第31話、3層浅部2
聡は3層の氷に対して様々な行動をする
戦槌で叩く、引っ掻く、ナイフで切りつける、粘着糸をつけて引っ張るなどの行動を試した。
最後には治療キットの消毒液までかけてみたが、何をしても氷には変化がなかった。
魔力噴射を使って叩くのは止めておいた。
以前のように戦槌が折れたり、反動で腕を痛めたりすると帰り道が安全ではなくなるからだ。
「今の手持ちじゃ何をしてもダメそうだな……」
「お疲れ様。気は済んだ?」
「全然済んでませんが……今日のところはこれくらいにしておきます」
「分かったわ。今日は進む?それとも戻る?」
「進みましょう。体力的にも魔力的にも余裕がありますから」
「進むならスキルを使ってみましょう。モンスターを呼ぶか確認したいわ」
「では、僕が使います」
聡は地面に戦槌をつけてから魔力噴射スキルを使ってみた。
しばらくしてもモンスターは現れなかった。
「スキルがモンスターを呼ぶのは2層深部だけなんでしょうか?」
「もしかしたら地形が関係しているのかもね。
氷が魔力を吸収していたりしないかしら」
聡は氷に触れて意識を集中してみるが、何も感じなかった。
「特に魔力の吸収や放出は感じませんね。
でも地形に視線や魔力が遮られているからモンスターが来ないという可能性はありそうです」
「とにかく、もうスキルを使って良いってことよね。
窮屈な戦闘とはおさらばよ」
聡たちは先へと進む。そして、逆魔力探知にモンスターの反応を捉えた。
慎重に反応へ向かって進んでいくと、そこには1匹のモンスターがいた。
「あれは猫に似てるわね……」
「どちらかと言うと山猫でしょうか。あれの名前は氷穴山猫で行きましょう」
「ええ」
聡たちは山猫のスキルを警戒して、距離を取ったところから氷柱を放って開戦した。
山猫の不意を突いて放たれた氷柱は胴体に迫る。
しかし狙いが甘かったのか、氷柱は掠るだけに留まった。
こちらに気づいた山猫は振り返り、いつでも飛びかかれる姿勢を取った。
一瞬の膠着状態。舞が盾を構えて前に出る。
右手のロングソードを後ろに引いて、いつでも突ける構えを取りながらじりじりと前進する。
聡も舞の後ろに続いた。
山猫が舞に向けて飛びかかる。
舞がロングソードを突き出すが、曲線的な軌道を取る山猫には当たらなかった。
山猫は逆に、舞が突き出した手に向けて爪で攻撃する。
聡から見て山猫の手と舞の腕には明らかに届かないほどの距離があった。
だから攻撃は当たらないと予想していた。
しかし、その直後舞の鎧から金属音が響く。
舞が攻撃を外したのを見た聡は、あの山猫に攻撃を当てるのは難しいだろうと考え、前に出た。
「何かしらのスキルでリーチを伸ばしてくるわ。
当たらないと思っても気をつけて」
「分かりました」
聡は山猫に粘着糸を発射する。
山猫が前脚を横に振ると、粘着糸が明後日の方向へと軌道を変える。
山猫の攻撃は聡の目には見えなかった。
「あの見えない攻撃は結構鋭いみたいね」
落ちている粘着糸を見ると、途中で切られているのが分かった。
聡は見えない攻撃に対する警戒を1段階引き上げた。
戦槌を防御的に構えて山猫へと近づいてゆく。
山猫が聡に向けて飛び掛かってくる。
聡は山猫の前脚の延長線上にあらかじめ戦槌を置いた。
金属音が鳴り、聡の手に衝撃が伝わる。
山猫の方を見ると、前足は既に振り終えられていた。
すでにもう片方の手を振りかぶっている。
「ただリーチを伸ばしているわけじゃないのか」
そうであれば、攻撃を防いだときに山猫の手も止まるはずだからだ。
再度山猫が引っ掻き攻撃をしてきた。
聡は数歩下がって回避しようとした。
念のため、前足の延長線が通りそうなところに戦槌を置いておく。
戦槌に僅かな衝撃が伝わる。少なくとも2メートルほど距離を取れば見えない攻撃をほぼ無効化できるようだ。
「月野さん、山猫とタイマンさせてくれないかしら」
舞から声を掛けられた聡は振り返らずに答える。
「理由を聞いてもいいですか?」
「私、月野さんと比べて練度不足だから、この辺りで戦い方を練習しておきたいの。
盾役として前に立ち続けるために」
「……分かりました。でも危なそうなら介入しますからね」
「それでいいわ」
聡が後ろに下がり、代わりに舞が前に出た。
舞は盾を構え、じりじりと前進する。
山猫はその場で前脚を振るう。延長線上に見えない斬撃が走る。
舞はそこへ的確に盾を差し込み、受け続ける。
そうしながらも一歩ずつ歩み続け、山猫の正面まで到達した。
山猫が右前脚で盾へと直接攻撃する。
舞は盾で受けるも、ほぼ同時に2度叩かれたかのような衝撃が盾越しに伝わった。
スキルを発動しながら殴りつけた影響で右前脚とスキル、そのどちらの攻撃も盾に命中していた。
その衝撃で舞の盾が弾かれ、山猫に体をさらしてしまう。
山猫はこれを好機と捉えたのか、左前脚を振りかぶりながら舞へと噛みつこうとする。
聡は迷わず前に出た。だが、それは結果的に必要のない行動だった。
舞は盾を弾かれた勢いを利用して横から山猫に切りかかったからだ。
地面とほぼ水平に振られた剣は、山猫の顔を横から切り裂いた。
ちょうど顎の隙間に入った剣は山猫の喉までを破壊しながら振り抜かれた。
その直後、山猫が煙に変わった。
「お疲れ様です、舞さん。怪我はありませんか?」
「怪我は無いわ。ギリギリだったけど、なんとか勝てた……」
「最後に盾を弾かれた瞬間はこっちも冷や汗ものでした。でも、上手く勝てて良かったです」
「また同じように戦える機会があったら1人で戦ってみてもいいかしら」
「もちろん大丈夫です。でも、無理はしないでくださいね」
聡たちは少し休憩してからまた先へと進んだ。
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