21.スキル習得
「マジかあ、武器屋でそんなことが…」
「そういうわけで、僕たち全員攻撃スキルを取得したわけだし、ちょっと試した方がいいと思う」
「うん、ぶっつけ本番で戦うのは危険だ。一日町を出る日を遅らせたとしても、ある程度慣れてるこの辺りで感覚掴んだ方が良い」
「旅に出たら、ゆっくり検証とかする時間取れないでしょうしね。私は賛成です。やってみないとわからないことって絶対あると思うし」
「だから明日、討伐依頼受けがてら戦闘してみないか?いざという時はラテやラムに助けに入ってもらう形なら多少の無茶も出来ると思う」
「う、うん…」
「あ、ナズは予定通り、足止めやってくれればいいからな?正直、ラテと同じことやってくれるのもう一人いたら助かる」
「敵が複数来た時とかだなー。いや、ラテなら多方向に糸出して止めれそうだけど」
ラテが前足を上に上げてやる気をみせている。どうやら、ナズの手伝いとか見本をやると知って張り切っているらしい。
そんなわけで、明日一日使って戦闘系スキルのお試しをすることになった。レベルが上がるといいけど、そこまでは望まない。
うまく使えるように、ある程度使えるようになれば及第点といったところか。
というか一番危険なの僕か?蹴りってことは間合い詰めなきゃだもんな。これ体術スキルとかないと厳しくないか?それとも蹴術スキルで補正入るか?
「リオ兄が一番武器使いそうなスキル持ちなのに、丸腰なのかー」
「ほんとだ。無機物干渉って絶対武器と相性いいだろ。なのに蹴り?別に悪いわけじゃないけど違和感あるよな?」
「武器屋で、片っ端から武器を手に持たせてみればよかったですかね?」
「うーん、多分だけど、この世界にない武器が得意武器の可能性あるんじゃないかなって」
「この世界にない武器…?」
「銃火器とかボウガンとか」
「…確かにこっちにはなさそうやな…」
「銃だと百発百中ってことですか?それはありえそうですね」
「あー、そういうパターンもあるのかー」
「単純なものより複雑な、人の手が入った工程が多いものほど声を聞きやすいから…あと人が超大切にしてたものとか」
「あああああ、なるほどー」
「それは、確かに吹き矢より拳銃、弓矢よりボウガンの方が複雑な構造してますね…」
別に声を聞くだけなら単純なものでも聞こえるといえば聞こえる。雑音混じりだったり、言葉になりきれてなかったりはするけど。
元々、あっちでも武器なんてほぼ使ってない。僕の能力は攻撃に向いた能力じゃなかったから。どちらかと言えば防御寄りか。
ひたすら呪いやら何やらをスルーするだけの体質持ちに大層な役割を求めるだけ無駄である。
「というか、気になったのが相性のいい武器を持っただけでスキル取得したってことなんだけどさ」
「ん?何か気になることあるか?」
「リオ兄さんの懸念、ちょっとわかったかもしれません。私たちがこうなら、他の勇者もそうなのでは?」
「…あああ!」
そう、気になったのがその部分だ。
同じ勇者である以上、僕たちに出来たことが出来てしまう可能性が高い。
ほとんどが1つのスキルしか持ってなかったはずだが、今でもそうなのかはわからない。
むしろ僕たちがこれほど簡単に取得できてる以上、攻撃スキル持ちはもっと攻撃系スキルが充実してしまうのではないか。
それだけでなく、あちらに残った勇者がスキルを取得しまくったりしたら。それを城のやつらが目の当たりにしたら。
落ちこぼれだと呼んだ勇者たち、逃げた僕たちにも価値を見出してしまうかもしれない。
僕たちは、逃げた後に追手はあったとしてもしばらくすれば諦めるだろうと思っていた。それは、僕たちが戦えなくて価値のない存在だから。
