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第33話:一ノ瀬直也

 夕食を終え、保奈美が片付けをしてくれたあと。

 リビングのテーブルにノートPCを広げた。


 本当なら、二階の書斎に籠って仕事をするのが一番落ち着く。

 でも――この家で二人きりになってからは、リビングで仕事をするようにしている。

 保奈美を一人にしたくないし、彼女もまた、勉強をする時はいつもここにノートを広げる。

 同じ空間にいて、別々のことをしている。その距離感が、妙に心地いい。


 ペンを走らせていた保奈美がちらりとこちらを見て、微笑んだ。

 「直也さん、お仕事ですか?」

 「ああ。……ちょっとまとめておきたいことがあるんだ」

 「邪魔しないように、静かに勉強してますね」

 そう言って再びノートに向かう彼女の横顔を見て、胸が少し温かくなった。


 ――だが、頭の中は全く別のモードに切り替わる。


※※※


 視察のメモを報告資料に落とし込む。

 キーワードを画面に並べる。


 ――クリティカルパス。


 ・地熱拡張

 ・温泉街調整

 ・行政特区指定


 この三本柱を突破しなければ、AIデータセンター計画は夢物語で終わる。

 逆に言えば、突破すれば「実現可能」になる。


 問題は――誰が最初にリスクを背負うか、だ。


 資源セクションは慎重。

 電力会社も行政の後押しがなければ動かないし、そもそも調整に時間がかかる。

 経営企画は数字を要求し、経営陣は「確実性」を口にする。

 ……このままでは全員が“慎重派”に回り、プロジェクトは立ち消えになる。


 「社内で決裁を、しかも短期間に通すには、外圧が要る」

 声にならない独白が、胸の奥で重く響いた。


※※※


 オレの指がタッチパッドを滑る。

 視線は資料に、思考は未来に。


 ――外から先に火をつける。


 国がいま全力で推している政策、それは半導体。

 日系資本の「グリゴラ」が新世代GPUの量産を始めている。ウチの会社も出資している。


 もし、このプロジェクトを――「グリゴラ製GPU採用のAIデータセンター」として旗を立てられたら?

 経産省は無視できない。

 国策の文脈に組み込まれる。


 国策に乗れば、資源も経営も逆らえない。

 「国が後押しするならやるしかない」と論理が逆転する。


 オレはノートに殴り書きした。


 【外部布石】グリゴラ幹部接触 → GPU採用前提で提携協議

 【外部布石】経産省政策ルート確保 → 半導体政策担当者へのアプローチ

 【内部効果】=ITセクション内意思決定を後押し

 【全社効果】=総合商社全体の合意形成を加速


 外を先に動かし、内を説得する。

 ――この順序しかない。


※※※


 横でペンを走らせる音がする。

 保奈美は英単語帳に黙々と書き込み、時折首を傾げてはページをめくっている。

 その静かな努力の音に、不思議と背中を押される気がした。


 「……よし」

 小さく息を吐く。


 この戦いは、絶対に負けられない。

 これは日本という国の未来を作るためにも絶対に勝つ必要がある戦いだ。


 画面に浮かぶ文字列を見つめながら、心の奥で呟いた。

 ――だからこそ、このプロジェクトを“国策”に仕立てる。

 そのために、オレ自身が率先して動くしかないな。


 隣で勉強する保奈美の存在が、オレの決意をさらに固めていった。

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