第二十章 音速のカレー宅配便と、酸絶! 第一回Sランクレモン早食い選手権編
【飯テロ】カイトの極上玉ねぎと、龍魔呂の『玉ねぎ丸ごとカレー』
「よし……っ! 完璧な出来栄えだ!」
初夏の陽光が降り注ぐ、カイト農場。
農民(主人公)のカイトは、麦わら帽子を被り、土にまみれた手で「一つの芸術品」を天高く掲げていた。
彼の手の中にあるのは、大人の拳よりも一回り大きな『玉ねぎ』だった。
しかし、ただの玉ねぎではない。外皮は真珠のように白く輝き、内側からはち切れんばかりの瑞々しい水分と、ほのかな魔力が透けて見えている。
「僕の農業スキル【豊穣の息吹】と、この農場の豊かなマナを限界まで注ぎ込んで品種改良した、Sランク特大玉ねぎ……その名も**『パール・オニオン』**!」
カイトの目は、我が子の成長を喜ぶ父親のようにキラキラと輝いていた。
前回の仮想空間で一切クワを振るえなかった鬱憤を晴らすかのように、彼は連日畑にこもり、己の農業チートの全てをこの玉ねぎに注ぎ込んでいたのだ。
「普通の玉ねぎが糖度9度前後なのに対して、このパール・オニオンの糖度は驚異の20度! メロンより甘い究極の野菜さ! これを龍魔呂さんに調理してもらえば……ゴクリ」
カイトは収穫したばかりのパール・オニオンをカゴいっぱいに詰め込み、足早に厨房へと向かった。
◇
「……なるほど。相変わらず、お前の作る野菜は常軌を逸しているな」
厨房。
カゴに山積みされた光り輝く玉ねぎを前に、料理人の龍魔呂は感心したように腕を組んだ。
「だろ!? 生で丸かじりしてもリンゴみたいに甘いんだけど、やっぱり加熱して、この極上の甘みを最大限に引き出してほしいんだ!」
カイトが熱弁を振るう。
「ふっ、俺に指図するな。……だが、これほどの極上食材、小細工は無用だな。玉ねぎのポテンシャルを丸ごと味わえる、パンチの効いた一皿にしてやる」
龍魔呂は不敵に笑うと、白衣の袖を捲り上げた。
カチャッ、ジャラララッ。
龍魔呂が取り出したのは、数十種類のスパイスが詰まった小瓶の数々だった。
クミン、コリアンダー、カルダモン、ターメリック、そして魔界特産の激辛スパイス『レッド・ドラゴン・ペッパー』。
「熱した油でスパイスの香りを極限まで引き出し、そこにSランクの魔牛のブイヨンを注ぐ。……主役はあくまで、お前の『玉ねぎ』だ」
龍魔呂は、皮を剥いたパール・オニオンを『切らずに丸ごと』、グツグツと煮え滾るスパイススープの中へ豪快に投入した。
ジュワァァァァァッ……!!
途端に、厨房から爆発的な香りが立ち昇った。
スパイスの鮮烈で刺激的な香りと、玉ねぎから溶け出す圧倒的な「甘い匂い」。それらが複雑に絡み合い、暴力的なまでの『飯テロオーラ』となって農場全体へと広がっていく。
「うおおお……っ! 匂いだけでご飯三杯いけそうだよ!」
カイトがお腹を盛大に鳴らしながら厨房を覗き込む。
そして、数十分後。
「へい、お待ち」
リビングの巨大なダイニングテーブルに、その一皿が運ばれてきた。
深い飴色に煮込まれたスパイシーなカレールー。その中央に、まるで玉座に鎮座する王のように、琥珀色に染まった『特大の玉ねぎ』が丸ごと一個、ゴロンと乗っている。
『龍魔呂特製・玉ねぎ丸ごとカレー』の完成である。
「な、なんなのよこの暴力的な匂いは! 部屋で昼寝してたのに、胃袋を直接鷲掴みにされて引きずり出されたわ!」
創造神のルチアナが、ヨダレを拭いながらテーブルに突進してくる。
「カレー……カレーですぅ! しかも、真ん中に爆弾みたいな玉ねぎが!」
武道家のキャルルが、ウサ耳をピンと立ててスプーンを握りしめている。
「さあ、冷めないうちに食え。カイトの傑作だぞ」
龍魔呂が促す。
「いただきます!」
キャルルが、中央の特大玉ねぎに向かってスプーンを突き立てた。
――スゥッ……。
「えっ……?」
キャルルが驚きの声を上げる。
力を入れる必要など全くなかった。スプーンは、まるで柔らかなプリンに沈み込むように、抵抗ゼロで分厚い玉ねぎの層をスパスパと切断していったのだ。
湯気と共に、中からトロットロに溶けかけた半透明の玉ねぎの果肉が姿を現す。
キャルルは、その玉ねぎとスパイシーなルー、そして白米を一緒にすくい上げ、大きな口を開けてパクリと頬張った。
「…………っ!!?」
瞬間、キャルルのウサ耳がピーン!と限界まで直立し、尻尾がブルブルと震えた。
「あ、あまぁぁぁぁぁぁい!! なんですかこれぇぇぇ!!」
キャルルが両頬を押さえて絶叫する。
「口に入れた瞬間、玉ねぎが『とろぁっ』て溶けて、凄まじい甘みと旨味が爆発しました! その直後に、龍魔呂さんのスパイシーで辛いルーが追いかけてきて……甘い! 辛い! 甘い! 辛い! の無限ループですぅぅ!!」
「マジで!? 私も!」
貧乏神のリーザがスプーンを口に運ぶ。
「んんんんんん~~~~ッ!!」
リーザは目をひん剥き、あまりの美味さに椅子から転げ落ちた。
「お肉なんて一切入ってないのに! この玉ねぎのトロトロ感と圧倒的な主役のオーラ……! Sランク特上カルビにも引けを取らない満足感よ! カイト、あんたの農業スキル、やっぱり頭おかしいわ!!」
「ふふっ、喜んでもらえて何よりだよ」
カイトは、汗を拭いながら満面の笑みを浮かべた。
自分が丹精込めて作った野菜で、仲間たちが極上の笑顔になる。これこそが、農民・カイトにとっての「最高の魔法」であり、「主人公としての存在意義」だった。
「ふぅむ……。この信じられないほど甘くてトロトロの玉ねぎカレー……」
床から起き上がったリーザが、空になった皿を見つめながら、不敵な笑みを浮かべた。
彼女の瞳に、再び『強欲』の輝きが宿る。
「これ、天魔窟のセレブ層に売り捌いたら……とんでもない大儲けができるんじゃないかしら……?」
極上のカレーがもたらした感動は、次なる大事件の引き金に過ぎなかった。