でもその前提が覆るとしたら?最初に取得したスキルが奴ら基準のクズスキルだっただけで、2つめ3つめに取得するスキルが奴ら基準のいいスキルである可能性がある。
そのことに気づかれれば、何が何でも連れ戻そうとしてしまうんじゃないだろうか。
それらのことに思い当たったアキ兄さんとナズが青い顔をした。そしてアキ兄さんが弾かれたように叫んだ。
「てか、探索関係に強いスキルとかを残った誰かが覚えたらヤバくないか!?」
「今は大丈夫でしょうけど、時間が経てば怪しいですね」
「時間!?」
「どんな凄いスキルでもレベルが低いうちは大したことは出来ないからだろ。僕らのスキルがそうだし」
「MPの消費も大きいし、ある程度のレベルがないとMPも増えませんし」
「あ、ああ、スキルレベルが高くて強力な派生能力が発現しても個人のレベルが低いと『MPが足りません』状態になるのか」
「ええ、なのでしばらくは大丈夫かと。スキルレベルが低いうちは範囲も狭いですし、物理的に離れてればほぼ大丈夫のはずです」
確かに、僕の無機物干渉スキルもレベルアップとともに効果範囲は広がってる。
でも逆に言えば、レベルが低いうちは触れないと効果がなかったくらいだ。効果範囲はレベル依存、これは間違いない。
なら探索系スキルと言えど、レベル5くらいになってたと仮定しても王城内がせいぜいか?王都全体を探索できるのはレベル10とか、もっとか?
それに、スキルレベルは上がると次のレベルまでの経験値が増える。経験値稼ぐためにはMPがいる。
基礎レベルも並行して上げるとしても、魔物と連日戦っていようが、そこまで上がってない可能性が高い。
王都周りだと弱い魔物ばかりだからだ。まだトランタの方が魔物が強いし、王都近くにダンジョンもない。経験値もあまり溜まらないはず。
「でもそれだと遠出する可能性はない?もうちょっと経験値稼ぐためとか言って。だってあたしら実地訓練とか一回やってるじゃん。二回目三回目やりそうじゃない?」
「いや、僕らが逃げたことで、勇者たちへの監視強まってると思う。早々王都の外にすら出さないんじゃないか?」
「あー、なるほど。その可能性あるよね」
「そう考えると、あっちに残ってる戦闘スキルメンバーも私達と大差ないレベルかもしれませんね」
「スキルレベルはともかく、個人のレベルは魔物を倒さないと得られないみたいだしな。何なら俺らの方がレベル高い可能性もあるか…?」
「魔物の持つマナを吸収して経験値として蓄積されるとか、そんな理屈でしたっけ。だから強い魔物程経験値が多い」
「ってなると、追手の問題は…まだ大丈夫そうか?」
「確実じゃありませんけどね。ただ初期スキルで調査や探索関係のスキル持ちはいなかったはずです。攻撃系の、『あちら側』には」
「まあ、物理的な距離を取れば取るほど僕らが有利なのは変わらないし、色々確認出来たらトランタの町も出ようか」
「そうだね、賛成」
そんなこんなで次の日、森に魔物退治に来た。依頼は「ゴブリン退治(15匹)」を必死に頼まれた。
間引きしないと増えるのに、やりたがる冒険者が少ないからぜひ討伐してほしいとのこと。うええ、ゴブリン初めてなんだが。
女性冒険者が多いパーティに頼むのは気が引けるという理由で頼まれてしまった。女四人なんだよなあ…
弱いのと群れじゃなければ頭が悪いので討伐はしやすい。が、オークと違って食えないため嫌われている魔物だそうだ。そらそうだ。アキ兄さんも嫌な顔したし。
受付の人に向かって「食えない魔物の討伐…?何だそれ拷問か?」とか言い放ったからな。この人、ライビ(ウサギ肉)大好きだから…
まあ、依頼として受けてしまったので倒すしかない。しかし人型の魔物は初めてだな。ナズは大丈夫だろうか…駄目かもしれない。超震えてる。
