表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/84

第27話:一ノ瀬直也

 視察二日目の夜。会議が終わったあと、宿の温泉に浸かり、部屋に戻ると、廊下で浴衣美人と鉢合わせた。

 「直也くん、ちょっと歩かない?」

 声をかけてきたのは亜紀先輩だった。


 外はもう暗く、温泉街の通りには赤い提灯が点々と灯っている。川のせせらぎと虫の声が響き、東京では考えられないほど静かな夜だった。


 「今日の議論、直也くんはどう思ったの?」

 並んで歩きながら問われ、オレは迷わず答えた。

 「まだ形には遠いけど……充分に可能性はあると思います。条件さえ整えば、最短で5年から7年で実現する見通しも立てられるのではないでしょうか」

 「ふふ。そういうところ、やっぱり直也くんらしいね」


 横顔を見ると、先輩は少し笑っていた。

 「リスクや障害ばかりを並べて、最後は“慎重に検討します”で逃げる人も多いのに。直也は、どうすればできるかを先に考える。……新人の時からそうだった」


 オレは少し肩をすくめた。

 「課題は山ほどありますよ。温泉地との共存も、送電線も、役所との調整も」

 「そうね。……でもあなたが前に立つなら、私はあなたを支えるわ。言っておくけれど、元チューターだからというだけではないわよ」


 さらりと口にされた言葉に、思わず立ち止まりそうになった。

 亜紀先輩の声は穏やかだったが、そこには強い意志が感じられた。


 「直也くんがこのプロジェクトの“推進力”になると私は信じている。ウチの会社だからこそ出来るITセクションの巨大プロジェクトは、あなたのような人が指揮するべきだと私は信じているの。その時に、直也くんをきちんとサポートする役割が必要でしょう?」

 「……サポート……確かに必要ですね」

 「そう。あなたは真面目すぎるから、全部背負い込んでしまうでしょう?でもそれではこういう大きなプロジェクトは絶対に回せない。だから私のサポートは必要よ」


 オレは頷いた。

 亜紀先輩は笑みを浮かべている。

 「だから全部を抱え込まないで、私にもきちんと相談してね。私はあなたの補佐として、この計画に付くつもり。あなたが一人で抱え込まないように、ね」


 温泉街の灯りに照らされた横顔は、大手町のオフィスに居る時と違って、すごく柔らかい。

 「……よろしくお願いします」

 自然に、そう口にしていた。


 翌朝、宿を出る前。

 温泉街を流れる川沿いを少しだけ散策した。山から吹き下ろす風が涼しくて、頭が冴えていく。


 ノートを開き、前夜にまとめた骨子にさらに書き足す。

 - JVスキームを早期に構築(電力会社を含める場合は調整に時間を要する)

 - 国への特区申請の道筋(経産省ルート/環境省ルート)

 - 自治体との合意形成のロードマップ(温泉組合説明会→還元策提案→観光振興基金)

 - 初期投資分散のためのモジュール方式による段階的開発


 そこへ亜紀先輩が顔を覗き込んだ。

 「朝からもう動いてるの?」

 「ええ。せっかく現地に来たんですから、考えをまとめておきたくて」

 「ほんとに……あなたは仕事が好きね」


 呆れたように笑う先輩。

 けれど、その目には確かな期待が宿っていた。


 この出張で掴んだものは大きい。

 いける筈だ。――AIデータセンターを、日本資本で、しかもエコ電力で支える未来は、現実のものになる。いや、絶対出来る。


 帰りの新幹線。東京に戻る前に、オレはそのたたき台をまとめ上げる決意を固めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