EP 9
【自滅】最強スキル『ステータス・コピー』の罠
「我が標的は……そこにいる真の強者、貴様だ!!」
燃え盛る魔王城を背に、ススだらけの大魔王が、貧乏神のリーザをビシィッと指差した。
「えっ? わ、私!? なんで!?」
リーザが素っ頓狂な声を上げて、ボロボロの襤褸布を掻き合わせる。
「ふははは! 隠しても無駄だ! そのマイナス150万Gという莫大なカルマ(借金)……そして、モヤシ炒めに執念を燃やす底知れぬ狂気! 貴様こそが、この外道パーティーの真の司令塔であろう!」
「えっ……いや、モヤシが食べたいのは本当だけど……私、ただの金欠アイドル……」
「問答無用!!」
魔王が両腕を天高く掲げると、空を覆う暗雲からドス黒い雷が落ち、彼の全身を包み込んだ。
空間そのものが歪むほどの、圧倒的な魔力密度。
「ひぃっ!? なんかヤバい魔法の詠唱が始まったよ!?」
農民のカイトが『ひのきのクワ』を構えて後ずさる。
「ふふっ、魔力だけなら一丁前ね。でも、リーザに攻撃魔法なんて撃たせな……」
全属性魔法使いのルナが、防壁魔法を展開しようとした、その時だった。
「攻撃魔法などではない! 我が魔王軍の粋を集めた、究極のチートスキルを見よ!」
魔王の三つ目が、カッと見開かれた。
「深淵より出でし闇の鏡よ! 目の前の強者の真髄を、我が身に写し取れ! 【完全模倣】!!!」
「ス、ステータス・コピー!?」カイトが絶叫する。
「そうだ! 対象の職業、スキル、そしてステータスの全てを完全に我が物とする、魔王専用の絶対魔法! 貴様のその『底知れぬ力』、そっくりそのまま貰い受けるぞォォォ!!」
魔王の指先から放たれたドス黒い光線が、一直線にリーザへと直撃した。
「きゃあああっ!?」
リーザが目をギュッと瞑る。
しかし、爆発も痛みも起こらなかった。
ただ、システムを告げる軽快な電子音が、焼け野原に響き渡っただけだ。
ピロン♪
『対象:リーザ のステータスをスキャン完了』
『魔王は、対象の職業および特殊スキルを【完全コピー】しました』
「おお……おおおおおッ!!」
魔王が、自身の体に漲る(はずの)新たな力を感じて、天を仰いで咆哮した。
「感じる! 感じるぞ! これが、あの女が隠し持っていた真の力……!! さあ、我が前にひれ伏すがいい、勇者ども……って、あれ?」
魔王の咆哮が、間抜けな声でピタリと止まった。
パラ……バサッ……。
魔王が身に纏っていた、オリハルコン製の『漆黒の魔王鎧(防御力カンスト)』が、突如として色を失い、ボロボロの【ただの襤褸布(防御力0)】へと変貌して地面に崩れ落ちたのだ。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
魔王が自分の姿を見てパニックに陥る。
さらに、彼の頭上に、巨大な赤い文字で【システム・アラート】が浮かび上がった。
ピロン♪
『魔王の職業が【貧乏神】に上書きされました』
『貧乏神の特性【負債の極大化】が発動しました。魔王城の維持費、ゴーレムの修理代、オークたちの未払い賃金、インフレによる為替差損がすべて一括計算されます』
【魔王の現在の所持金:-3,000,000,000,000 G(3兆ゴールド)】
「さ、さ、さ、さんちょうごーるどぉぉぉぉぉ!?」
魔王の三つ目が、文字通りポロリとこぼれ落ちそうになるほど見開かれた。
3兆Gのマイナス。それは、魔界の歴史上でも類を見ない、国家破綻レベルの天文学的借金である。
「私のお金が……私の魔力が……!? ステータス画面から、凄まじい勢いで『血(赤字)』が流れているぞぉぉぉ!?」
魔王が頭を抱えて地面をのたうち回る。
貧乏神の呪いは、魔王の強大な魔力すらも『借金の利息』として強制徴収し始めたのだ。
「……」
カイトは、無言で『ひのきのクワ』を下ろした。
「あーあ。だから言ったのに」
飲んだくれのルチアナが、酒瓶を振り回しながらケラケラと笑う。
「『強者の余裕』じゃなくて、ただの『金欠の諦め』だったのにねぇ……」
武道家のキャルルが、呆れたようにウサ耳を垂らす。
「どうして……どうしてこんなことに……! 貴様、一体何者なのだぁぁ!」
ボロボロの襤褸布姿になった魔王が、涙ながらにリーザを指差す。
「何者って……」
リーザは、自分と全く同じ『ボロ布のお揃いコーデ』になった魔王を見下ろし、ドヤ顔で言い放った。
「私は、カイト農場が誇る強欲アイドル! そして、この世界における正真正銘の**【貧乏神】**よ!!」
「貧……乏神……ッ!?」
チート級の最強スキルは、パーティー内で最も引いてはいけない『最弱最大のハズレ(呪い)』を引き当ててしまった。
自ら莫大な負債を背負い込んだ魔王軍は、いよいよ完全崩壊の時を迎える。