「そ、装備変わってますよね」
少しでも空気を変えようと思ったのか、受付の人がそう言った。
アキ兄さんは剣持ってるし、僕も足元固めてるし、ナズとハルも腰の帯部分に武器を括り付けてる。
「ああ、昨日新調したから、その、試す意味もあって討伐依頼を…本当は慣れてるライビあたりを狙ってたんだけど」
「ライビ狩ろうとしてるのはアキ兄さんだけだから」
「食欲まっしぐらじゃないですかアキ兄さん」
「そ、そうでしたか、すみません。本当は、慣れてる魔物の方がいいのはわかってるんですけどね」
だよな?受付の人がそういうことをわからないはずがない。
それをわかってて尚これを受けて欲しいと言ったのだとしたら、何か理由があるのかもしれない。
「…何かあったんですか?まさかゴブリンの異常繁殖とか?」
「ああ、いえいえ違います。定期的にゴブリンの間引き強化をしてるんですが、生憎やりたがる人が少なくてちょっとノルマが…」
「あー、異常繁殖の『対策』の方か」
「ええ、冒険者の言い分もわかるんですけどね。実入りが大事ですから。でもギルドとしては間引きも重要なので」
「食えないし討伐しても安い金にしかならない。確かに嫌がる仕事だろうなー」
「元々、武器の調子を見るのが目的でしたし、ゴブリンでもいいのでは?ライビやスライムは森のほぼ全域にいますし、ゴブリン狩りの合間に狩ればいいじゃないですか」
「それもそうか。ゴブリンしか狩っちゃいけないわけじゃなし。よし、受けよう」
「ありがとうございます…!もちろん、15匹以上討伐していただけたらその分も討伐依頼と同様の金額をお支払いしますので!」
「え、ほんとか?えーと、ゴブリンていくらだっけ?」
「確か通常買い取りが10ゴルダ、討伐依頼時の買取が20ゴルダです。2倍ですね」
「じゃあ15匹倒して300ゴルダ、いつもなら20匹倒したら350ゴルダのとこ400ゴルダくれるってこと?」
「え?…え、ええ、そうです。…計算、早いですね、アキさん」
「…そうかな?」
「ふっ、食料買い出しで市場に突撃しまくってるウチのアキ兄さんをナメてもらっちゃ困る」
「あ、ああ、なるほど…それは確かに身に着きそうですね」
あっっっっぶな。文字読めない設定、頭良くない設定忘れかけてた。普通に計算できたらまずいよな、たとえ小学生レベルでも。
アキ兄さんもまずって顔したし。一応誤魔化せたとは思うけど、どうかな…あとで三人にナイス言い訳!って超感謝された。
内心冷や汗だらだらでギルドを後にして森に移動した。ゴブリン目当てなのでいつもとは違う場所だ。ここは門番さんに教えてもらったゴブリンスポットらしい。
そんなスポットいらないと切実に思うが、駆除しても討伐しても殲滅してもひょっこり出てくるらしい。しぶとすぎだろ。ゴキかよ。
そのゴブリンスポットに到着し、しばらくは採取などしてゴブリンが湧いてくるのを待つことにした。
テンションだだ下がりのアキ兄さんも、ハーブなんかを採取できてホクホクしていた。ハーブティのラインナップすごいことになってるんだが。
あとはナズがファタの花を見つけて喜んでいた。まだ綿は採取か買うしかないからな。そのうち綿も絶対召喚できるだろうけど。
しばらくそうして採取をしていたら、ラテとラムが反応した。どうやらゴブリンが出たらしい。
初めて見る魔物だ。緊張感が漂い、全員で一ヶ所に集まる。幸い現れたゴブリンは一匹だった。
緑色の肌に醜悪な見た目、背は小学生低学年くらいか。まったく可愛くない。何せ顔オッサンだからな。
僕達を見つけて、ニヤァ…と嫌な笑い方をした。全員女だと察知したのだろうか。いやラムの性別は迷子だけど。
「ギィ!」
「ゲギャ、ゲゲギャッ」
