20.武器屋にて
「武器かあ、確かに必要だよなあ…」
「むしろ、ナズ姉が言い出すまで誰も気づかなかったのが問題ですね」
「うん、さすがにナイフと杖だけは心許ない。そもそもナイフは採取用に買ったようなもんだし」
「…結構、魔物の首かっ切るのに使ってたけどな」
「包丁もな」
他の冒険者に見られたら頭どうかしてんのかとか言われそうである。
まともな武器が鞭(予定)だけって。いや、杖も一応鈍器として使えるのか。
「それで、前に武器屋のおっさんから教えてもらった武器屋に行ってみようかなと」
「あー、いいかも!」
「私は、今は杖でいいです。なかなか振りやすいので」
「…うん、攻撃力はともかく、結構様になってたな。正に撲殺天使」
「腰の入ったフルスイングはとても頼もしかったぜ妹よ」
「誰が撲殺天使ですか」
「まあ、でも助言欲しいしハルも一緒に行こうぜ」
「いいですけど」
そんなわけで、三人で一旦武器屋に行ってみることにした。
ナズは留守番だ。というか、集中して自分の思い描く鞭を作成中である。もちろん糸が必要だということで、ラテも残る。
ラムはどうするかと聞けば、行くのが武器屋と知って残ることを決めたらしい。多分屋台とかだと着いてきてただろうな。
なので今はナズとラテの近くに居座ってプルプルしつつ鞭づくりを興味深そうに眺めている。
こっちはハルがいるし、キャンピングカーに戻ってくる時もキョロキョロしまくらなくてすむので安心だ。
隠密ってマジで便利だなって再確認したよね。察知能力とかないもんだから、誰かに見られてやしないかとめちゃくちゃ警戒したもん。
「最悪、包丁とナイフと杖でいいけど、もっとよさそうなのがあれば買いってことでいいか?」
「それでいいと思う。もし武器が使ってほしそうにしてたら教えるよ」
「リオ兄さんのスキルって、そういうのもわかるんですか?」
「てか、相性がいいっていうのか、この使い手なら自分をうまく使ってくれそうって武器の方がわかるというか…説明しづらい」
「ああ、スキルのことってたまに言語化しづらい感覚ありますよね」
「わかる。俺も料理中、ここでこれ入れる予定なんてなかったのに絶対入れた方が良いって直感みたいなの働いたりする」
「アキ兄さんの料理で今までハズレってないですから、その料理も美味しく出来たんでしょうね」
「うん、直感に従ってよかったなって思ったりする」
やっぱりスキル補正みたいなのがあるのかもしれない。
僕も似たような感覚はあるし。やったこともないのに、こうすれば上手く行く、みたいな、正解を引き当てる感じというのか。
キャンピングカーに魔力を込めるということも、それでやり始めた。何で突然そんなことする気になったのかと思ったけど、結果出来た。
そして込めた魔力量が一定に達したら、キャンピングカーに追加機能をつけられるというのも知った。
召喚の時に使うパネルの、メニュー表示。そこに『追加』という項目ができて、キャンピングカーが選べるようになっていた。
その項目を選ぶと魔力を流し込める。そして、一定以上の魔力が流し込まれれば、追加機能をつけることが出来る。
グレーアウトしてるので選ぶこともタップすることもできないが、何が出来るかはわかった。
キャンピングカー以外にも『追加』できるものはあるみたいだけど、今の所キャンピングカーしか選んでない。
試しに木の板を選んでみたら、込める魔力はわずかですむが、色の変更とか木の材質を檜からブナに変更できるとか、どうでもいい追加内容だったのだ。
選べるのは、召喚したもののみ。そしてそのモノによって、追加項目は違う。単純なモノだと、大したことはできない。
結果、キャンピングカーくらいしか、魔力を込めて追加機能をつけたら役立ちそうなものがなかったのだ。
ノートの横線を縦線に変えられるとか、今全然いらないだろそんなの。普通に縦線入ってるノート召喚するわ。
そういうわけで、今少しずつ魔力を流しているわけである。1日に少しではあるけど。
ちなみに追加機能を反映させると、結構な経験値が入るような気がしている。魔力流している行為自体はあまり経験値にならないけど。
「おお、でかい」
「さすが大通りの武器屋ですね」
「防具もあるっぽいな」
うだうだ考えてたら武器屋に着いた。さすがに中はムキムキがいっぱいパラダイスである。
店番も鍛冶師みたいでムッキムキである。何か僕らがすごく小さく見えるな。縦も横も。
「あ、槍だ。かっこいい」
「槍の長所は間合いとれるとこだよな」
「私たちみたいに小さいと、間合い大事ですよね。突きは難しそうですけど」
「剣の方がいいかなあ。斬るって行為なら当たり判定でかそうだし」
「上手く刃を立てないと斬れないけどな。でも使い勝手がいいせいか、剣だけで色々種類がある」
「大剣にレイピア、片手剣、とりあえず大剣は無しでしょうか。絶対持てませんよ」
「レイピア軽そうだけど、突き特化のイメージあるなあ」
「片手剣が一番かな?」
三人で商品の前に立ってあれこれ意見を言い合う。何か周りでポカンとしたムキムキが多いけど、何かおかしいこと言ってるんだろうか。
武器選びに来たんだから武器の話するのはおかしくないよな…?それとも、子供がこの店の武器なんて早いって思ってたとか?
