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EP 10

【大団円】龍魔呂の特製・極上ハチミツレモネード

「酸っぱすぎるなら……極限まで『甘く』してやるだけだ」

料理人・龍魔呂は、山積みの『Sランク・スターレモン』の前に立つと、愛用の錆びた中華包丁をスッと構えた。

そして、目にも留まらぬ神速の包丁捌き(DEATH4の暗殺技術の平和利用)で、レモンを次々と美しいスライスに変え、巨大なガラスボウルへと滑り込ませていく。

トントントントントンッ!!

農場に、小気味良いまな板の音が響き渡る。

「おい、駄犬フェンリル。ちょっと面を貸せ」

龍魔呂が、農場の縁側で昼寝をしていた狼王フェンリルに声をかけた。

「あぁん? 俺は今、パチンコで負けた傷を癒やしてるんだよ。……チッ、わかったよ」

フェンリルは面倒くさそうに起き上がると、指先から『絶対零度の氷魔法』を放ち、純度100%の透き通るようなロックアイスを大量に生成した。

「よし。次はルナ、お前の『年金』の中に入っていたアレを出せ」

「はいっ! お友達のミツバチさんが集めた、世界一甘いシロップですね!」

天然エルフのルナが、アイテムボックスから黄金色に輝く巨大な壺を取り出した。

世界樹に咲く神聖な花からしか採取できない、伝説の『世界樹の純生ハチミツ』である。

「カイトが極限まで高めたSランクの『強烈な酸味』。それを中和し、さらなる高みへと引き上げるには、この世界樹の『極上の甘みとコク』をぶつけるしかない」

龍魔呂は、スライスしたスターレモンとフェンリルの氷がたっぷり入ったクリスタルサーバーに、世界樹のハチミツを惜しげもなくトロォォォッ……と注ぎ込んだ。

最後に、農場の地下深くから汲み上げた清らかな天然水を注ぎ、巨大なマドラーで静かにかき混ぜる。

カラン……カラン……。

氷がグラスに当たる涼しげな音と共に、レモンの爽やかな香りと、ハチミツの芳醇な甘い匂いが風に乗って広がった。

「完成だ。『龍魔呂特製・極上ハチミツレモネード』だ」

西日が差し込む農場のテーブルに、黄金色に輝く冷たいドリンクが並べられた。

グラスの表面にはうっすらと結露が浮かび、見ているだけで喉が鳴るような圧倒的な清涼感を放っている。

「ゴクリ……」

梅干しのように顔が縮んだままのリーザが、震える手でグラスを受け取った。

そして、恐る恐るストローに口をつけ、一口吸い込む。

「……っ!!」

リーザの瞳が、限界まで見開かれた。

最初に舌を包み込んだのは、世界樹のハチミツによる、脳がとろけるような深く優しい甘み。

その直後、あの凶暴だったスターレモンの酸味が、ハチミツと完璧に調和し、究極に『爽やかな後味』となって駆け抜けていったのだ。

ポワァァァァン……。

リーザのシワシワだった梅干し顔が、細胞の隅々まで行き渡るビタミンと糖分の力で、一瞬にして元の「可愛い人魚姫の顔」へと戻っていく。

「あ、あまぁぁぁい! なのにすっぱぁぁい! なのに爽やかぁぁぁ!!」

リーザがグラスを両手で包み込み、感涙にむせんだ。

「なにこれ! 砂漠で三日彷徨った後に飲むオアシスの水みたい! 疲れた体にクエン酸と糖分が爆速で染み込んでいくわぁぁ!!」

「本当ですわ! 先ほどの地獄の酸味が嘘のように、私の不死鳥の魔力が心地よく活性化していきますわ!」

フレアも、上品にグラスを傾けながら恍惚とした表情を浮かべる。

「くっ……! この私が、レモネードの美味さに平伏すというのか……! おかわりだ、龍魔呂!」

ラスティアもすっかり毒気を抜かれ、ゴクゴクと喉を鳴らしている。

「あはは、バズりとかどうでもよくなるくらい美味しいわね、これ」

ルチアナも、いつもの酒ではなく、今日ばかりは健全なレモネードで満面の笑みを浮かべていた。

全員が、極上のドリンクの前に笑顔を取り戻していく。

「……どうだ、カイト。お前の作ったレモン、最高の味になってるだろ」

龍魔呂が、カイトに冷えたグラスを差し出した。

「龍魔呂さん……」

カイトはグラスを受け取り、一口飲んだ。

「……うんっ! 最高だよ! 僕のレモンの香りが、今までで一番活きてる!」

カイトは、心からの笑顔を弾けさせた。

自分の育てた作物が、最高の料理人の手によって、仲間たちを笑顔にする。

それこそが、カイトにとって何よりの「金貨(報酬)」だった。

「……ま、これだけ美味いレモネードなら、明日の朝には天魔窟で『一杯銀貨5枚』でバカ売れするビジネスになりそうだけどね!」

リーザが、懲りずにまた強欲なソロバンを弾き始める。

「まだ言うか! またキャルルちゃんにドロップキックされるよ!」

カイトが慌ててツッコミを入れた。

「えへへ、カイトさんと一緒に飲むレモネード、最高に美味しいですぅ♡」

キャルルは、ビジネスの話など完全に無視して、カイトの腕にピトッと寄り添っている。

夕暮れのオレンジ色の光が、騒がしくも温かいカイト農場を包み込む。

カチン、カラン。

グラスを合わせる涼しげな音と、仲間たちの笑い声。

圧倒的なチート能力を持つ神や魔王たちが、一人の農民が作ったレモンで至福の時を過ごす。

そんな、どこまでも平和で少しおかしな日常が、今日もこの農場には流れていた。

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