ラテも生理的に駄目だったのか、それは不明だが一声鳴いてナズを見て、それから糸をゴブリンの足元に吐きかけた。
地面と足に張り付き、ゴブリンの動きが止まる。足に糸が絡みついてるのを見たゴブリンは、それを剥がそうと躍起になっていた。
ここで不利を悟って逃げたりこっちを警戒したりせずに、目の前のこと…糸のことしか見えてないあたりが頭悪いと言われる所以なんだろう。
どの道、こっちにはチャンスだ。ゴブリンに怯え切ってるナズは参戦できないが、それはそれとして。
「ナズ、次は出来るか?」
「…え、っ?」
「ラテはお手本見せてくれたぞ。人型は足を止めれば動きを制限できるぞって実演してくれたんだ」
「…あ…っ」
「次、ラテの役割、できるか?」
「………やるっ!」
「よし、じゃあこいつは僕らでやろう。誰が行く?僕が行こうか?」
「いや、俺が行く!」
剣を抜いたアキ兄さんがゴブリンを見据えた。ゴブリンは未だ足の糸をどうにかしようともがいている。
これは真剣勝負でも何でもない。放置すれば人間に牙を剥く魔物の討伐依頼だ。戦いは、よーいドンで始まったりしない。
アキ兄さんが駆け出して、剣を振るった。間近に来たところで初めてアキ兄さんが迫ってることにゴブリンは気づいたが、何も出来ずに斬られた。
あの長さの剣を振るったのは初めてのはずだけど、スキル補正があるからか、一撃で仕留められたらしい。
「うぇえ、グロい。討伐証明って耳だっけ?」
「そうです、右耳。ピアスのようなものがついてる方です」
「いっちょまえにオシャレしてんのかよ」
「ピアスに見えるホクロだそうです」
「は?」
「あの、できものみたいに見えるホクロ、あれが右耳にあるそうです」
「…これ、ホクロだったんだ…全然知りたくなかった…」
「この異世界に来て一番のクソゴミ知識な気がする」
「リオ兄に同意」
「私も知った時、多分しわしわな顔してたと思います」
アキ兄さんは、いつも使ってた包丁で耳を切り取っていた。討伐証明は、それを入れる専用のバッグを預かっているのでそこに入れる。
マジックバッグもどきで、重さも容量も変わらないが、まあ、匂いとか血とかが漏れず染みずで保たれる謎バッグである。
討伐証明はほぼ魔物の体の一部なので、血などの問題がどうしても起こる。それでなくとも魔物の一部を自分の荷物に入れたくないという冒険者は多い。
そんなわけで、討伐依頼を受注した際は該当の魔物に適したサイズのマジックバッグもどきを借りられるのだ。
ゴブリンは耳なので最小サイズである。これがゴーレムとかだと魔石とかなのででかいし重い。この場合は容量や重量軽減のバッグが貸し出されるそうだ。
依頼報告時にはバッグ丸ごと受付の人に渡せばいいというわけである。
さて、これで15体のうち1体討伐、と。
「さ、次を待つか」
「一体ならナズが足止め、二体以上ならラテもお願い」
「キー!」
「わ、わかった…!」
「ナズ姉、大丈夫?」
「だ、だいじょ、ぶ…」
「一発目がゴブリンはちょっとハードル高かったか。スライムあたりならまだいけたか…?」
「まあまあ、考えてもしょうがないよリオくん」
「ぴっぴぷー」
「…同種みたいなもんなのに、スライムが倒されるの何とも思わないんだな?逞しいな、この子」
「アキ兄、ラム、何か言ったの?」
「や、そうだろスライムは便利だろー的な感情?自慢?」
「いいんだ…倒されるの気にしないんだ…」
「魔物だからか、弱肉強食が当然みたいな感覚っぽい。倒されたくなかったら強くなれ、的な?」
「…さすがラム。こういうのを聞くと年嵩で色々悟ってるなって実感するな」
「言われてみればそうだなー」
次に来たゴブリンも単独だった。ただ、こん棒のようなものを持っていた。