多分ここ、結構大きな武器屋で商品も充実してる。冒険者でも中堅の人が利用するような店なのかもしれない。
早い話、それなりのお値段がするわけである。払えねえだろと思われてる可能性あるな。
1つくらいなら買えるので冷やかしじゃないけど。うん、1つなら…1つで精いっぱいとも言うけど…
「何だ坊ちゃん達、案外ちゃんと考えてんだな」
「ふぁい?」
「いや、テメーらくらいの年のが来る時は大抵身に合わねえもん買おうとしたり眺めるだけで買わねえかのどっちかが多くてよ」
「あー…」
店番してたムキムキさんが答えを教えてくれた。
うん、冒険者になれてヒャッハー状態の子供たちじゃないかな、それ…?
僕らは冒険者になって少し経ってるので、冒険者だヒャッハーの熱(?)は落ち着いてるし、ほぼ丸腰状態で魔物と戦うのは危険って身に染みてるし。
身を守るための武器は、きちんと選ばなきゃっていう思いがあるせいかもしれない。
あとは。
「ここの武器屋をおすすめされたから?」
「あん?誰にだ?」
「アキ兄さん、ハル、あのおっさんの名前知ってる?」
「そういや知らないな」
「聞き忘れましたね。向こうの路地にある武器屋のおじさんです。ナイフ買ったらおまけで杖をくれました」
「あっちの路地っつーと…あいつか!あの偏屈がここを紹介したのか」
「偏屈?息子さんが働いてるとか話してくれたけど」
「ああ、自分のとこよりここの方がいい経験になるとか適当言い腐ってな。まあ、あいつも腕はいいんだが、教えるのは苦手なもんでよ」
「へー」
「つかナイフ買ったっつったか?テキトーな商品しか並べてねえだろ、あそこ。上手く作れたもんは店に出さねえんだよあいつ」
「ええー…でも結構使いやすいから重宝してるんだよなあ…」
「リオくん、採取にも解体にもあのナイフ使ってるもんな」
「腕はいいから、片手間に作ったもんでも錆びにくかったり丈夫だったりはするんだがな」
「あー、確かに作りはしっかりしてる感じするかも」
何より、意思疎通が出来る程のモノだからなあ。思ってたよりすごい鍛冶師だったのか、あのおっさん。
とりあえず、おっさんの知り合いということで、色々見てくれることになった。店番いいのかと思ったら、別のムキムキが店番に入ってた。弟子らしい。
「赤髪の小僧、手ぇ出せ」
「え?俺?」
「…刃物と相性が良さそうだな。買うなら剣にしとけ」
「え、そんなのわかんの!?」
「そいつの相性のいい武器なら何となくな。まあスキルがあるわけじゃねえが、今まで武器と武器を使う奴を多く見てたからわかる経験則ってやつだ」
「すげえ!俺、剣買うよ!」
「おお。そっちの眼鏡のボウズも手ぇ出せ」
「あ、うん…」
「あん?何だこりゃ…」
「えっ」
「…足か?ちっと掴むぞ」
「え、うん」
「…足だな。足をガードする…こりゃ武器じゃなくて防具だが、足甲と脛を守って…思い切り蹴れ」
「蹴り」
「上半身より下半身の筋力のが強そうだ。ちっと覚えはあんじゃねえか?」
「まあ、攻撃なら足の方が間合いあるし力込めやすいから蹴りかますことはあったけど…」
足癖が悪いと言われたこともある。
いや、こっちに来てからはそんなことしてないから言われてないけど。
「リオ兄さん、今までナイフでざくざくしてたの、非効率だったんですね…」
「言うな、切なくなる…」
「向いてる攻撃と向いてねえ攻撃ってのはある。次から足技意識してやってみろ」
「あ、わ、わかった」
「リオくんまさかの足かー」
「んで、このちっこい小娘も戦うのか?見るからに魔術師系だが」
「魔法使えません」
「…そうか。まあ、手ぇ見せろ」
「はい」
「…お前も刃物だな。だが小僧と違って軽い方が良い。それこそナイフとかか」
「えっ今まで杖で殴ってたんですけど、ダメでしたか」
「杖ぇ?…正直、あんま向いてねえな」
「そんな…!?」
「あんないいフルスイングだったのに…!?」
