第13話、スキル研究所
「お世話になりました。ありがとうございます」
「色々手伝ってくれてありがとう、また会おうね」
「聡青年、いつでも来たくなったらまた来なさい。歓迎するぞ」
聡は2人と連絡先を交換した後、勤のツリーハウスを後にした。
聡は一旦地上に戻った。
勤から預かった手紙の件もあったが、ツリーハウス前の戦いで森林熊に負けそうになったからだ。
ギリギリの戦いをしている状態で先へ進むのは自殺行為だ。そう考えた聡は一旦気分をリフレッシュすることにした。
研究協力の誘いは、丁度良い気分転換にもなっていた。
数日後、手紙が届いていた。内容はこうだ。
呪いに対抗できるスキルの存在が公式に確認されたのは、世界で初めてだということ。
ぜひ研究に協力してほしいという願い。
そこからは聡のスキルの有用性、希少性等についてびっしりと書き連ねられていた。
最後には訪問してほしい日時と場所が書かれていた。
「すごい熱意だ……」
聡は指定の日時に研究所へ向かった。
場所は、電車で1時間ほどの大学。その一室だった。
聡は扉をノックする。
中から杖をついた老婦人が顔を出す。
「もしかして、あなたが月野聡さん?」
「はい、そうです」
「いらっしゃい、あなたが来るのを待っていました。私は則晴香。ここの教授をしています。」
「本日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
挨拶が済んだところで研究室の中へ通される。
「まずはレベルから測っていきましょう」
レベルとは、祝福と呪いの度合いを数値化したもので、主にドロップ品を食べる頻度を確認するために使われている。
腕に、30センチほどのさすまたのような機械を取り付けられる。
僅かな稼働音と電子音が聞こえる。
「結果……レベル0、非探索者。思った通りね」
「機械の故障という訳ではありませんよね?」
「勿論、この機械は探索者が発する魔力量を調べるんだけど、魔力吸収スキルのせいであなたは魔力を発していないみたい」
「では、レベルは調べられないのですか?」
「髪の毛を何本かここに入れてくれれば専用の機械で鑑定しておくわ。結果は後日になるから、郵送するわね」
聡は差し出された試験管に髪の毛を入れた。
則教授は試験管の蓋を閉めながら言う。
「体から切り離した部位は常時発動スキルの影響を受けない。だから検査の時は髪の毛をよく使うの。これからも貰うかもしれないわ」
「これくらいなら幾らでも出しますよ」
「元気が良いわね。じゃあ次の検査に行きましょうか」
「次は経緯の確認よ。質問に答えてくれるだけで大丈夫」
「分かりました」
「じゃあ最初の質問……」
聡と則教授は様々な事について問答した。
魔力吸収を得た時期、最初の効果、今の効果、空腹感の消え方等々。
問答を終えて則教授が一言発する。
「1箇所違和感があるわね」
「どこですか?」
「あなたは探索者を始めて、かなり早期に魔力吸収スキルを得ている。ここまでは合っているわね?」
「はい。正確な日時は覚えていませんが、1ヶ月以内ということは確かです」
「探索者生活を1年間続けた後に、ダンジョン内でお腹が空かないことに気付いた。
なぜなら半年前に買った食べ物がバッグに入っていたから」
「その通りです」
「この食べ物を買った時期が問題なの。スキルを発現してから少なくとも5ヶ月間は、ダンジョン内で食事をしていたことになるわ」
「言われてみれば確かに」
「だから、あなたの身体に変化があったから今の状態になったと仮定できるわ」
「スキルが変化することは無いんですか?」
「一生変わらないわ。使い方を変えたら効果が変わるように見えるけど、本質はそのままよ。」
則教授は少しの間考え込んだ後、検査を再開した。
「最後はスキルの検証ね。聡さん、お腹は空いてる?」
「検査のためになるかと思い、空かせてきました」
「準備が良いわね。終わったら食堂でなにか食べましょう。追加の研究協力費みたいなものね」
「分かりました。期待してます」
その後は、妙な味の飴玉を食べたり、ドロップ素材でできた服を着たり、大型の機械に入ったりした。
その中で印象に残ったのは、ストローの付いた箱から空気を吸う試験だった。
その空気を吸った途端、聡の空腹感が減った。
空腹状態でダンジョンの中に入った時のような感覚だった。
「この空気を吸った途端、空腹感が減りました」
「お腹が膨れる感覚かしら?」
「膨れるというより……お腹の減り具合だけ時間が巻き戻った感覚ですね」
「分かった。記録しておくわ」
検査が終わり、2人は食堂で遅い昼食を食べた。
「今日の検査は上手くいっていたでしょうか」
「ええ、聡さんの協力のおかげで、いいデータがとれたわ。特にあの箱から空気を吸うテストが決め手ね。」
「あれですね、箱の中身は結局何だったんですか?」
「魔石が発した魔力を閉じ込めたものよ。聡さんはそれを吸って空腹感が無くなったと言っていたわね」
「はい」
「ここから、魔力さえ吸収できれば生命維持ができるということが分かったわ。」
「お腹が空かなくなるのは魔力吸収スキルの影響ではないということですか?」
「ある意味そうね。魔力吸収スキルは、魔力を吸収する効率を高めるだけのスキル。
だから大量の魔力さえあれば吸収効率が低い他の探索者も同じ結果になるはずよ」
「では、魔石さえあれば……」
「そう簡単にはいかないわ。結果が確認できるまで他の探索者でテストしてみなければならないし、
何より5か月間あるラグが気になるわね。その間、何か変わったことはなかった?」
「特にありませんでした。しいて言えばレベルが上がったことくらいですね」
「……もしかしたらレベルが低い探索者には効果が無いかもしれない。
探索者について分かっていることは少ないから、現時点ではそれくらいしか考えられないわ」
聡と則教授は昼食を食べ終え、大学前で別れた。
もし、探索者の食事が魔力で済むようになればその総数は増え、深部に進もうとするものも増えるだろう。
そうすればダンジョンの謎も解明が近くなる。
聡はその可能性が実現することを願いながら帰路についた。
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