第14話、2層中部
聡は2層浅部に来ていた。
中部に挑む前の肩慣らしとしてモンスターと戦うためだ。
消臭剤を使ってにおいを消し、モンスターを探してジャングルを彷徨う。
ほどなくして逆魔力探知でモンスターを検知した。魔力吸収反応にゆっくりと向かっていく。
茂み越しに姿をとらえた。森林熊2匹。
2匹同時に相手をするのは危険だ。聡は策を練る。
「1匹を先に倒せば1対1だ」
まずは近くの木を見る。太い枝に糸を飛ばし、それをたぐりよせて登ることを繰り返す。
その後、音を出さないように木を飛び移って熊の真上に移動。
真下を覗き込み、熊に気づかれていないことを確認した。
攻撃後の落下を避けるため、地面に届くほどの長さの糸をゆっくりと出し、体と枝に結びつける。
準備は整った。
聡は戦槌を構え、枝から跳んだ。1匹の熊めがけて。
空中で戦槌を振りかぶる。落下の勢いを乗せ、熊の頭に直撃するタイミングで振り下ろす。
腕が折れるかと思うほどの衝撃。骨を粉砕する感触としびれが腕に広がる。
先ほど結びつけた糸に聡の体が地面ギリギリのところで吊るされる。
熊が煙に変わり、周囲が見えなくなった。
聡は視界が遮られているうちにナイフで糸を切り、地面に降り立つ。
もう1匹の熊と、間に煙を挟んで距離を取る。腕のしびれが回復するまで待つ。
だが、煙が晴れるのを待たず突進してくる音が聞こえる。
聡は足元に粘着糸を張り巡らした後、ナイフをしまい戦槌を構え直す。
熊が粘着糸地帯に突っ込んでくる。スピードを半分ほどに落としながらも、完全には止まらない。
聡は熊が減速した隙に横へと回り込んで突進を避ける。
熊と聡がすれ違う。聡は熊の背を追う。熊が突進を終え、振り返ろうとする。
聡は戦槌を振りかぶりながら、頭上の枝に糸を発射した。熊も完全に振り返り、右腕を振りかぶる。
お互いが攻撃の射程圏内に入った。熊のパンチが聡に襲い掛かる。
聡は枝に繋がった糸を引き、自分の体ごと持ち上げる。熊の攻撃は聡の真下を通り過ぎた。
勢いのまま熊の頭上を通り過ぎ、熊の背後に着地する。そのまま熊が振り返る隙を与えず攻撃に移る。
まだしびれている腕で、全力で戦槌を振るう。
熊の右脇腹に命中。肉を壊す感覚。致命傷ではない。
だが、熊が一瞬バランスを崩した。
聡は更に追撃すべく戦槌を構え直した。
熊が振り返る。聡は横薙ぎに戦槌を振るう。
今度は熊の左手に当たる。骨が折れたのか、手が途中から垂れ下がる。
聡は1歩下がり、熊の出方を観察することにした。
熊は4足状態になり、残った全ての脚を使ってこちらに飛びかかってくる。
聡は飛びかかりをもう1歩下がって避け、下がった熊の顔面にゴルフスイングのように戦槌を叩きつけた。
その勢いに熊が怯み、顔が仰け反る。
聡は熊が怯んでいる隙に、頭を上から攻撃。
熊の頭は地面と戦槌に押しつぶされ、全身が煙に変わった。
今回は余裕を持ってモンスターを倒すことができた。
聡は調子が続いている間に中部に進むことを決めた。
2層浅部と中部には明確な境界がない。
先へと進むほどに木々の間隔が広がっていく。乾いていた地面は次第にぬかるみ、やがて完全に泥に変わる。
ところどころに水がたまり、水上植物が顔を出している。
聡は少なくなっていく地面を飛び渡りながら歩みを進める。
そして進んでも景色に変化がなくなった頃には、完全に2層中部に到達していた。
地面のほとんどが泥と水で覆われているのが2層中部だ。
相変わらず生き物の気配はない。
「視界が良すぎるな」
これまでは洞窟やジャングルなど、常に周囲から視線を遮れる場所ばかりだった。
だがこの湿地は違う。
悠長に戦闘していれば、すぐに他のモンスターに見つかってしまうだろう。
聡はまばらに生えている木を利用し、できる限り身を隠しながら進もうと決めた。
進んでいくと逆魔力探知に反応。
それとほぼ同時に、モンスターを視界に捉えた。
ここでは逆魔力探知も、不意打ちを避ける程度にしか使えないようだ。
見つけたモンスターは1匹の湿地大蟹。
聡は近づいて様子を窺う。
大蟹の高さは聡の胸ほどまであり、横幅は聡が両手を広げても届かないほどだった。
大蟹がこちらに気づいた。地上の蟹と同様に、体を横に向け、こちらに近づいてくる。
聡は地面に粘着糸を撒き散らし、戦槌を構えて待ち受ける。
「ここで粘着糸は使えないのか」
大蟹は粘着糸地帯に入っても減速しなかった。
粘着糸のほとんどが泥とくっついて、大蟹そのものには張り付かなかったからだ。
大蟹はやや距離を取った位置で止まり、口を聡に向けてきた。
無数の泡をシャボン玉のように吐き出し、飛ばしてくる。
聡は泡を警戒し、大きく下がった。
手近な泡を戦槌で軽く叩いてみる。小さな音とともに割れ、反動が返ってくる。
反動の強さは人間のパンチほど。聡にとってダメージはないが、身構えず受けるとバランスを崩してしまう程度には威力があった。
「ここからどうするべきか……」
聡は打開策を求め、考え始めた。
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