「僕らの撲殺天使が撲殺できなくなった…」
「オメーらどういう戦い方してきたんだ。よく生きてたな」
「仲間(※ラテとラム)が優秀だったので」
少ない武器を駆使して戦ってたのにめっちゃ非効率だったらしい。何てこった。
ええ…これ、ナズ連れてこなかったの失敗だったか?後で見てくれたりするのかな…
「とりあえず、僕が使ってるナイフ、ハルに渡そうか…?」
「そ、そうですね」
「いや、新しく買ってけ。どの道、採取やら解体のために別のナイフ持ってんのが普通なんだ。戦闘にまで使うな」
「言われてみれば確かに」
「酷使しすぎてたか…」
ここは武器の専門家の言う事を聞いておこう。
まずアキ兄さんを剣がずらっと並ぶ場所に連れて行ってた。
それで、適当に…いや、ムキムキさんから見れば相性の良さそうなのを片っ端にアキ兄さんに渡していた。
1つ渡してすぐ別のを渡す。それを繰り返す。アキ兄さんが剣持ってるの2~3秒なんだけど大丈夫かこれ。
そう思ってると、ある剣を渡したところでムキムキさんとアキ兄さんが目を見開いていた。
「…これだな」
「…今の…」
「ん?何かあったか?」
「え、あ、いや、何て言えばいいのかな。しっくりきた、っていうか…?」
「ああ、だろうな。この剣が一番小僧にゃ良さそうだ。ちっと高ぇか。よし、まけてやる」
「え、いいのか!?」
「武器なんざ使われてこそだろ」
(そうだそうだ!ぼくこの子がいい!)
アキ兄さんの武器が決定してしまった。マジで相性がいいらしい。剣をアキ兄さんが持った瞬間、剣がはしゃぎだした。
目覚めたという感じだろうか。形としては、少し包丁に似ている。片刃だけど、刀と違って反りはない。まあこの世界に日本刀はないだろうが。
幅は普通の両刃剣より広いが、長さは短い。あと厚さもさほどではないようで、アキ兄さんの腕力でも振り回せる軽さのようだった。
一応片手剣に分類されるらしいが、剣に慣れてないので両手で持った方が安定するとの助言がムキムキさんから出た。
「予算オーバーだ!まけてくれたけど、ここまで高いの買う予定じゃなかったからびっくりだ」
「でもアキ兄さんもそれがいいんだろ?僕もその剣に賛成だけど」
「うん、これがいいって思った。共用資金に手をつけることも考えたくらい、これ以外買いたくないって思った」
(へへーん!あったりまえだろー!ぼく以外なんて選ぶなよ!)
「まあ、アキ兄さんの戦力がアップするなら共用資金使っても構いませんでしたが。多分ナズ姉も納得してくれるでしょうし」
「お前ら結構金持ちだったんだな。よし、じゃ次は眼鏡のボウズな」
「あれ、さっきの防具で決まったんじゃ…」
「どうせなら一番合うのを選んでやる」
「う、うおお、お願いします…?」
「おお、ガキのくせに敬語使えんの珍しいなお前ら」
やべっ。まあいいけど。
武器程充実してないけど、防具のコーナーに引っ張られてきた。手甲、鎖帷子、鉢金なんてものもある。
一応全身の防具は一通り揃ってるらしい。その中の、足の装備を選び出した。
靴を脱いで、脛にいくつかの防具をあてられる。助言として、靴にも鉄板みたいなのを仕込んだ方が攻撃力が増すと言われた。
さすがに靴はサイズの問題があるので、ここでは揃えられないらしい。まあサイズも考えたら専門店だよなあ…なので膝から脛部分だけだ。
靴の上からはめろと言われた。踵に近い部分までガードされてるからな。
金属だったり、硬い皮だったり、色々だ。その中のひとつを装備した時。
《蹴術スキルを習得しました》
「は?」
「お、これがいいな…って何だよ?」
「あ、いや、何でも…」
「変な奴だなお前ら」
なるほど、さっきアキ兄さんが呆けた声出したのはこれか。多分、剣術スキルあたり習得したんだろうな。
まさか、こんな形で攻撃スキルを取得するとは思わなかった。適した装備品を身に着けるだけで…?
