第十八章 化粧水、、されど化粧水
【密輸】ルチアナの「地球産・奇跡の神水」
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今回の『仕入れ』は極上品よ~!」
カイト農場の広々としたリビング。
その中央に敷かれたペルシャ絨毯の上に、創造神ルチアナが胡座をかいて座っていた。
彼女の目の前には、風呂敷に包まれた大量の小瓶が並べられている。
深紅のボトル。高級感あふれるガラスの質感。そして、地球人なら誰もが一度は見たことのあるロゴデザイン。
「なになに? 何が始まったの?」
「ルチアナ様が地球から帰還されたと聞いて飛んできましたわ」
騒ぎを聞きつけた農場の女性陣――魔王ラスティア、不死鳥フレア、人狼リベラが集まってくる。
「ふふふ、よく来たわね、美を愛する乙女たちよ」
ルチアナは不敵に笑い、深紅のボトルを一本、高々と掲げた。
「今回、私が次元の壁を超えて……地球の聖地『ギンザ』から密輸……じゃなかった、直輸入してきた奇跡の神水! その名も……」
バァァァァン!!
『SK-∞(エスケー・インフィニティ)』
「えすけー……いんふぃにてぃ?」
ラスティアが首を傾げる。
「そう! 地球の魔女たちが若さを保つために使う、伝説の発酵美容液よ!」
ルチアナは巧みな話術でまくし立てた。
「これ一本で、肌のキメ、ハリ、ツヤ、全てが整うわ。千年の時を生きる魔王も、乾燥しがちな人狼も、これさえ塗れば赤ちゃんの肌よ!」
「おぉぉ……!」
女性陣からどよめきが上がる。
異世界ファンタジーの住人にとって、「地球のテクノロジー(化学)」は魔法以上の未知の力に見えるのだ。
「で、おいくらなんですの?」
フレアが興味津々で尋ねる。
「本来なら金貨10枚(約10万円)はくだらない代物だけど……。今回は特別に! 一本・金貨5枚(約5万円)でどう!?」
「まあ! お安いですわ!」
フレアが即座に財布を出した。
「買うわ! 魔王の威厳は肌からってね!」
ラスティアも金貨を積み上げる。
「私も……カイト様に触れていただく肌ですから、投資は惜しみません」
リベラも真剣な眼差しで購入を決めた。
飛ぶように売れていく深紅のボトル。
ルチアナの目の前に、チャリンチャリンと金貨の山が築かれていく。
その光景を、農作業から帰ってきたカイトが冷ややかな目で見つめていた。
「……ねえ、ルチアナ」
「あらカイト。貴方も一本どう? メンズ用もあるわよ?」
「それさぁ……」
カイトはボトルを手に取り、裏面の成分表示(日本語)を読んだ。
「ただの『デパコス(デパートコスメ)』だよね? 向こうの定価の倍以上してない?」
カイトの記憶が正しければ、高級品とはいえ、ここまで法外な値段ではなかったはずだ。
完全なる転売である。
「チッ、うるさいわね」
ルチアナが悪態をついた。
「いい? 輸送コストがかかってんのよ。次元跳躍の手数料とか、関税(神界税)とか、私の労働力とか!」
「次元跳躍って、君のスキルでタダじゃん……」
「黙らっしゃい! 付加価値よ、付加価値! 異世界で手に入らないものには、それ相応のプレミアがつくの!」
ルチアナは開き直り、金貨の山を抱え込んだ。
「それに、彼女たちが満足してるならいいじゃない。ほら」
見ると、ラスティアたちは早速ボトルを開け、パシャパシャと肌に馴染ませていた。
「ん~っ! 浸透するわ! 魔王の肌が喜んでる!」
「香りもエレガントですわね……♡」
「これで今夜、カイト様の部屋へ……」
全員、幸せそうだ。
いわゆる「プラシーボ効果」も上乗せされているのだろう。
「はぁ……。まあ、みんなが嬉しいならいいけど」
カイトはため息をついた。
女性の「美」に対する執着と購買力は、どこの世界でも経済を回す原動力なのだ。
「まいどあり~! 次回は『ナイトリペア』を入荷するわよ~!」
ルチアナの高笑いがリビングに響く。
だが、この華やかな「爆買い」の影で、金貨5枚という値段に絶望し、ハンカチを噛み締めている「持たざる者たち」がいることに、まだ誰も気づいていなかった。