やることは変わらず、足止めの後に倒す。これだけだ。
覚悟を決めたのか、何度も頭の中でシミュレーションしていたのか、ナズはゴブリンに向かって鞭を振るった。
物理法則を無視したしなり方に疑問を抱いたのは一瞬。多分鞭に織り込まれている糸を操っているんだろう。皮と糸を加工で織り交ぜて作ったと言っていたし。
従魔スキルによって、従魔の持つスキルを使うことができる。もっとも、劣化もいいところの精度だろうが。
その中の『糸操作』スキルを使っているのだと思う。本来なら届かないものを届かせるように、外れるものを当たるように、操作している。
結果、ゴブリンの足元、脛を思い切り打ち据え、ゴブリンが悲鳴を上げていた。あ、裂傷が見える。あれは痛い。
油断したところに一撃を加えるために走り出した。狙うは頭部だ。一撃で倒せなくても頭への攻撃なら怯むだろうし脳震盪を起こすかもしれない。
近づけば当然ゴブリンも気づく。が、足元への一撃に気を取られていたためか、体勢を立て直せていない。
せめてもの抵抗として、こん棒を振るってきた。だが咄嗟のもの、反射的に振り回しただけの大振り。力もほぼ込められてないし狙いも定まってない。
こん棒の側面を裏拳で打ち据える。それだけであっさりとこん棒はゴブリンの手から離れた。残るは武器もなく、攻撃と途中で止められ慌てている無防備な魔物。
ゴブリンは防御するということすら思いつかなかったらしい。そのまま頭に蹴りを叩きこんだ。ゴキっと音がしたので、もしかしたら首がいったかもしれない。
《護身術スキルを習得しました》
「…は?」
まさかの。え、何で?だって蹴りは蹴術スキルだろ…?
どうかしたのかと聞かれて、護身術スキルを習得したと言ったら全員に驚かれた。だよな?何で今?
「…あの、ゴブリンの武器、弾き飛ばしましたよね?」
「ああうん。あのままじゃくらってただろうし」
「その時の裏拳が護身術と認識されたのでは?」
「ありえる。だって手だし、絶対あれ蹴術関係ないぞ」
「むしろあんな方法で攻撃無効化する?ってちょっと呆れた」
「いや、あの、咄嗟に。ほら、メインが足技なら手は防御とか体勢維持とかに使うべきじゃね?って思って…そのためにグローブも厚くしてもらったし」
「うん、したけど。皮を何枚か重ねて特に手の甲あたりの防御力は高めたつもりだったけど」
「あ、その手袋もナズ製だったか。知ってた」
「…蹴りを叩き込む前に、拳で相手の体勢崩した方がいいかなー、なんて…思ってて…」
「リオ兄さん、戦い慣れてるんですか?普通思いつきます?そんなこと」
「いやあ、仕事で多少は身を守る術を身につけとけ、って言われて、ちょっと」
あくまで身を守るためのものだ。
回避とか、向かってきた攻撃をいなすとか、そういうやつである。なので攻撃面はお察しだ。
ちなみに、身に着けろと言った某元ヤンが教師役だった。あいつ容赦ねえの。ガンガン攻撃してくんの。普通に顔狙ってくるからな。
おかげで多少立ち回れるようになったけど、体力の無さだけはどうにもならなくて、最初は躱せても途中で力尽きて攻撃くらってた。超痛かった。
報復に腕巻き付けて首とか絞めたらアイアンクローくらわせてきた。あいつマジで容赦ない。さすが元ヤン。
いや、いいやつではあるんだ。乙女みたいな悲鳴上げて腰抜かした時は背負ってくれたし。オッサンの汚い断末魔か雄たけびか、とか言われたけど。
そんなことを思い出してたらちょっと遠い目をしてしまっていたらしい。
詳細一切話してないけど、何かを察したようだった。
「…何でこの子、初っ端に体術スキルとか出なかったんだろうな?バリバリ近接戦こなせてるんだけど」
