第32話、研究探索の準備
「今日はありがとうございました」
「こちらこそありがとう、それじゃあね」
聡たちは3層浅部の探索を終え、それぞれ帰路についた。
聡は3層浅部の氷についてもっと調べてみたいという気持ちから則教授にコンタクトを取った。
「……だいたいは分かったわ。3層の壊れない氷を分析したいのね。協力しましょう」
「本当ですか?ありがとうございます」
「普通の探索者はなかなか3層まで行かないから貴重なサンプルが取れそう。多少無理をしてでも行く価値はあるわ」
「でも、他の研究者には無茶をさせられないの。
だから、いくつか条件をつけさせてもらうわ。
まずはこちらの人員を護衛してもらうことね。
研究職は非戦闘員ばかりなの。
だから余裕を持って3層に行けるパーティーがほしいわ」
「それはお任せください。僕が責任を持って護衛します」
「頼もしいわね。では2つ目の条件。別の研究のために、途中で寄り道したいの。
護衛の問題もあってダンジョンに行ける機会はなかなかないから、データ取りがしたいのよ。
1層あたり2、3箇所行きたい場所があるし、できれば勤さんにも挨拶していきたい」
「寄り道に関しては問題ありません。」
「最後の条件。進行ペースを抑えてほしい。
いろいろ寄り道するのもあるけど、私たちはダンジョンに慣れていない上に、機材まで持たなきゃならない。
だから、探索者のようなペースでは進めないの。
数日に分けて進行しなければ体力が持たないわ」
「分かりました。複数日に分けるときは勤さんに相談してツリーハウスを貸してもらえればそこを拠点に動けそうですね」
「それはいい案ね。こちらの規模が決まる段階になったら依頼の手紙を書くから、届けてもらえるかしら」
「分かりました」
「条件は以上よ。でも今のは仮約束。
できるだけ頑張ってみるけど、後から条件が増えたり、実行できなかったりする可能性もあるわ」
「分かりました。よいお返事を期待しています」
そう言って聡は研究所を後にした。
聡がやるべきことは舞と勤に話を通すことと、
3層浅部で余裕を持ってモンスターを倒せるようになることだ。
まずは次の探索日、ダンジョン館で舞に研究者の護衛依頼の話をした。
「分かったわ。外部協力者の護衛ね。
2、3日くらいなら多分おじいちゃんも許可してくれると思うわ。
こういう依頼みたいなものはちょっとワクワクしてくるわね」
「この件は僕のわがままですから、協力いただく舞さんにも報酬を出したいと思います。」
「報酬?数日の拘束くらいは大丈夫よ。特別な危険もなさそうだし。
それに、お互いの目的のために頑張るって約束したじゃない」
「それでも、拘束時間も危険もありますから出させてください」
「じゃあ、準備は全部月野さんがやる事。
あとは研究探索の期間中、ドロップ売却益は私が8割もらう。
これでどう?」
「それにしましょう。よろしくお願いします」
「……ちょっとは交渉しないの?」
「この条件なら割と妥当だと思いますし、仲間相手に値切るのは信頼を切り崩す行為だと思っているので、いざというときしかしませんよ」
「……分かった。じゃあこの条件で行きましょう」
聡たちは3層浅部まで進んだ。
「護衛をするならこの辺りのモンスターは楽に倒せなきゃ難しいわよね。」
「そうです。だからモンスターのスキルや戦い方を知っておく必要があります。
なので、浅部を重点的に探索しましょう。」
「私も経験を積みたいの。できるだけ私に戦わせて。」
「分かりました」
聡たちはモンスターを探して3層浅部を探索する。
しばらくすると魔力吸収反応を捉えた。モンスターだ。
近づいてみると、全身が氷柱で覆われたバスケットボール大のモンスターがいた。
「あれは氷穴針鼠で行きましょう」
「そうね。ぴったりな名前だわ」
氷の盾を構えた舞が前に出る。
針鼠はこちらに気づいたのか、体を丸めて完全に球のような形になった。
舞がおそるおそる針鼠に近づく。
3歩ほどの距離まで近づいた時、針鼠が丸まった状態から何の予備動作もなく舞へと飛びかかった。
狙いは首。舞は咄嗟に盾を挟み、針鼠の体当たりを受ける。
棘が盾に刺さり、針鼠が貼り付けられたように動けなくなった。
舞はその隙を見逃さず、盾に叩きつけるように剣を振るう。
剣が針鼠に当たる直前、盾に刺さっていた棘が折れた。
支えを失った針鼠が地面に落ちる。
舞の攻撃は空を切り、ただ盾を叩くだけに終わった。
落ちた針鼠は地面に着地するやいなや再び丸まる。
舞は針鼠を囲うように小さな氷のドームを作った。
針鼠はドームの壁に向かって体当たりを繰り返すが、ドームの壁には傷1つつかない。
聡がドームの中の針鼠を観察しながら話しかける。
「舞さん、お疲れ様です。予備動作無しで突進とは面白いスキルですね」
「そうね。空中で軌道を変えられたりしたら対処できないかも」
「そうならないために何度か倒す練習をしましょう。
次は僕にもやらせてください」
聡たちが話している間も、針鼠は壁への突進を辞めなかった。
舞がドーム内を氷で満たし、針鼠を煙に変えるまで攻撃は続いた。
「こうしてみると不思議ね。なんでモンスターは人間を襲うのかしら。」
「言われてみれば確かにそうですね。
生命維持には魔力だけで十分と聞いたことがありますから、それ以外の理由があるはずです」
2人はいくつか意見を交わしたが、納得できる結論は得られなかった。
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