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第7話:一ノ瀬保奈美

 熱が体を支配している夜だった。

 頭はぼんやりと重く、体中がだるい。布団にくるまっても汗ばかりが滲み、喉は焼けるように乾く。


 「はぁ……」

 小さく息を吐いて、目を閉じてもすぐに覚めてしまう。


 自分の部屋の天井は、夜になるとやけに暗く見えた。

 昼間はなんてことのない景色なのに、ひとりで目を覚ますと、胸の奥に冷たいものが広がっていく。


 ――一人ぼっち。


 その言葉が頭をよぎるだけで、涙がにじみそうになった。

 母が亡くなってから、こういう夜は何度かあった。

 声を出して泣いたら直也さんに迷惑をかけるから、ずっと布団をかぶって我慢していた。


 でも、この夜はさすがに辛かった。

 熱が高すぎて、心細さも倍増してしまったのだ。

 部屋で寝ようとして、涙が出てきてしまった。


 気がついたら、私は毛布を抱えて階段を降りていた。

 リビングの明かりの下、直也さんがパソコンに向かっていた。

 「……どうした?」

 驚いたように顔を上げる直也さんに、私は俯きながら呟いた。

 「……一人で寝てるの、ちょっと怖いの」


 本当はこんなこと、わがままだって分かっている。

 でも、どうしても一人では耐えられなかった。


 直也さんは、一瞬だけ目を瞬かせた。

 けれど次の瞬間には、ごく自然に頷いてくれた。

 「……そうか。分かった」

 リビングの床に布団を引いてくれた。


「ここで仕事してるから、安心して寝なさい」

 嫌な顔ひとつしない。

 私を困った子だと思う素振りすら見せない。

 ――ああ、お義兄さんは、本当に優しい。


 布団に横になって毛布をかぶる。

 直也さんのタイピングの音がカタカタと耳に届く。

 そのリズムが、まるで子守歌みたいに心地よかった。


 ちらりと横を見ると、スーツ姿の直也さんが真剣な顔で画面を睨んでいる。

 その横顔を眺めていると、不思議と安心できた。

 「……直也さん」

 名前を呼ぶと、すぐに「ん?」と返事が返ってくる。

 それだけで胸がじんわりと温かくなった。


 いつの間にか瞼が重くなり、視界が滲んでいく。

 こんな夜でも、もう怖くない。

 側に直也さんがいてくれるから。


 最後に意識が薄れる直前、胸の奥で小さく思った。

 ――もし一人だったら、私は泣いていた。

 でも今は大丈夫。

 直也さんが「一緒にいる」って言ってくれたから。


 そうして私は、安堵に包まれながら眠りについた。

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