第15話、大蟹戦と研究成果
聡が考えている間も時間は止まらない。
大蟹が体を横に向け、泡を割りながら聡へと突き進む。
その勢いを乗せて、腕の鋏を振るってくる。
聡は更に下がって回避した。
外れた鋏が地面を打ち、小さなクレーターを作りながら泥を周囲にまき散らした。
「また泡を撒かれる前に近付く」
聡は前に出る。泡と鋏をすり抜け、大蟹の背中側につく。
粘着糸を出して背中に張り付こうとするが、泥に阻まれ糸を付けられない。
代わりに近くの脚を殴打する。関節に命中。脚が1本ひしゃげる。
大蟹がこちらに向き直りながら鋏を横薙ぎに振るい、聡を攻撃する。
戦槌を振り終えたばかりの聡は転がるようにして避ける。頭上で鋏が空を切る。
聡が顔を上げる。正面には大蟹の口。そこから鳴る泡の音が嫌に大きく聞こえた。
大蟹の口から大量の泡が吹き出す。距離が近すぎて聡はそのほとんどに当たってしまう。
1発1発はダメージを受けるほどではないが、連続して食らうと話は別だ。
聡は全身をめった打ちにされ、後ろに吹き飛ばされる。
身体が宙を舞い、視界が一瞬真っ白になった。
体の前面が濡れる感触。どうやら沼に突っ伏すように落ちたらしい。
できる限り早く体を起こそうとしたが、遅々として進まない。
ようやく起き上がった頃には周囲を泡に囲まれていた。
聡の身体は前面が広く打撲状態だった。
傷の1つ1つは深くないが、数が多い。
少し力を入れるだけで痛む全身に鞭打って低級ポーションを口に含む。泥の味が口の中に広がるが、無視して飲み込んだ。
少しの間を置き、全身の傷と痛みがほとんど無くなる。
傷が治っても状況は変わらない。いまだ前後左右を泡に囲まれているし、大蟹は泡を吐き出し続けている。
泡は軽くつつくだけで割れてしまい、そこそこの衝撃を放つ。
泡を割りつつ近づくと勢いを殺されてしまう。
遠距離から壊して進むしかない。
「軽くつつくだけで割れる……?」
試しに近くの泡に向かって糸を飛ばす。
糸が当たった泡は呆気なく割れてしまう。
「分かった……」
左手から太めの糸を長く出し、振り回す。
糸に当たった泡は弾け、そこから糸が切れる。
切れた分の糸を再び伸ばす。
それを繰り返すだけで聡の周囲の泡は全て割れた。
聡が周囲の泡を割ったのを見たのか、大蟹は泡を吐くのをやめ、聡に近付いてきた。
聡も糸を構えながら大蟹に近付く。
お互いの攻撃範囲に入る1秒前、大蟹が聡に口を向ける。
「それはさっき見た」
聡は大蟹の口に向け、放射状の糸を連続して放った。
吐き出されたばかりの泡は糸に当たり、すぐさま割れる。衝撃とともに。
その衝撃が周囲の泡に連鎖し、一斉に割れる。一際大きい衝撃が大蟹を襲う。
結果、大蟹はバランスを崩して仰向けに倒れる。
あとはがら空きの腹を何度か攻撃するだけで大蟹は煙に変わった。
「本格的にスキルを使われると対処が難しいな……」
聡は休みながら考える。
今回は運よく勝てたが、もっと威力の高いスキルを使われていたら命は無かったかもしれない。
「ポーションも使ったし、今日のところは撤退だな」
聡はダンジョンを出ることにした。
帰りがけに1層で狩りをしてポーション代を稼ぎ、ダンジョン館で低級ポーションを2本買った。
それらはポーチにしまっておく。
数日後、ダンジョンの謎について新たな発見がないかと記事を読み漁っている聡のもとに、1つの小包が届いた。
送り主の欄には則教授の名前。
開けてみると、吸入器のような物が2つと手紙が入っている。
手紙にはこう書いてあった。
高レベル探索者に高濃度の魔力を摂取させるとドロップ品摂取間隔の延長が認められた。
研究協力の礼として、試作した携帯型魔力吸入器をプレゼントする。
聡が使うと、瞬時に魔力を回復できる可能性がある。
聡は早速使い方を確認する。
「魔石を中に入れて光を当てたら1時間待つ……使うときはボタンを押しながら咥えて息を吸う……これだけ?」
使い方は非常に簡単だった。
これほど簡単なら、緊急時でも咄嗟に使えるだろう。
それでも、実際に使って効果を確認しないと戦術には組み込めない。
聡はそう考え、ダンジョンで試してみることにした。
まずダンジョンで適当なモンスターを倒し、魔石を入手。そのまま吸入器に入れる。
聡は1時間待つ間、生活魔法で限界まで魔力を減らし準備する。
吸入器を使ってみる。その途端、魔力が最大の6割ほど回復したのを感じた。
「凄い。これなら燃費の悪いスキルも問題なく使えるかも」
小さな吸入器に新たなダンジョン攻略の可能性を見た聡は珍しく興奮してしまう。
「駄目だ、今日は何も手につかなそうだ」
様々なスキルを習得する可能性が頭をよぎる。
その日はそのまま家に帰り、新たな戦術を考え続けた。
結局、実質的に何もできずにその日を終えた聡はある考えに思い至る。
「これを使えば他の人の呪いを抑えられるんだよな?」
聡はスマホを取り、連絡先一覧を開く。
そして木崎舞に電話を掛けた。
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