「まあ、出てたらややこしいことになってた可能性ありま…ないか、鑑定板の効果弾いてましたし」
「いやそれ無機物干渉スキルだったから出来たやつだから。体術よりこっちの方がありがたいから」
「それもそっか。てか、まともに護身術らしいの使ったの、さっきの戦闘が初めてだから発現したのかな?」
「拘束されてる魔物をナイフで掻き切るだけじゃ護身術関係ないでしょうしね」
「ともあれ、戦う手段増えたのは嬉しいよな。蹴術と絶対相性いいし、同時に鍛えられそうじゃないか?」
「でも僕、これどっちも完全に超接近戦だよなあ…」
「防御固めないと危ないかもしれませんね。護身術スキルもレベルが低いうちは気休め程度に考えていた方がいいです」
「ナズの手袋、超仕事してたな」
「頑張った成果あってよかった」
「リオ兄さんの防御面が課題、と。今日の夜にでも考えましょう。今は討伐依頼とスキル確認です」
「そうだな、そうしよう。次はハルが行く番だな」
「はい」
短剣術も僕と同じで超近接戦だろう。何せその名の通り短い剣だからな。間合いなんて僕と大差ない。
と思ってたらそうでもなかった。苦無に似た武器があった時点で気づくべきだった。
ゴブリンが2体出てきたので、予定通りハルが出た。もう片方はアキ兄さんが突撃した。
ハルの方をナズが足止め、アキ兄さんの方はラテが足止めしてくれていた。アキ兄さんは2回目なのもあって危なげなく終了。
ハルも、ゴブリンの動きが止まった時に駆け出したが、走りだす直前に何かを投げていた。
その投げたもの、苦無もどきがゴブリンの額に刺さり、ゴブリンが恐慌状態に陥った。そこを近づいたハルが短剣でザシュっとやって終了。
やってること完全に暗殺者じゃないかこの子。
「あ…『投擲』スキルを習得しました」
「苦無投げてたもんな。なるほど、アレが投擲判定されたか」
「てかそのスキルめっちゃいいな。最悪石とかでも攻撃できるぞ」
「命中スキルとかじゃないんだね?」
「それは弓とかじゃないか?」
「あ、そっか」
「えー、遠距離いいなあ。石投げたら俺も覚えないかなあ」
「やってみたらいいんじゃないか?僕もやる」
「あたしもやってみようかな。覚えられたら儲けものだよね」
そして3人+2匹がやってみた結果、僕だけ『投擲』スキルを習得できた。
まあ、剣とか鞭を投げて攻撃ってまずしないだろうしな…
「蹴りの子が投擲も意味わからんくない???」
「中距離攻撃が出来るってことだろ?ヘドロの魔物相手とか蹴りたくないし、そういうのには石投げるよ。何なら召喚して使ってない木の板とか投げるし」
「…投擲できるものが調達しやすいという点で、リオ兄さん向きのスキルかもしれませんね」
「あー、そういうのもあるのか。てかリオくんいつかブーメランとか召喚できるようになったら超活躍する気がする」
「…いいなそれ、何ならボールとか。うわ、召喚に早く並ばないかな」
「スキルレベル上げにも使えそうですね。召喚できるようになったら私にも貸してください」
「もちろん」
「…何か、スキル検証っていうか、スキル習得メインになってる気がするのあたしだけ?」
「マジだわ。ちょっと真面目にやろうか」
「ゴブリンの討伐もまだ足りてませんしね」
今の時点で4匹か。あと11匹。ちょっとペース早めた方がいいか?ゴブリン15匹だけで終わると少なすぎるし。
出来れば他の魔物相手でも戦ってみたい。ライビの肉も欲しいし。
ナズも足止め出来るようになってるし、二手に分かれてもいいんじゃないだろうか。
「…確かに、それもアリかな?」
「4人全員で固まってるの、非効率ですしね。このあたりの魔物なら何とか…」
「えっと、じゃあどう分ける?あたしとラテは別々なの確定で、人間は2人ずつがいいかな?」
