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EP 5

【突撃】天魔窟デパート・コスメフロアの魔物

天魔窟の商業エリアの中心にそびえ立つ、巨大な建造物。

セレブ御用達の超高級デパート、通称『テンマヤ(天魔屋)』である。

その1階の巨大なクリスタル自動ドアが開いた瞬間――。

「ひぃっ……!」

キャルルは、思わず一歩後ずさった。

むせ返るような高級フローラルの香りと、網膜を焼くような眩い魔力照明シャンデリア

大理石の床には、各ブランドの煌びやかなブースがズラリと並んでいる。

「な、なんですかこのキラキラ空間は! 空気が……空気が重いですぅ!」

「シャキッとしなさいキャルル! 堂々と歩くのよ!」

横を歩くリーザが、変装用のサングラスをクイッと押し上げた。

彼女の目は、獲物を探す鷹のようにフロアをギョロギョロと見渡している。

「リーザさん、やっぱり帰りましょうよぉ! 私たち、完全に場違いです!」

キャルルは自分の服装を見下ろした。

動きやすさ重視のパーカーに、ゴツい『鉄芯入り安全靴』。

周りを歩いているのは、シルクのドレスを着た貴族や、全身をハイブランドで固めたマダムばかりだ。

「それに、このフロアにいる店員さんたち……なんか怖いです!」

キャルルのウサ耳が、警戒モードでピンと立っている。

各ブースに立っている美容部員(通称:BA)たちは、洗練された黒の制服に身を包んだサキュバスやダークエルフの美女ばかり。

彼女たちは一見、上品な笑顔を浮かべている。

しかし、その瞳の奥は完全に「客の財布の厚さを値踏みするハンター」のそれだった。

『あら、あちらのお客様……靴が安全靴ですわね。ターゲット外ですわ』

『こちらのオークの女性……所持金は銀貨3枚ってところね。スルーよ』

BAたちの無言のテレパシー(接客の取捨選択)が、キャルルの敏感な聴覚にはひしひしと伝わってくる。

「リーザさん! 私たち、完全に『冷やかし(お金ない)』ってバレてます! 何も買わないのにサンプルだけねだるなんて……恥ずかしくて死んじゃいますぅぅ!」

キャルルが顔を真っ赤にしてリーザの背中に隠れた。

元近衛騎士候補としての誇りが、タダ飯食らいの真似を激しく拒絶しているのだ。

「甘いわね、キャルル!」

リーザがビシッとキャルルを指差した。

「私たちは『冷やかし』じゃない! 『未来の太客ふとぎゃく』よ! 今日はタダで貰うけど、私たちが大スターになって大金持ちになった暁には、ここら一帯のコスメを箱買いしてあげるんだから!」

「そ、それは……何年後の話ですか!?」

「うるさいわね! 行くわよ、まずはあそこの超高級ブランド『魔界堂』のカウンターよ!」

リーザはキャルルの腕をガシリと掴み、最も豪華なブースへとズンズン進んでいった。

鋼のメンタルである。アイドルの図太さここに極まれり。

「あわわわ! 引っ張らないでください! 安全靴で大理石に傷をつけちゃいますぅ!」

ズルズルと引きずられるキャルル。

二人が『魔界堂』のカウンターに辿り着いた瞬間。

「……いらっしゃいませぇ~♡」

甘く、そして逃げ場のない声が響いた。

カウンターの奥から現れたのは、一際美しいサキュバスのチーフBAだった。

「お客様ぁ、お肌のお悩みでございますかぁ?」

豊満な胸元を強調し、魅惑的な香りを放ちながら、サキュバスBAが完璧な営業スマイルを向けてくる。

しかし、その背後には「買わずに帰れると思うなよ?」という、凄まじいプレッシャー(オーラ)が立ち昇っていた。

「ひぃぃっ! 無理ですリーザさん! 食べられちゃいます!」

キャルルが涙目で震える中、リーザはサングラスを外し、不敵な笑みを浮かべてカウンターの椅子にどっかりと座った。

「ええ、お姉さん。最近、肌の乾燥と『サンプル不足』に悩んでてね……。徹底的に、肌診断カウンセリングしてもらおうかしら?」

貧乏アイドルとサキュバスBA。

絶対に金を使いたくない客と、絶対に金を使わせたい店員。

ハイレベルな心理戦バトルのゴングが、今鳴り響いた。

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