EP 8
【酸絶】魔王も女神も悶絶! Sランクレモンの破壊力
「「「いただきます(わ)!!!」」」
ルチアナの合図と共に、四人の参加者が一斉に『Sランク・スターレモン』にかじりついた。
ガリリッ、という果皮を噛み砕く、小気味良い音が広場に響く。
「……ん?」
最初に異変を感じたのは、不死鳥のフレアだった。
口の中に広がったのは、まずは瑞々しい果汁の「甘み」だったのだ。カイトの農業スキルによって、酸味の裏側に極限まで高められた糖度が隠されていた。
「あら、意外と……いけますわね? さすがカイトのレモン、とってもフルーティーで……」
しかし、その余裕はコンマ数秒しか持たなかった。
「……ッ!?!?!?」
遅れてやってきたのは、通常のレモンの数十倍に濃縮された、もはや「化学兵器」に近いレベルの超高濃度クエン酸の波だった。
ドォォォォォォンッ!!!!
「あ……あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
静寂を切り裂いたのは、フレアの絶叫だった。
あまりの酸っぱさに脳の神経がショートしたのか、彼女の全身から制御不能の炎が噴き出した。
「す、酸っぱい! 酸っぱすぎて、不死鳥の魔力が暴走しますわぁぁぁ! あつい! じゃない、すっぱい! どっち!? どっちもですわぁぁぁ!!」
フレアが口から火を吹きながらのたうち回る。
その横では、魔王ラスティアが、漆黒の魔王剣を杖代わりに地面に突き立て、ブルブルと小刻みに震えていた。
「バ……カな……ッ! この私が……闇魔法で全てを吸い込むこの私が、たかが果実一つの『酸味』を……中和できないだと……ッ!?」
ラスティアの瞳からは、大粒の涙がボロボロと溢れ出していた。
威厳もクソもない。酸っぱさで顔のパーツが中心にギュギュッと凝縮され、もはや「誰?」というレベルまで人相が変わっている。
「目が……目が開かないわ……。視界がレモン色に染まっていく……。これが……光の陣営(農民)の罠だというのか……ッ!」
「あうぅ……あうぅ……。お、お友達(植物)が……裏切りました……。酸っぱい精霊さんが……私を刺してきます……」
全属性魔法使いのルナは、レモンを握りしめたまま、その場で「の」の字を書いて精神退行していた。エルフの鋭敏すぎる味覚には、Sランクの刺激は毒に等しかった。
そして。
この地獄絵図の中で、最も凄まじい変貌を遂げていたのは、貧乏神のリーザだった。
「ひぃっ、り、リーザちゃん!?」
補充係をしていたカイトが、思わず悲鳴を上げた。
リーザの顔が、物理的に「縮んで」いたのだ。
あまりの酸っぱさに顔面の筋肉が限界を超えて収縮し、まるで数十年天日干しにした「梅干し」のようなシワシワの老婆顔に変貌している。
「あべべべべべべ……!! こ、これ、金貨100枚のため……!! 借金、返すため……!! 食べりゅ……私は、全部、食べりゅのよぉぉぉ!!」
リーザはシワシワの顔のまま、もはや味がわからなくなっているのか、二個目のレモンを丸ごと口に放り込んだ。
しかし、胃袋に届く前に、身体が拒絶反応を起こした。
「ギョボォォォッ!!」
リーザの口から、虹色の光(※規制対象の吐瀉物)が噴き出し、彼女はそのまま白目を剥いてひっくり返った。
「リ、リーザちゃんリタイア!!」
カイトが慌てて駆け寄る。
「あはははは! 見てリスナーのみんな! 魔王が泣いてる! 不死鳥が火を吹いてる! 貧乏神が梅干しになってるわ!! これよ、これが見たかったのよ!!」
創造神のルチアナは、スマホのカメラをのたうち回る参加者たちに極限まで近づけ、狂ったように笑っていた。
画面上の同時接続者数は、瞬く間に1万人を突破。
コメント欄は『草不可避』『神回確定』『レモンで魔王を倒した農民何者だよw』と、大炎上ならぬ大バズりを記録していた。
「ひどい……。ひどすぎるよルチアナ……」
カイトは、無残に食い散らかされ、地面に転がっているレモンを拾い上げた。
丹精込めて作った『スターレモン』。
本来なら、最高級の料理に一搾りして、その爽やかな香りを楽しむための逸品。
それが今、100万G(金貨100枚)という強欲のために、人を悶絶させ、吐き出される道具にされている。
「……もう、いいよ」
カイトの低い声が、ルチアナの笑い声を遮った。
彼の足元から、静かだが圧倒的な「大地の怒り」にも似たプレッシャーが漏れ出し、農場全体の温度がスッと下がった。
「ルチアナ。……配信、止めて」
「え? ちょっとカイト、今すっごく同接伸びてるんだから……」
「止めて、って言ってるんだ」
農民・カイト。
普段は誰にでも優しく、家賃の督促すら満足にできない彼が、生まれて初めて「本気の拒絶」を口にした。