「僕、ナズと組むのはちょっと遠慮したい」
「え…」
「ふむ、理由は?リオくん」
「この辺、ゴブリン以外にライビとスライムもそこそこ出るよな?」
「出ますね」
「スライムって打撃耐性高いよな?…蹴りと鞭って思いっきり打撃属性だよな?」
「あああ、ほんとだ!」
「確かにこれは一緒にしたらいけないやつですね」
「うわマジだ!これ駄目だ!斬撃使えるアキ兄かハルがいないと無理なやつ!」
「ナイフあるけど、出来れば今日は蹴術メインで戦いたいし、ってのが理由」
「オーケー、これは別々の方がいいな!」
「超納得した。じゃあリオ兄はラテと一緒確定で」
「うん、アキ兄さんとハルなら戦力的にどっちでもよさそう」
「何なら違う組み合わせで組めばいいんじゃないか。とりあえず今から1時間は最初に決めた組み合わせ、って感じで」
「いいですね。相性もあるでしょうし、組み合わせ変えてみるの賛成です」
「スライムが相手じゃなきゃナズと組んで戦うのもやってみたいしな」
「うん、そうだね」
とりあえず最初は僕とハル、ラテが組むことに。もうひとつはアキ兄さんとナズ、ラムだ。
ナズと別々で寂しくないかと思ったけど、ラテはむしろやる気だった。
「ラテ、何でこんなやる気満々なんだ?」
「後でナズ姉に頑張ったって報告したいんじゃないですか?私達もラテちゃんの活躍、しっかりナズ姉に伝えましょうね」
「ああ、そうだな。絶対世話になるし」
「キー!」
それからしばらくは2人+1匹で行動した。
投げた苦無が草むらに紛れ、どこに行ったかわからなくなるというトラブルがあったものの、30秒も経たず発見できた。
何せ主が自分の居場所を見失ったと気づいた苦無がギャン泣きして存在を主張したからだ。置いて行かれると思ったらしい。
思わずうるせえって言っちゃったよね。
「リオ兄さんがいて良かったです。…投げた後の回収が課題ですね」
「確かに、投擲にはそういう弱点があるよな。消耗品を投げる方がいいか…?それこそ爆弾や爆竹みたいな」
「煙玉もいいですね。後で考えてみましょう」
(もういいから置いていくなよ!絶対回収しろよ!置いてったら取り憑いてやるからな男女!)
「僕に取り憑くのかよふざけんな」
「…リオ兄さんも大変ですね。言葉がわかるって案外不便…?」
「こいつやかましい」
(なんだとー!?)
こいつの名前、ソウオンにしようぜって言ったらハルに笑顔で却下された。駄目か。
1時間経つ頃にはスキルレベルが上がり、『蹴術』に『身体強化・微』、『投擲』に『命中補正・微』が派生した。護身術はまだ上がってない。
ハルも『投擲』は同じで、『短剣術』に『急所攻撃・極稀』が派生した。何か強そう。多分レベルが上がれば『弱』『小』とかになる気がする。地味にありがたい。
ゴブリンは4体倒して、あとはスライム1匹とライビ2匹…2羽?が成果だ。急いで合流し、ライビをアキ兄さんに渡す。出来るだけ新鮮な方がいいからな。
ライビを見たアキ兄さんは超喜んでくれた。ただ、ナズが言うにはあっちでも3匹仕留めていたらしい。どんだけ…
ちなみに2人もスキルレベルが上がって、『剣術』に『衝撃波・微』、『鞭術』に『命中補正・微』が派生したそうだ。
衝撃波は、剣圧で起こる風が衝撃波のように直線上に飛ぶもので、中距離攻撃になるらしい。ただ、今のままでは大したダメージにならないそうだ。
スライムの体の端っこがちょっと切れたくらいだったと。すぐ元に戻ってしまったので、攻撃に使えるレベルにはないらしい。出来て牽制だと言っていた。
この衝撃波は、スキル大全にレベルが上がるとかなり使い勝手のいい攻撃方法になると書かれてたはずだ。頑張ってレベルを上げてほしい。
