EP 10
【決着】ゲームクリアと、至高のもやし炒め
「さ、さんちょうごーるどぉぉぉぉぉ……!!」
大魔王の悲痛な叫びが、燃え盛る魔王城の焼け野原にこだました。
最強のチートスキル【完全模倣】で、よりによって貧乏神のマイナスステータスを丸ごと引き継いでしまったのだ。
ピロン♪
『警告:負債総額が魔界の許容上限を突破しました。強制取り立てフェーズに移行します』
無慈悲なシステム音声が鳴り響いた直後。
魔王の足元の地面がドロドロと溶け、禍々しい魔法陣が浮かび上がった。
「な、なんだ!? 今度は何が起きるのだ!?」
ボロ布姿の魔王が後ずさる。
ズズズッ……と魔法陣から現れたのは、ピシッとした漆黒のビジネススーツを着こなし、アタッシュケースを持ったヤギ頭の悪魔だった。
「お世話になっております、『魔界闇金融・ベルゼブブファイナンス』でございます」
スーツの悪魔が、恭しく名刺を差し出した。
「や、闇金!? なぜこんな所に!」
「魔王様、本日の引き落とし(3兆ゴールド)が確認できませんでしたので、直接回収に上がりました。担保であった魔王城も全焼して資産価値ゼロですので……お命(魔石)と内臓で払っていただきますね♡」
悪魔がニッコリと笑い、巨大な借用書とチェーンソーを取り出す。
「ひぃぃぃッ!? 待て、待ってくれ! 勇者ども! 助けてくれぇぇ!!」
威厳もクソもない、泣き叫ぶラスボスの姿がそこにあった。
「嫌だよ。自業自得じゃん」
農民のカイトが、冷たい目で『ひのきのクワ』を肩に担ぎ直す。
「せめて……せめて最後に、貴様らがそれほどまでに執着していた『モヤシ』を! 絶品のモヤシ炒めを一口恵んでくれぇぇぇ!!」
魔王がリーザの足元にすがりつく。
「絶対に嫌よ!! 私のモヤシは一本たりとも渡さないわ!!」
強欲アイドル(貧乏神)のリーザが、容赦なく魔王の手を蹴り飛ばした。
「ギャアアアアアッ――!!」
闇金の悪魔に引きずられ、地獄の底へと消えていく大魔王。
その直後、虚空にファンファーレが鳴り響き、金色の紙吹雪が舞った。
パラパパッパパーン♪
『メインクエスト【魔王討伐】クリア!』
『※なお、さらわれた姫は魔王城の火災により黒コゲ(HP1)で発見されましたが、クエスト達成とみなします』
「……」
カイトは、虚空に浮かぶ【Game Clear!!】の文字を無言で見つめていた。
「終わったわね。あっけないラストだったわー。やっぱり難易度調整が甘かったかしら?」
飲んだくれ(管理者)のルチアナが、空の酒瓶を放り投げながらあくびをする。
「お疲れ様でした! 結局、私一回も蹴ってませんけど!」
武道家のキャルルがウサ耳をパタパタさせる。
「私も、植物とお話しただけね」
魔法使いのルナがふんわりと微笑む。
「……ねえ、みんな」
カイトは、最初から最後まで一度も振るうことのなかった初期装備『ひのきのクワ』を地面に突き刺し、震える声で叫んだ。
「僕、農民として一回も土いじってないんだけどォォォォォ!!!」
勇者(農民)の悲痛なツッコミと共に、世界はホワイトアウトしていった。
◇
プシューッ。
カイト農場のリビング。
VRカプセルの蓋が開き、カイトたちは現実世界へと帰還した。
「はぁ、はぁ……。ひどい目に遭った……」
カイトがフラフラとカプセルから這い出る。
精神的な疲労(主にツッコミと胃痛)が尋常ではない。
「ふぁ~あ。次はもうちょっと敵の経済力を強化して、ハードモードのクソゲーを作ろうかしら」
ルチアナが反省の色もなく呟く。
「「「もう二度とやらないからな(ね)!!」」」
全員の声が見事にハモった。
「……おい。無駄話をしている暇はないぞ」
いち早くカプセルから出ていた龍魔呂が、エプロンを締め直しながら厨房へと向かっていた。
「仮想空間の時間がどうあれ、現実の時間はきっちり進んでいる。……リーザ、腹を空かせて待っていろ」
「龍魔呂ぉぉ……!!」
リーザが感涙にむせぶ中、厨房から心地よい包丁の音が響き始める。
トントントントン!
そして、中華鍋に油が引かれ、強火で熱される音。
ジュワァァァァァッ!!!
「うわっ、すっごくいい匂い……!」
カイトが思わずお腹を鳴らした。
強火で一気に炒められるSランクもやし。
そこに、龍魔呂特製の『特濃ニンニク焦がし醤油ダレ』が回し入れられる。
油と醤油が弾け、食欲をダイレクトにぶん殴ってくる暴力的な香りがリビングに充満した。
「へい、お待ち」
ドン! とテーブルに置かれたのは、山盛りの『至高のSランクもやし炒め定食』だった。
シャキシャキのモヤシは、黄金色の油とタレを纏ってキラキラと輝いている。傍らには、大盛りの白米と熱々のワカメスープ。
「い、いただきますぅぅぅ!!」
リーザが箸を突き立て、大口を開けてモヤシを掻き込んだ。
「はふっ、しゃきっ……!! じゅわぁぁぁ……!!」
「どうだ。火加減は完璧なはずだ」
「んんんんん~~~~っ!! 最高!! お肉なんてなくても、ニンニクのパンチとモヤシの甘みだけでご飯が無限に消えていくわ!! やっぱりリアル(現実)のご飯が一番よぉぉぉ!!」
リーザは涙と鼻水を流しながら、凄まじい勢いで白米とモヤシを交互に口へ運ぶ。
「あはは。まあ、終わり良ければ全て良し、かな。僕もいただこうっと」
カイトも苦笑いしながら箸を取る。
理不尽な仮想空間での経済テロと魔王の自己破産。
大混乱のテストプレイは、こうして「最高のもやし炒め」という平和な(?)日常の風景へと着地した。
今日もカイト農場は、騒がしくも美味しい香りに包まれている。




