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第21話、大猿戦1

「今回は戦いましょう」

 聡と舞の合同探索日、異常個体の話題になって舞から飛び出したのはその言葉だった。

 

「その理由は?」

「場所よ。2層浅部は、まだ普通の探索者が多い。

 そんな人たちが襲われたら大変なことになる。

 位置情報をみた限り、1層境界と近くはないけど遠くもない。

 このまま放置していたら、いずれ事故は起こるわ。

 それに、慣れた環境で強敵と戦えるのは貴重な経験よ。事故が起こりにくいってことだから」

 

 舞は既に決意を固めた顔で聡を見る。

「それで……月野さんはどうする?」

「僕も行きます。魔力吸収量から見ても無謀な戦いではないはずです。でも……僕らも死ぬかもしれません。それでも行きますか?」

「行くわ」

「じゃあ、行きましょう」


 聡と舞はそれぞれ普段より入念に装備のチェックをして、ダンジョンに潜った。

「舞さんはどれくらい消耗品を持ってますか?」

「中級ポーションと魔力吸入器1つずつよ。腕がちぎれたりしない限りすぐ治せるわ」

「分かりました。僕は下級ポーションを2本と魔力吸入器1つです。」


 2層浅部に到着する。そこから異常個体の反応があった地点に近づいていく。

 極力他のモンスターは避け、できるだけ体力を温存しながら進んでいった。

 そのおかげで、異常個体の魔力吸収反応を捉えた時には全く消耗していなかった。

「ベストコンディションでここまで来れたわね」

「帰りも同じ状態で戻れるよう頑張りましょう」


 聡が魔力吸収反応に違和感を覚える。

「反応がおかしいですね」

「どうおかしいの?」

「モンスターの位置が、普段より高い気がします」

「それって、木に登っているってこと?」

「おそらくそうだと思います」


 2層浅部のモンスターは、基本的に木を登らない。

 だから、一般的な探索者は木の上に登って遠距離攻撃をすることを好む。

 だが、モンスターが木に登るとすると、その安全地帯が無くなるということを意味する。

 その事実に、聡たちの緊張が一段階高まる。

「勝てなさそうなら逃げましょう。その時は舞さんの盾が頼りです」

「わかってる。防御は私の役目だもの。こなしてみせるわ」


 生い茂る葉の隙間から、ようやく異常個体モンスターを視界に捉える。

 2人はモンスターを森林大猿と呼ぶことにした。

 大猿は2メートルほどの大きさの猿で、木にぶら下がっている。

「相手のスキルがどんなものか警戒しましょう。

 中部で戦った蟹より強いものを使ってくるはずです」

「分かったわ」


 相手のスキルが不明な以上、奇襲はできてもその後が続くか分からない。だから今回は正面から行く。

 聡と舞は大猿の前に堂々と姿を現した。


「戦い方が陰湿すぎる!」

「同感です」

 大猿は聡たちに近づかず、木々を飛び回りながら、ひたすら遠距離から石を投げてきていた。

 しかも何かしらのスキルでも持っているのか、1度も地上に戻っていないというのに途切れず投げつけてくる。

 石の大きさは人の拳より一回り大きい程度だったが、重力による加速も相まって、祝福を得た探索者でも当たればただでは済まない。


 聡と舞は氷の盾に隠れながら作戦会議をする。

「やはり地上では不利です。登るしかないと思います」

「そうね、氷魔法で階段を作りましょうか?魔力消費多めだけど」

「今回は糸で行きます。登っている間はほぼ無防備なので、援護お願いします」

「分かった。そうだ、左腕出して」

 

 舞は聡の左腕を掴んで何かを唱える。

 すると、腕に氷でできた円盾が現れる。

「石を防ぐ時に使って。戦闘中くらいなら持つはずよ」

「ありがとうございます。では行きます」


 聡は木に近づくと大猿から隠れる位置に立ち、手のひらと足の裏から短い粘着糸を出して木に張り付ける。

 そのまま自切と糸出しを繰り返して上に進む。

 木の陰からは、氷魔法と岩が行き交う音が聞こえてきた。


 舞の援護もあって、聡は無事に木の上に到着する。

 そのまま木の枝を伝って大猿に接近しようとした。

 途中で大猿も気づいたらしく、聡に向けて石を投げる。

 これを左手の盾で防ぎつつ、さらに接近する。

 あと枝1本ほどの距離まで近づいたところで、大猿は木々を渡り後ろへ下がり、再び石を投げる。

 それの繰り返しだった。


 しかし数回目の接近時に状況が動いた。

 大猿が聡に目を向けた瞬間、舞の氷柱が大猿の肩に当たる。

 かすった程度だったが、大猿を怒らせるには十分だったらしく、舞の方へ向き直る。

 聡はそれをチャンスだと捉え、一気に大猿へ近づこうとした。


 しかし、想定外の行動で聡のもくろみは大きく外れた。

 大猿が枝から飛び降りたのだ。もちろん着地点には舞。

 舞は氷の盾を分厚くし、全周を覆う。所々に大きな棘を生やしてもいる。落下の勢いで串刺しにするつもりのようだ。

 大猿はさらに予想外の行動に出る。

 空中で大岩を出現させ、舞の氷の盾へ叩き込んだ。

「舞さん!」

 盾に生えていた棘は折れ、氷の盾と岩が粉々に砕けた。

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