「えっと、これでゴブリンは13匹、ライビは5匹だな」
「ライビのことは忘れて。ターゲットじゃないから」
「最低あと2匹か。うん、分担してよかったな。これなら依頼は問題なく終わりそうだ」
「そこそこスキルも試せましたしね。組み合わせ変えてもう一度別行動します?」
「ああ、そうしよう!」
そしてアキ兄さんと僕とラテの組、ナズとハルとラムの組になった。
ゴブリンを1匹、スライムを3匹、ライビを4匹倒したところでアキ兄さんが疑問を口にした。
「…何か、ゴブリン少なくないか?」
「思った。さっきより出てきてない気がする。これだけ戦ってまだ1匹だし」
「キィ~」
「ラテは選り好みするような子じゃないし、さっきは普通に出てたんだよな?」
「ああ、ハルと2匹ずつ、4匹倒したから。…まさか、女に見えるナズとハルがいないから避けられてる?」
「は?選り好みしてんのゴブリンの方!?ウチの妹に群がってるってか?殺すべきでは?」
「落ち着いてアキ兄さん。あっちに行ってる分には大丈夫だろ。ちゃんと間引き自体は出来るってことだから。ラムがいるなら万が一もないだろ」
「…それもそうか。うう、時間までもう少しだし、大人しく魔物退治するかー。ライビ来ないかな」
「そう言ってるとスライムが出るんだよなあ…言ってる傍から」
「あー!スライム!食えない!」
「任せていい?」
「もちろん!打撃効きづらいしな、スライム退治は俺の仕事!」
ちょっとラムに聞かせたら悲しみかねない台詞だぞそれ。
いや、案外割り切ってるか?さっきも気にしてなさそうだったし。
この組み合わせだと、自然とスライムはアキ兄さんが担当し、ライビは僕が担当することになった。
おかげで頭部を狙うことに慣れてしまった。ボディに食らわせたら肉が悪くなるとか骨とか刺さって面倒とか言われるからだ。
なので今の僕は首の骨を狙ったり、顎を蹴り上げたり、執拗に頭部を狙うヤバイ奴になっている。
職業、首狩り族とかになってたらどうしよう…
「…んあ!?」
「アキ兄さん?」
「キー?」
あっさりスライムを倒したアキ兄さんが素っ頓狂な声を出した。何だ?
スライムキラーの称号でも得たのだろうか。この世界、称号とかあるのか知らないけどさ。
「…レベル、5になった」
「スキルじゃなくて、個人のレベル?おめでとう」
「ああ、うん、そう、そうなんだけど…」
「…どうした?」
「なんか、覚えた。スキルじゃなくて、ケンノーって…」
「剣の…?いや、権能?」
「…なあリオくん、リオくんもレベル5、目前だよな?多分、ナズやハルも」
「ああ、うん、そろそろ上がるとは思う、かな?似たようなタイミングでレベル上がってるし」
「レベル、全員5まで上げよう、今日中に。出来ることが増える。今日試した方が良い」
「…それもそうか。うん、どの道あと一戦くらいで合流するつもりだったし、僕が討伐するよ。スライムじゃないといいなぁ」
「スライムが出たらナイフ使ってでもリオくんが倒して経験値にした方がいいと思う。スキルレベルより優先しよう」
「そんなに?…わかった」
よほどすごいものを覚えたのか?アキ兄さんは真剣な顔をしてたし、ここは従っておこう。
運がいいのか、出てきたのはゴブリンだったので、ラテに足止めしてもらった後すぐに倒した。
そろそろと思っていた通り、ここでレベルが5に上がる。
「…は?」
「…覚えた?」
「う、うん、え…まじかこれ」
「よし、とりあえず話は後で、合流しよ!あっちもレベル上がってるかも。上がってなかったらレベリングさせよう!」
「…賛成」
確かにこれは、あった方がいいかもしれない。
方向転換して、合流予定地点へと歩き出した。
ちなみにリオの恩人と元ヤン氏は別人。多分出番はない。




