EP 6
【放火】面倒くさいから燃やしまーす
度重なる経済テロと地盤沈下(強奪)を乗り越え、勇者(農民)パーティー一行は、ついにラストダンジョンである『魔王城』の正門前に到着した。
天を衝く漆黒の尖塔。
門の前には、三つ首の魔犬や、完全武装したオーガの近衛兵たちが立ち塞がっている。
「グルルルル……!」
「ニンゲン、ココカラサキハ、トオサン!」
いかにもラスボスの居城といった、禍々しくも胸躍るシチュエーションである。
「よしっ! いよいよ最後の戦いだね!」
農民のカイトが、初期装備の『ひのきのクワ』を構えて気合を入れる。
ここまで一切戦闘らしい戦闘をしていない(すべてルチアナとルナが経済的・物理的に破壊してきた)ため、カイトのHPは初期値のままだ。
「この城の最上階に、さらわれたお姫様と魔王がいるはずだ。……みんな、油断せずに行こう!」
カイトが主人公らしくパーティーを鼓舞した、その時。
「あー……」
最後尾を歩いていた飲んだくれ(ルチアナ)が、特大のあくびをした。
「どうしたのルチアナ?」
武道家のキャルルがウサ耳を傾ける。
「いやさ。よく考えたら、ここから城の最上階まで行くのって、すっごく面倒くさくない?」
「えっ」
ルチアナは、空になった酒瓶をポイッと投げ捨て、だらしない顔で魔王城を見上げた。
「だって、迷路みたいなダンジョン歩かされて、途中で中ボスの四天王とか倒して、落とし穴とかの罠も避けなきゃいけないんでしょ?……歩くのダルいわ」
「ダ、ダルいって……! RPGの醍醐味を全否定しないでよ!」
カイトが必死にツッコミを入れる。
「それに私、もう眠いし。さっさと終わらせてお酒飲みたいのよねぇ……」
ルチアナはフラフラと歩み出ると、空間にぽっかりと穴を開け(アイテムボックスを展開し)、中から巨大な樽を次々と取り出し始めた。
「な、なんだアレは……?」
門番のオーガたちがざわめく。
「ルチアナ、それ何?」
カイトが嫌な予感を感じて尋ねる。
「ん? これ? 私のプライベート・コレクション。神界の特別な果実で作った、アルコール度数99.9%の『神酒』よ。一口飲めば竜でも三日は起き上がれない代物ね」
「なんでそんなヤバい液体を持ち歩いてるの!?」
「フフフ……。ダンジョン攻略が面倒なら、ダンジョンごと燃やしちゃえばいいじゃない?」
ルチアナの瞳が、狂気に満ちた光を放った。
「えっ……ちょ、待っ」
カイトが止める間もなく、ルチアナは【管理者権限(God Mode)】を発動。
無数の巨大な酒樽が魔王城の真上へと転送され、一斉に底が抜けた。
バシャアァァァァァァッ!!!
まるで滝のような勢いで、度数99.9%の神酒が魔王城全体に降り注ぐ。
強烈なアルコールの匂いが辺りに充満し、門番のケルベロスたちが急性アルコール中毒でバタバタと倒れ始めた。
「よし、準備完了っと」
ルチアナは指先でパチン!と小さな火花(魔法)を弾き、それを魔王城に向かってポイッと投げた。
「あ」
カイトの口から、間抜けな声が漏れる。
ドッゴォォォォォォォォォォンッ!!!!
次の瞬間。
魔王城は、爆発的な勢いで天まで届く火柱に包まれた。
度数99.9%のアルコールは、漆黒の石造りの城すらも燃え上がらせる凄まじい火力を発揮し、周囲の闇を昼間のように照らし出した。
「ぎゃあああああ!! 城が! 城が燃えているゥゥゥ!!」
「アツイ! アツイィィ!」
城の中から、魔物たちの悲鳴が響き渡る。
株価暴落とストライキで大混乱に陥っていた魔王城に、今度は物理的な大炎上が直撃したのだ。
「あーらら。よく燃えるわねぇ。キャンプファイヤーみたい」
ルチアナが満足げに炎を眺めている。
「きれい……。お財布の寒さも、少しだけ温まりますぅ……」
貧乏神のリーザが、燃え盛る城に向かって冷えた手をかざしている。
「……火加減が強すぎるな。これでは肉の表面だけ焦げて、中は生焼けになるぞ」
料理人の龍魔呂は、燃える城をオーブンか何かと勘違いしているのか、プロの目線でダメ出しをしている。
「いやいやいや!!」
カイトは、パニック状態の頭で必死に叫んだ。
「お姫様!! 最上階にさらわれたお姫様がいるんでしょ!? お姫様も丸焼きになっちゃうよ!!」
「あっ」
ルチアナが、ポンと手を打った。
「忘れてた。まあいいわ、私の作ったNPCだし、後でデータ復元すれば」
「お前が真のラスボスだよ!!!」
カイトの魂の叫びが、燃え盛る炎の音にかき消されていく。
勇者(農民)パーティーの圧倒的な暴力(放火)の前に、ついに魔王がブチギレて姿を現す時が来た。




