第30話、3層浅部
「次の層への入り口がただの穴だなんて、風情がないわね」
「でも、他に入り口らしき物もありませんでしたし、ここ以外考えられません」
「まずは行って確かめてみましょう」
聡たちは草原の真ん中にぽっかりと開いた穴の中へと入っていった。
穴の壁と地面は、最初は草原と同じ土や岩でできていた。
進んでいくにつれ壁はどんどん湿り気を帯びていき、やがて霜が表面を覆い始めた。
それに伴って空気の湿度は上がり、気温は下がってゆく。
それでも先に進むと壁の霜は氷に変わり、氷はどんどん分厚くなる。
やがて、氷で覆われた場所になる。
それが、3層浅部の光景だった。
「す……凄い、こんなの、地上では絶対に見られない……」
「そうですね……」
聡も舞も、眼前に広がる光景に圧倒されていた。
舞に至っては、カメラで撮影することを忘れて景色に没頭している。
全面が氷で構成されている洞窟は、聡たちの持っている光源の光を反射する。
それによって刻一刻と表情を変える、万華鏡のような光景を作り出していた。
聡たちは移り変わる景色から目を離すことができるようになるまでに、かなりの時間を要した。
「ここ、結構寒いですね」
「そうね、でもこの景色に比べたら些細な問題よ」
「そうですけど……体力的な問題もあります。今日のところは、これ以上進まずに引き返しましょう。
もちろん、気が済むまで景色を堪能していいですから」
「分かったわ。でももうちょっとだけ待って」
もうちょっとと言うにはあまりにも長い時間が過ぎたあと、聡たちはようやく洞窟を出て帰路についた。
「今日の探索は今までで一番良かったわ。やっぱりパーティーを組んで良かった」
「僕も、パーティーを組まなかったらここまで来れなかったと思います。
これからももっと先へ進んでいきましょう」
「そうね。でも今は少しだけ立ち止まらせて。この景色を見て立ち止まらないのは人類の損失よ」
「いくらでも待ちます」
聡は、舞がダンジョンの景色について話すのを聞きながら地上まで戻った。
「今日はありがとう。また次の探索の日、会いましょう」
「こちらこそありがとうございます。舞さん、1人で探索に行こうなんて考えないでくださいね」
「大丈夫。まだ実力も足りてないし、それくらいの冷静さは残っているわ」
「それを聞けて安心しました。
あと、次回までに防寒具の用意だけ、お願いします」
「分かったわ」
聡たちはそれぞれ帰路についた。
次の探索日、聡たちはダンジョン館で合流して再びダンジョンに潜った。
そのまま3層浅部を目指す。
「今日も3層入り口で景色を見ますか?」
「お願いするわ。前回は見とれすぎて、写真を全然撮れなかったの。
今回こそは記録に残すわ」
「分かりました。今回は防寒対策もバッチリなので、何時間だって大丈夫ですよ」
「悪いわね。時間を取ってもらって」
「お互いの目的のために探索するんですから、当然のことですよ」
「ありがとう。月野さんの目的はダンジョンの謎の解明よね。それは進んでる?」
「ほとんど進んでいません。何もかもめちゃくちゃで、法則性のようなものが見つからないんですよね」
「難しい問題ね。最終的に何を知りたいの?」
「ダンジョンの目的です。
物理法則を無視したスキルとそれを付与するダンジョン、どちらも人工物だとしか思えません。
それを作った存在が、なぜ生み出したのか知りたいんです。」
「もし天然ものだったらどうするの?」
「それは……諦めて受け入れます。確証が取れたらですけどね」
聡たちは3層浅部に少しだけ入り、周囲を索敵した。
モンスターがいないことを確認すると、聡は入り口へ戻っていく。
「じゃあ舞さん、撮影頑張ってください。2層の方で待っています」
「月野さんはついてこないの?」
「僕が行ったら写真に写り込みそうなのでやめておきます。
危なくなったら叫ぶか、こっちに逃げるかしてください。助けますから」
「分かった、気遣いありがとう。行ってくるわ」
数十分経った頃、奥から舞が戻ってきた。
「今日は時間を取ってくれて感謝するわ。
撮影は終わったから、進みましょう」
「分かりました」
聡たちは再び前へ向かって歩き出した。
聡は歩きながら周囲の氷塊を観察する。
氷塊はいままで見た氷の中で何よりも透き通っていた。
あまりにも透明で氷の厚みがどれほどあるのかすら分からない。
氷の向こうに何かがあるはずなのに、どれだけ目を凝らしても何も見えない。
氷の不純物や気泡すらまったく見当たらなかった。
聡は素手で氷に触れてみた。
氷のように冷たいが、表面は全く湿っていなかった。
続けて手を当て続ける。普通の氷なら体温で溶けるはずだが、3層の氷は何の変化もなかった。
「舞さん、この壁と地面は普通の氷じゃないかもしれません。
氷魔法で分析できたりしませんか?」
「残念だけど、私のスキルはそこまで万能じゃないの。
分析するなら専門家に頼むしかないと思うわ」
「ではサンプルを持ち帰って依頼してみます」
聡は周囲を見回したが、氷の欠片どころか石ころ1つ落ちていなかった。
代わりに氷を割って持ち帰ることにした。
「今から氷を割ります。ちょっとうるさいかもしれません」
「分かったわ」
聡は戦槌を近くの氷の壁に叩きつける。
「え?」
とてつもなく硬いものを殴った感触があった。
聡の手がしびれ、思わず戦槌を取り落としてしまう。
手を振ってしびれを取りながら見ると、傷1つ付いていない壁が目に入った。
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