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EP 10

龍魔呂特製・Sランク海鮮鍋! 胃袋に染み渡る「幸せの味」

 農場の庭に設置された特大の土鍋から、幸せの白い湯気が立ち昇っていた。

 

 グツグツ、コトコト。

 出汁の香りが、夜風に乗って鼻腔をくすぐる。

 その破壊力は凄まじく、ヤケ酒で荒れていた女性陣も、タバコで黄昏れていた男性陣も、全員が吸い寄せられるように席についた。

「待たせたな。……食うぞ」

 料理番・龍魔呂が、重々しく鍋の蓋を取る。

 パァァァァァァッ……!!

 蓋を開けた瞬間、まるで宝箱を開けたかのような光が溢れ出した。

 

 透き通った黄金色のスープ。

 その海を泳ぐのは、魚人族の国『シーラン』から直送された、プリプリのタラバガニ、大ぶりの牡蠣、脂の乗った寒ブリ。

 そして、主役は中央に鎮座する野菜たち。

 カイトが育てたSランク長ネギ、春菊、シイタケ。

 何より、ひときわ輝きを放っているのが――

「わぁ……! すごい、白菜が光ってる!」

 カイトが歓声を上げた。

 『Sランク黄金白菜(精霊核仕込み)』である。

 煮込まれてクタクタになっているはずなのに、その繊維一本一本が宝石のように発光し、スープに溶け出した旨味が対流となって鍋の中で踊っている。

「いただきまーす!」

 カイトの号令と共に、全員が箸を伸ばした。

 まずは、主役の白菜から。

 フーフーと息を吹きかけ、口へと運ぶ。

 ハフッ、ジュワァァァ……。

 その瞬間、全員の動きが止まった。

「…………ッ!!」

 言葉が出ない。

 噛んだ瞬間、白菜の細胞が解け、中から熱々のスープと共に「大地の甘み」が爆発したのだ。

 それは野菜の甘みを超越していた。

 精霊核から吸い上げた数億円分のエネルギーが、純粋な「コク」へと変換され、脳髄を直撃する。

「な、何これぇぇぇ!? 甘い! 砂糖なんて入ってないのに、フルーツみたいに甘いわよ!?」

 リーザが目を見開いて絶叫する。

「いえ、甘いだけじゃありませんわ! 魚介の出汁を吸ったスポンジのような食感……噛むたびに口の中が『旨味の洪水』になりますの!」

 フレアが頬を赤らめて身悶える。

「……んんっ♡ これ、龍魔呂さんの愛の味だわ……。胃袋が……子宮が熱くなるぅ……!」

 ルチアナは完全にトリップし、虚空を見つめながら白菜を咀嚼し続けている。

 男たちも負けてはいない。

 デュークが蟹の足を割り、身を啜る。

 ズズッ、プリッ。

「ガハハ! 良い蟹だ! 濃厚な味噌と、この白菜の甘みが合わさって、酒が進んで仕方がないわ!」

 リュウもまた、無心で箸を動かしていた。

「あぁ……染みる……。パチンコで負けた心の傷も、嫁に怒られたトラウマも、全部このスープが洗い流してくれる……」

 龍魔呂が作ったのは、ただの鍋ではない。

 カイトの最強素材と、龍魔呂の神業調理、そして「数億円の出汁(元・金塊)」が融合した、食べる精神安定剤だったのだ。

「みんな、美味しい?」

 カイトがニコニコと尋ねる。

 その問いに、新入りのキャルルが涙目で答えた。

「はいぃっ! 私、金塊がなくなってショックでしたけど……こんなに美味しいなら、漬物石にして正解でしたぁ! 龍魔呂さんの料理、世界一ですぅ!!」

「……フン。お世辞はいい。食え」

 龍魔呂は素っ気なく答えるが、その口元はわずかに緩んでいた。

 彼は知っている。

 どんな宝石よりも、客の「美味い」という一言の方が、料理人にとっては価値があることを。

 宴は続く。

 具材がなくなると、最後はご飯と溶き卵を投入し、全ての旨味を閉じ込めた「黄金雑炊」で〆る。

 その一口は、もはや暴力的なまでの幸福感で、全員をKO(満腹)させた。

 ◇ ◇ ◇

 翌朝。

 農場の面々は、昨夜の暴飲暴食が嘘のようにスッキリとした顔で目覚めた(Sランク野菜の回復効果である)。

「あ、カイトさん。おはようございます」

「おはよう、リベラちゃん」

 カイトは今日も元気に畑を耕していた。

 鍬を振るうたびに、ザクッ、ザクッと心地よい音がする。

 ガチンッ。

 また、硬い音がした。

 カイトが土を掘り返すと、そこには――。

「あ、また石だ。……うわ、これまた綺麗だなぁ」

 出てきたのは、拳大の透明な石。

 朝日に透かすと、七色に光り輝いている。

 どう見ても、「最高純度のダイヤモンド原石(推定数十億円)」だった。

「キラキラしてて綺麗だねぇ。……これ、水槽に入れたらメダカが喜ぶかな?」

 カイトが独り言を呟く。

 それを、シェアハウスの窓から見ていたリーザ、ルチアナ、龍魔呂たちが目撃した。

 一瞬の沈黙。

 全員の脳裏に、昨日の騒動がよぎる。

 欲望、争い、絶望、そして……あの最高の鍋の味。

 バタンッ。

 全員が示し合わせたように、そっと窓を閉め、カーテンを引いた。

「……見なかったことにしよう」

「ええ。今の私たちは、お金よりも朝ごはんが大事ですもの」

「カイトに関わるとロクなことにならん。放っておけ」

 彼らは学習したのだ。

 この農場において、金銀財宝はただのトラブルの種であり、カイトの前では「漬物石」や「水槽の砂利」以上の価値を持たないことを。

 カイトは不思議そうに首を傾げ、ダイヤの原石をポイッと用水路に放り込んだ。

「よし、今日も美味しい野菜を作るぞー!」

 平和な(?)朝が、また始まる。

 Sランク農場の日常は、今日も平常運転である。

(第180話 完・黄金の漬物石編 終了)

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