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第28話、僅かな変化

 「スキルがモンスターを呼び寄せるのは確定みたいね」

 「そうみたいですね。次はどれくらいスキルを使ったらモンスターが来るか検証しましょう」

 「いいわね、それ。全くスキルを使わずに戦うのはきついから、賛成よ」

 聡と舞は何度も検証を繰り返した。

 その結果、1戦闘の間に聡と舞が合わせて最大魔力の1割ほどを消費するとモンスターがやってくると分かった。

 

 「1割……1人あたりだと5%じゃ、ほとんど使えないも同然ね。

 大盾2~3枚で終わるじゃない。攻撃はできそうにないわ」

 「僕の魔力噴射も0.5秒しか使えませんね。氷魔法の攻撃ってそんなに魔力を使うんですか?」

 「氷を出すときは消費が少ないんだけど、動かすときは消費が大きくなってしまうの。

 攻撃に使えるほど大きいものはなおさらね。」

 

 「スキルが全く使えないよりはましと言うしかありませんね」

 「剣での戦いには慣れていないから、今日のところは撤退したいわ。大丈夫?」

 「分かりました。撤退しましょう。ただ、浅部か1層深部で少し練習してから帰りませんか?

 今日はいざというときサポートできますし」

 「いいアイデアね。それでいきましょう」

 その後、舞は2層浅部でロングソードを使った戦闘を練習し、聡がその補助に入った。


 「今日は練習に付き合ってくれてありがとう」

 「僕も魔力噴射スキルを得た時は手伝ってもらいましたし、お互い様です」

 聡たちはダンジョン館前で別れの挨拶をし、それぞれ帰路についた。

 

 次の日、聡はソロでダンジョンに来ていた。

 目的は生活費だ。

 魔力噴射スキル購入の後は調べ物をしたり、稼ぎを中級ポーションの購入に回していた。

 そのため貯金が尽きそうになっているのだ。

 今日は自分のために稼ぐ日だと自分に言い聞かせ、ダンジョンに入っていく。


 目的地は1層深部だ。食料品がドロップしないため敬遠されている。

 だから魔石による金策にはもってこいだ。

 聡はダンジョンを走りながらモンスターを探す。

 走っている理由は、できるだけ多くのモンスターを狩るためと、体を祝福に慣らすためだ。

 

 探索者である聡には祝福で強化された肉体がある。

 だが、それは筋力や耐久力が上がるだけだ。

 効率的な動き方などは体に合わせて変えていかなければならない。

 聡は最適な体の動かし方とその感覚を掴むため、体の内側に意識を集中させながら走った。


 逆魔力探知に魔力吸収反応を捉える。

 聡はモンスターの元へ走り、正体を確認する。

 そのモンスターは洞窟鹿だった。偶然にも最初から聡の来た方向を向いている。

 不意打ちはできないと悟った聡は正面戦闘に備え、戦槌を構えた。


 聡は、今日の戦闘では深層に挑むときを想定した戦い方をすることに決めていた。

 つまり、1戦闘あたりの消費魔力を最大魔力の5%以下にすることを目標に戦うということだ。

 使えるのは糸放出スキルと、魔力噴射スキルを0.5秒間だけ。

 糸放出スキルはほとんど魔力を使わないので、極端に多用するのでなければ魔力消費はないものとして計算できる。

 

 さらに、祝福によるゴリ押しも使わない。

 先に進めば、それが通用しなくなるからだ。

 その条件のもとで、聡は鹿の攻略法を考える。

 鹿の厄介な点は正面の角だ。

 前後左右に大きく枝分かれしているため、角をかいくぐって体に攻撃を当てることは難しい。


 掻い潜れないなら別の方向から攻撃するしかない。

 そう考えた聡は手から出した粘着糸の端を地面に接着し、鹿が近づいてくるのを待つ。

 ほどなく、鹿がジャンプで近づいてきた。

 

 聡は鹿が地面に着地する直前に、前へジャンプした。

 魔力噴射も一瞬だけ使い、鹿の背後に着地する軌道で鹿を飛び越えた。

 空中で粘着糸を鹿の角に引っ掛ける。


 聡が着地し振り向くと、角と地面が粘着糸でつながり、振り向けない鹿が背中を向けていた。

 聡は鹿に素早く近づき、胴体を攻撃し、煙に変えた。

「消費魔力も5%以内だ。今回は成功だな。」

 聡はその後も同じように狩りを続けた。

 

 帰り際、聡は他の探索者と出会った。

 軽く会釈して通り過ぎようとすると、腰に魔力吸入器のようなものがあることに気づいた。


 聡が家に帰ると、則教授から手紙が届いていた。

 内容はこうだ。

 魔力吸入器はドロップ品摂取間隔を平均2倍、高レベル探索者ではそれ以上に延ばすことが分かった。

 効果が認められたことと、構造が簡単なことから魔力吸入器がすでに一般販売されている。

 聡の研究協力に改めて感謝したい。


「もう一般販売が始まったのか。

 ドロップ品の食料も安くなりそうだな」

 聡は魔力吸入器の普及によって増える探索者と、これからさらに進んでいく探索のことを考えながら眠りについた。


 次の日、聡が1層深部で探索していると、他の探索者と何回かすれ違った。

 食料品がドロップしない深部にいるということは、魔石を目当てに来ているはずだ。

 

 聡はある可能性に思い至る。

「魔力吸入器のせいで食料品の価値が下がって魔石の価値が上がるのか」

 他の探索者がいると、聡の稼ぎも下がってしまう。

 それは、深層探索に割ける余裕が減るということだ。

「探索者が増えることは良いことだけじゃないかもしれない……」

 聡は、自分と舞の環境変化に何かしらの備えが必要だと感じ始めていた。

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