となると、今までナイフや杖使ってた僕らに剣術スキルや杖術スキルの才能はないってことなんだろう。
相性のいい武器じゃなかったとしても、結構使ってたのにそれでも習得できてないんだから。
その割にはアキ兄さん、包丁じゃ習得しなかったな?剣術スキルじゃなかったかな?
「よし、最後は嬢ちゃんだな」
「お願いします」
ハルは剣の中でも軽くて刀身が短いものを渡されていた。ナイフ、ダガー、何か苦無っぽいのもある。あと針まで。針!?
ああ、でも針って投げて刺すとかやるもんな、忍者とかやりそう。職業に忍びがあったし、向いてるのはそっち系なんだろう。
結果、ダガーと苦無のようなものの相性がよかったらしい。2つか。でも小さい武器なのでその分安いのもあって、両方買っていた。
結局全員、予算オーバーではあるが有り金で買える金額にまでまけてくれたのだ。も、申し訳ない…
「こういう相性のいい武器を宛がうのは楽しいんだ。損はしちゃいねえから気にすんな」
「あ、ありがとう…!」
「何かもう、感謝しか出来ない…」
「本当にありがとうございます。今まで随分非効率なことをしてたのがわかっただけで本当に嬉しいです」
「やっぱり、自分で判断するより専門家に聞いた方がいいな、こういうの…」
「ほんとそれ。あと紹介してくれたおっさんにもお礼言おうか」
「賛成です、アキ兄さん。この後行きましょう」
「おお、よろしく言っといてくれ」
そこで店を出た。そして宣言した通り、ナイフと杖を買った武器屋に行って、お礼を言った。
感謝されるようなことじゃないって言われたし、いい武器買えたろって満足そうに言われた。何だこのおっさんいい男だな。
せめてとナイフをもう一本買った。採取する時、ナイフ一本だとちょっと不便だったからだ。
その後は店を出て帰路につく。小声で話しつつ聞いたところ、アキ兄さんは『剣術』スキルを習得したらしい。予想通りだった。
逆にハルは予想外で、『短剣術』というスキルを習得したそうだ。同じ剣術じゃなかったのか。
ああ、もしかして包丁は短剣術に属してるからアキ兄さんは習得できなかったのか。
そして今思い返したら、ハルは戦闘中大体杖で撲殺していたので、ナイフを使って戦うことがなかった。スライムのとどめくらいか?
採取は基本、ナイフの持ち主ってことで僕がやっていたし、バラバラに散って採取する時は根から採るものばかりだった。
つまり茎から切って採取するタイプのものはほぼ僕がやっていた。たまにアキ兄さんが包丁で手伝ってくれたけど。
ハルに一回くらいナイフ握らせて戦わせとくべきだったか。相性よくないナイフでも、数回使ってれば習得できてたかもしれない。
「ナズも何か得意武器あるんじゃないかな」
「でもリオ兄さんみたいに『蹴術』とかだと気づけないのでは?」
「マジで予想外だった。いや、よく邪魔なもの蹴り飛ばしたりはしてたけど、スキルになるほどとは…」
「足癖悪いのか?」
「悪いかもしれない」
「ナズ姉に、リオ兄さんの靴はちょっと工夫してくれるよう言った方がいいかもですね」
「それだわ。何か負担かけまくってるなあ」
「戦力増強になるなら文句言わないと思うけどな?」
「むしろそういう靴作るのやる気出しそうです」
キャンピングカーに戻ったところ、ナズの武器は完成していた。おお、立派な鞭だ。
でもそれを持ったナズは何だか微妙そうな顔をしていた。
「どうした?ナズ」
「うまく作れなかったのか?結構良さそうだけど」
「や、そうじゃなくて、何かこれ持った時に…」
「…?ナズ姉?」
「『鞭術スキルを習得しました』って、声が…」
「………」
「………」
「………」
「あ、アキ兄?リオ兄?ハル…?」
「ブルーデス、お前もか」
「…え?」
「何か違わないかアキ兄さん」
「ただの青ですね」
まさかの全員が攻撃スキル習得。何てこった。一戦もしてないのに強くなってしまった。(概念)
でもナズを武器屋のムキムキさんの所に連れて行く手間が省けたのでヨシ!




