第10話、ダンジョン農家の勤
聡と勤はツリーハウスの中へと入った。
「狭いところだが、ゆっくりしていきなさい。」
聡は家の中を見渡す。
家の中心を木の幹が貫く構造で、家の内側には壁がほとんど無かった。
手作りと思われる一般的な家具が設置され、机の上には工具類。
あまり見かけないものと言えば、ガラス越しに光を浴びて魔力を発する魔石と、近くにある魔力発電機くらいのものだ。
勤は聡に茶を出しながら尋ねてくる。
「それで、どうしてあんな面倒なことをしてまでここに来た?」
「僕はスキルで魔力を検知出来るのですが、この辺りから反応を見つけまして、正体を探るために来ました」
「それだけの理由で壁を突破したのか。もしかして何か因縁のようなものでもあるのか?」
「いえ、ありません。謎があったら確かめてみたい。ただそれだけの気持ちで来ました」
「今どきなかなか見ない探究者じゃないか。結構結構」
勤は大笑いした。
勤の笑いが収まるのを待って、今度は聡から話しかける。
「木崎さんはどうしてダンジョンの中で暮らしているんですか?」
「勤でいい。木崎はもう1人いるからな。それで、ダンジョンで暮らしている理由は……成り行きだ。まずワシは農家だったんだが……」
勤老人の話を要約するとこうだ。
勤は農家だった。植物操作のスキルを得たために、ダンジョン研究員から声が掛かった。
依頼内容は"ダンジョン内で地上の植物を育てるとどうなるか"という研究への協力。
農家としての経験、植物操作スキルと研究の相性を買われた形だ。
研究は数年に及んだ。その間、時間をかけてスキルで防壁とツリーハウスを作り、そこで暮らすようになった。
いつの間にか自分で作ったツリーハウスに愛着が湧き、研究が終わっても住み続けているそうだ。
聡から、それまで住んでいた家はどうしたのかと尋ねると
「息子夫婦が丁度結婚のタイミングだったから、結婚祝いにやった。」
と答えた。随分豪快だった。
「それにしても、ダンジョンで畑を見ることになるとは思いませんでした。」
「だろう。自画自賛になるが、ここの畑はワシの人生1番の自慢だ。」
「お1人であれだけの畑を世話するのは大変じゃありませんか?」
「大変なことなどない。ダンジョン内では魔力さえ与えておけば勝手に育つし、害虫も病気も無いからな。むしろ地上より楽だ。」
「なるほど、あの魔石は野菜のためだったんですね」
「そうだ。余ったら発電にも使えるから一石二鳥だ。」
勤が魔石発電機に目をやり、チラリと時計を見る。
「おっと、もうこんな時間か。思ったよりも長く話し込んでしまったな。ここでは昼夜がないから、時間感覚がボケて仕方ない」
「ご予定がお有りでしたら僕はもう……」
「まあ待ちなさい。飯でも食べていかないか?ワシ一人では畑が広すぎて、野菜を腐らせてしまう。老人を助けると思って、どうだ?」
聡はダンジョン内では食事を取らなくても問題ない。
だが、食べられない訳でも無かった。
ここで断ると相手に失礼になると思い、了承した。
聡はただご馳走してもらうのも悪いと思い、料理の手伝いを申し出た。
1年間の倹約生活で自炊していたから、ある程度は料理もできた。
並んでキッチンを使いながら世間話をする。
「実はな、ダンジョンで育った野菜は少しだけ呪いに効くんだ。」
「えっ?本当ですか?」
「本当だとも。毎食食べ続けてやっと少し、というレベルだがドロップ品を食べる間隔を延ばせるらしい。研究者先生のお墨付きだ」
地上の野菜にはそのような効果は無い。
ダンジョン野菜と違うのは育つ場所と魔力の有無。
確証は無いが、聡はダンジョンの謎への手がかりを見つけたような気がした。
「——————!」
料理ももうすぐ完成というところで、外から悲鳴のような声が聞こえてくる。
聡と勤はその声を聞くやいなや、別の場所へ走る。
聡は応接間で立てかけてあった戦槌を掴む。
勤はベッド近くの弓と矢を取る。
そのまま2人は玄関へ。
「ワシは弓で援護する!頭上に気をつけろ!」
「動きを止めるのは任せてください!」
聡は玄関を出て、床に粘着糸を付ける。そのままダイブ。
糸にぶら下がりながら、射出スピードを調整しつつできる限り早く降りる。
降りながら地上の様子を確認した。
着地点から10メートル先、こちらに背中を向けている女性が1人。
その人を半包囲するように森林狼と森林熊。数はそれぞれ4と2。
着地した聡は女性を援護するために駆け出した。
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