第二十一章『聖獣機神ガオガオン降臨! 〜泥沼の社内恋愛と死蟲軍団の絶望〜』
【強欲】「最終ダンジョン」発見! リーザ、再び破滅の予感
「……モソモソ。モソモソ……」
初夏の陽光が降り注ぐ、平和なカイト農場。
そのリビングの片隅で、背中を丸めて何かを無心に齧っている影があった。
「あーあ。リーザちゃん、また『パンの耳』かじってるよ……」
麦わら帽子を被った農民のカイトが、哀れみの籠もった視線を向ける。
そこにいたのは、前回の『マッハ・ウーバー事件(つまみ食いによる巨額の損害賠償)』によって全財産を失い、マイナス極貧生活へと逆戻りした貧乏神のリーザだった。
「うるさいわねカイト! これはルナミス帝国の有名ベーカリーで、朝の6時から並んで『無料』で貰ってきた由緒正しきパンの耳よ!」
リーザは血走った目で言い返しながら、硬いパンの耳を前歯でガリガリと削り取っている。
傍らには、スーパーの試食コーナーで貰ってきたらしい小袋のマヨネーズと、公園で摘んできた食べられる雑草のサラダが添えられていた。
「キャルルちゃんにお金借りればいいのに……」
「ダメよ! アイドルたるもの、施しは受けないの! それに、来月の家賃の件で、月末にはまたキャルルに土下座しなきゃいけないんだから、これ以上借りは作れないわ!」
無駄に高いプライド(と図太さ)を爆発させながら、リーザがタンポポをモシャモシャと頬張る。
そこへ、リビングのドアをバンッ!と開けて、創造神のルチアナが飛び込んできた。
彼女の手には、天魔窟で購入した魔導スマートフォンが握られ、画面にはデカデカと『特大ニュース』の文字が躍っている。
「ちょっとみんな! 大ニュースよ! 天魔窟の奥地で、伝説の『最終ダンジョン』が発見されたらしいわ!」
「最終ダンジョン?」
カイトが首を傾げる。
「そうよ! なんでも、創世の時代に封印された地下迷宮で、奥には『山のような金銀財宝』と、『S級素材のオリハルコンが剥き出しになった壁』があるんだって! 今、一攫千金を夢見る冒険者たちが、世界中から殺到してるらしいわ!」
ピクッ。
ルチアナのその言葉を聞いた瞬間。
パンの耳をかじっていたリーザの動きが、完全に停止した。
「……金銀財宝?」
「ええ、もう取り放題らしいわよ。まあ、中には未知のモンスターがウヨウヨしてるらしいから、私は絶対行かないけど……って、ちょっとリーザ!?」
ルチアナが驚いて後ずさる。
リーザが、ゆっくりと振り返ったのだ。
その瞳孔は極限までカッと見開き、両目の中にはクッキリと『G』のマークが浮かび上がっていた。
「……金。お金……。S級素材……」
「り、リーザちゃん? 目が完全にヤバい人になってるよ!?」
カイトが慌てて制止に入ろうとする。
「これよ……!」
ドンッ!! とリーザがテーブルを叩き、立ち上がった。
「これこそ、私のためのダンジョン! オリハルコンを根こそぎ掘り出して市場で売り捌けば、マッハ・ウーバーの借金なんて一発でチャラ! それどころか、一生遊んで暮らせる超セレブになれるわァァァ!!」
「ダメだよ! そんな『誰でも取り放題』みたいな都合のいいダンジョン、絶対に裏がある(罠だ)に決まってるじゃん!!」
カイトの至極真っ当なツッコミ。
普通に考えれば、そんなうまい話があるわけがない。間違いなく、足を踏み入れた者を食い物にする最悪の罠だ。
しかし、極限の空腹と借金に苛まれている貧乏神の耳に、常識の声は届かない。
「うるさいカイト! あんたはそこで一生、土でもイジってなさい! 私は行くわよ! 財宝の山が、この私を呼んでいるんだからァァァ!!」
シュバッ!!
リーザは、ボロボロの襤褸布をはためかせ、パンの耳を口に咥えたまま、マッハの速度で農場から飛び出していった。
「あっ! リーザちゃん!!」
カイトが手を伸ばすが、すでにその姿は豆粒のように小さくなっていた。
「……行っちゃったわね。まあ、あの子も人魚姫だし、逃げ足くらいは速いから大丈夫でしょ」
ルチアナが、のんきにスマホをスクロールしながら呟く。
「大丈夫なわけないだろ! あそこまでフラグをビンビンに立てて突っ込んでいったら、絶対にとんでもない目に遭うに決まってるよ!!」
カイトは頭を抱えた。
主人公(常識人)の直感は、恐ろしいほど正確に未来を予見していた。
時を同じくして。
天魔窟の奥地に口を開けた『最終ダンジョン(サルバロスの胃袋)』の最深部では。
不気味な道化師の仮面を被った魔人ギアンが、次々と罠に飛び込んでくる獲物(人間たち)を眺めながら、三日月のように口を歪めて笑っていた。
「さあ、おいで……。愚かで、強欲な羽虫ども。極上の『絶望』という名の舞台が、君たちを待っているよ……」
破滅へのカウントダウンが、今、静かに幕を開けた。




