湿地ワニのドロップ品から作られたものだった。

 基本的にモンスター素材は奥に行くほど有用になる。

 例えば防具に使うなら祝福での強化具合が変わってくるのだ。

 だからもっと奥のモンスターの素材で作られた防具が良かったのだが、この店にはそれより高性能な品は置いていなかった。

 

 探索用具店を出た聡はその足でダンジョンへと向かった。

 道中でより高性能な防具を扱う店を検索する。

 しかし、検索にヒットしたのはどれもデザイン性を重視した店ばかりで、肝心の高性能防具は見つからなかった。

「次からは素材持ち込みでオーダーメイドするしかないな」

 聡は次の防具更新に素材が必要なことをメモしつつ、ダンジョンへ向かう。


 聡は新しい防具をつけてダンジョンへと入った。

 なじみ具合を確かめながら2層浅部まで向かう。

 まずは森林狼を探して浅部を歩き回る。

 その間に走ったり、様々なステップやジャンプなどを繰り返して新しい靴の感覚を体に覚えさせる。


 しばらく探していると、魔力吸収反応を捉えた。近づくと森林狼の群れだった。

 狼の前に出た聡は粘着糸を撒き散らして戦槌を構える。

 そして襲いかかってきた狼たちを蹴散らす。

 魔力噴射スキルを使いこなせるようになった聡にとって、森林狼はもはや敵ではなくなっていた。


 粘着糸に絡まった最後の1匹を眺めつつ、手袋と靴を噛ませて耐久試験をしていたところ、あることを思い出した。

「モンスターとは本当に意思疎通ができないのか?」

 

 以前舞と話した、モンスターが人間を襲う理由について気になったのだ。

 聡が生態について調べたときは、モンスターは一様に人間に敵意を持って襲いかかると書かれていた。

 だが、モンスターを懐柔しようとした記事などは見つからなかった。

「自分で試すしかないか」

 聡はさらに粘着糸をかぶせ、動きを完全に封じてから狼に近づいてよく観察する。


 狼の目は聡を凝視している。鼻と口は激しい呼吸を繰り返しており、体は拘束を振り払おうともがいている。

 いわゆる戦闘態勢だ。意思疎通をしようとする気がないのは素人の聡でもわかる。

 聡はそのまま狼を観察することにした。

 粘着糸が千切れそうになるたびに拘束し直す。それを繰り返すうち30分が経過した。

 

 「こっちを攻撃しようとするだけか……」

 狼の様子は全く変わらない。聡を攻撃することしか考えていないようだ。

 検証に必要な道具などを持っていないこともあり、聡は狼にとどめを刺して次の検証へ向かった。

 「準備もなしに検証しようとするのは早計だったな。

 でも30分経ってもばてないのはすごかった。

 やっぱり地上の生物とは構造が違うんだ」


 聡はその後中部の大蟹のもとへと向かった。

 そこで大蟹の泡を受け、打撃への耐性も問題ないことを確認した。

 泡を糸の振り回しで処理し、魔力噴射を十分に使いながら大蟹の腹を攻撃して煙に変えた。

 大蟹と戦っている最中にも聡の頭にはモンスターとの意思疎通のことが浮かんでいた。


 防具の試験を終えた聡はモンスターとの意思疎通の方法を試すことにした。

 一度地上に出てホームセンターやスーパー、ペットショップなどを回って検証に必要なものを買い揃える。

 そして再びダンジョンに入り、1層浅部へと向かう。

 狙いは洞窟鼠。知能の低そうなモンスターを餌付けして敵意以外の感情を引き出す作戦だ。

 そうしてしばらく探索し、鼠を粘着糸で拘束することに成功した。


 まずは餌付けを試みる。魔石やスーパーで買ってきた肉、野菜、穀物、水などを順に鼠の前に置いて反応を窺う。

 鼠はどれにも全く興味を見せず、もがくばかりだった。

 続いて鼠を撫でる。親密さを感じさせるために。

 鼠は聡の腕に噛み付こうとするばかりで敵意以外の反応を示さない。

 最後は使い捨てカイロと毛布で体を温めてみた。

 やはり鼠は何の反応も示さず、聡に襲いかかろうとするだけだった。

 

「やっぱり専門家に相談しないと難しいかな」

 聡は拘束を解いて同じことを繰り返したり、鼠から離れてみるなど、思いつく手段をすべて試してみたが、鼠の行動は変わらない。

 広げた道具を片付けて鼠を処分した聡は、とぼとぼと家に帰った。


 それから聡は舞との共同探索日までモンスターの生態について調べなおしたが、これといって成果はなかった。

 だが、調べ物の途中で則教授からメールが来た。

 3層研究のための研究探索が決定したとのことだ。

 聡は意識を切り替え、則教授に会いに行くことにした。

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