EP 8
【感動】強者の余裕? リーザの涙
「リーザ。約束しただろ。ログアウトしたら、現実の農場で『Sランクもやし炒め定食』を作ってやるってな」
料理人の龍魔呂が放ったその一言は、マイナス150万Gというゲーム上の超絶負債を抱え、絶望のどん底でうずくまっていた貧乏神のリーザの心に、一筋の光明をもたらした。
「龍魔呂ぉぉ……ッ!!」
リーザはボロボロの襤褸布を震わせ、大粒の涙をボロボロとこぼしながら立ち上がった。
「肉も……肉も入ってない、ただのモヤシ炒めなのに……! 今月の家賃も払えなくて、毎日塩水で飢えを凌いでいる貧乏な私にとっては……あれが、最高のご馳走なのよぉぉ!!」
「いや、僕の農場で採れたSランク野菜だから、塩水よりは確実に美味いけどね?」
農民のカイトがすかさずツッコミを入れるが、リーザの耳には届いていない。
「モヤシ……モヤシ……! シャキシャキのモヤシと、龍魔呂特製のニンニク醤油ダレ……! ジュワッと香ばしい油の匂い……!」
リーザの口からダラァッと涎が垂れる。
彼女は血走った目で、眼前にそびえ立つ大魔王をギロリと睨みつけた。
「あんたのせいで! 私の夕飯が冷めるじゃないのよォォォォ!! さっさとそこをどきなさァァァァイ!!」
リーザの全身から、凄まじいオーラ(※ただの食い意地と貧乏オーラ)が立ち昇る。
その気迫たるや、燃え盛る魔王城の炎すらも一瞬揺らぐほどだった。
しかし、この光景を目の当たりにした魔王の脳内では、全く別の解釈が展開されていた。
(な、なんだと……!?)
魔王は思わず一歩後ずさった。
(マイナス150万Gという、国家予算レベルの呪い(カルマ)を背負いながら……この私を前にして、一歩も引かぬばかりか、これほどの闘気を放つというのか!)
魔王の三つ目が、驚愕に見開かれる。
(しかも、奴が渇望しているのは『肉の入っていないモヤシ』だと!? 我々魔族ですら、宴ではオークの丸焼きを喰らうというのに……なんというストイックさ! なんという求道者!)
魔王は震える手で、自らの黒きマントを握りしめた。
(間違いない……! 我が軍の経済を破壊し、城を焼き尽くしたこの外道パーティー。その中で最も恐るべき『真の司令塔』は……あのボロ布を纏った女だ!!)
※ただの金欠アイドル(自称)である。
「くっ、くふふ……! はーっはっはっは!」
魔王が再び、狂ったような高笑いを響かせた。
「見事だ……! 貴様らのその『底知れぬ強者の余裕』、そして、モヤシすら至高の糧とするその精神力! この魔王、久々に血が滾るわ!」
魔王の全身から、漆黒の魔力が爆発的に吹き上がる。
空が暗雲に覆われ、周囲の空気がビリビリと静電気を帯び始めた。
「ひぃっ!? なんか魔王が本気出し始めたよ!?」
カイトが『ひのきのクワ』を構え直す。
「ふふ、面白くなってきたじゃない。私の『神酒』で燃えないなんて、なかなか頑丈なボスね」
飲んだくれのルチアナが、虚空から新しい酒瓶を取り出しながら笑う。
「みんな、下がって! ここは私が音速の蹴りで……!」
武道家のキャルルが飛び出そうとするが、魔王はそれを片手で制した。
「小手先の物理攻撃など無用! 我が標的は……そこにいる真の強者、貴様だ!!」
魔王の太い指が、モヤシのことで頭がいっぱいのリーザをビシィッと指差した。
「えっ? わ、私!?」
リーザが素っ頓狂な声を上げる。
「貴様のその底知れぬ力……! 我が魔王軍の粋を集めた『究極魔法』で、そっくりそのまま味合わせてもらうぞ!!」
魔王の瞳が、邪悪な紫色の光を放った。
なろう系RPGにおける最強のチートスキルの一つが、今まさに最悪の形で発動しようとしていた。




