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第20話、魔力噴射の練習

本日2話目

 聡はソロでダンジョンへと来ていた。

 場所は2層浅部。ナイフと魔力噴射の練習をするためだ。

 普段はパーティメンバーが援護してくれるとはいえ、至近距離での攻防は自分だけの力で行わなければならない。

 そのような状況で下手に介入すると同士討ちしてしまう可能性があるからだ。

 だからナイフの扱いは常に練習しておかなければならない。

 魔力噴射に関しては単純に練度が足りていないため練習している。

 

 目の前には森林狼。初めは4匹いたが、聡の攻撃によって2匹まで数を減らされていた。

 聡は粘着糸を使わずに、ナイフと戦槌で敵の攻撃を逸らすことに集中している。

 狼は基本的に2匹同時に襲い掛かってくるため、片方はナイフで、もう片方は素手か、体ごと避けて対応する。

 聡はすでに何度も失敗し、腕や足にいくつもの噛み跡をつけていた。


 「そろそろ1回休憩するか」

 狼の噛みつきは、防御面では問題ないが心理的には負担になる。だから聡は一時休憩するため、狼を倒そうとする。

 だが戦槌は取り出さない。あくまでもナイフ1本だけを使って戦い抜くつもりだからだ。

 聡はまず後ろに下がる。狼が飛び掛かるタイミングを少しでもずらすために。

 もくろみ通り、狼が縦1列の並びでつっこんでくる。

 

 最初に到達した狼は魔力噴射を一瞬だけ乗せた回し蹴りで横に吹き飛ばす。

 次に到達した狼はナイフで噛みつきを受け止めている間に背中を掴んだ。

 風魔法で抵抗してくるが、子供が投げたボールがぶつかる程度の衝撃しか感じない。

 そのまま腹を複数回刺し、煙に変える。


 もう一匹も同じように倒し、聡は適当な岩に座り込んで考える。

「もっと他の使い方も試してみたいな……」

 現在、聡は魔力噴射を武器の威力増加に絞って使用している。

 それが1番威力が出て使いやすい上に、まだ練度が低く他の使い方をしても中途半端になるからだ。

 だが、新しい能力を得たら新しい使い道を探してみたいと思ってしまうのが聡だ。

 今回ソロでダンジョンに来た理由にはそれも含まれていた。


 「まずは自分をブーストして早く動く」

 誰もが思いつく簡単な使い方だ。先ほども蹴りの時に使用した。

 体の一部分だけでなく、全身に作用させて移動自体を早くする方法もあるだろう。

 聡は立ち上がり、そのアイデアを試してみることにした。


 まずは少し高くジャンプすることから始めてみる。

 立った状態から膝を曲げて勢いよく伸ばす。

 膝を伸ばしきったタイミングで足の裏から魔力噴射。

 その瞬間、聡の視界は上下反転する。

 いわゆる後方宙返りに失敗したような状態だ。

 スキルを切るが、ついてしまった勢いは無くならない。

 聡は咄嗟に地面との間に腕を挟み、後頭部が直接打ち付けられることだけは避けた。

 

 地面に転がり、天を仰ぎながら呟いた。

「やっぱり扱いが難しすぎるな……」

 気持ちを切り替えて別の動きを試してみる。


 今度は目標のハードルを下げ、魔力噴射の勢いだけで歩くことを目指す。

 先程は足、つまり体の末端に勢いをつけたのが間違いだったと自己分析する。

「今回は腰を中心に背中全体で噴射する……最初は一番弱く……」


 聡は呟き通り、最低限の威力で魔力噴射を行う。

 背中がゆっくりと押される感覚。

 その感覚に身を任せ、ゆっくりと足を踏み出す。

 何事もなく足が地面につく。

「おお、できた……」

 聡にはその1歩がとても大きなもののように感じられた。

 

 聡は2歩目を踏み出しながら噴射の出力を少しだけ上げる。

 聡を押す勢いは強くなり、踏みとどまるのも難しい程になってゆく。

 その勢いのまま走り出す。

 途中、バランスを崩して転びそうになったり、木に体をぶつけたりした。

 だが、聡は止まりたくなかった。

 新しいスキルを使うことが楽しくて仕方なかったからだ。


 そんな楽しい時間にも終わりは来る。

 魔力切れでスキルが止まったからだ。

 聡はその場に座り込み、魔力と体力を回復しようとする。

 その時、癖で使っていた逆魔力探知にモンスターの反応があった。

 しかも明らかに2層浅部や中部にいるモンスターの魔力吸収量ではない。

 おそらく異常個体。


 聡は素早く糸を使って木に登り、太陽の位置から現在位置と1層の方向、異常個体の反応の方向を確認した。

 そのまま異常個体のおおよその位置を記録する。

「今回は逃げよう」

 聡は自分の目で確認する気はなかった。

 魔力も底をついているし、何より1人だ。

 幸いなことに異常個体のいる方向と1層の方向が離れていたため、そのまま1層の方向に気配を消しながら歩き出す。


 聡は無事にダンジョンを出て、職員に異常個体らしき反応があったことを伝え、そのまま帰路についた。

 帰り道も、家についても、聡の脳内は異常個体のことでいっぱいだった。

「倒すべきか、放置するべきか」

 

 聡の理性は放置することを選択している。

 無闇にリスク要因に首を突っ込んでも良いことはないと訴えかけてくる。

 だが、聡は奥へ進みたい探索者だ。

 リスクを取ってでも成長をしたいという気持ちもまたある。

「挑むにしろ逃げるにしろ、まずはパーティーで相談だな」

 聡は舞に異常個体の存在とおおよその場所を伝え、近づかないように注意してから、その日は休んだ。

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