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19.着々と準備中


「個室の想定があるなら、医務室みたいなのは作れませんか?」

「ほう?」



追加機能について、ハルから意見が出た。

個人部屋じゃない個室は正直考えてなかったな。目から鱗だ。



「考えたくないんですけど、風邪みたいに病気になった時、うつしてしまわないようにと、あと静かに寝れるように」

「…確かにそれは大事かも。僕たち、この世界の病気の抗体持ってないもんなあ…完全に自力で治すしかない」

「怖い想定って思ったけど、何の対策もしてないでいきなり病気になったらそれこそ危ないよな」

「うわー、完全に頭から抜けてた。それ確かに大事かも」

「よし、一回目の改造は医務室の設置にしよう。まあ、空き室の設置になるけど、布団かベッド設置してゆっくり寝れる場所か」

「ま、まあ、医療設備完備とかは考えてないって」

「別名、仮眠室」

「一気に平和な用途になったね」

「仮眠必要なことありますかね?」

「あるかもしれない。未来は無限大」

「どこに設置するの?」

「トイレの隣かなあ?」

「向かいにシャワー室っていうか洗面台もあるし、体調悪い時だとトイレ近いのありがたいよね。いいと思う」

「てかトイレもシャワー室もドアの向こうほんのちょっとの空間しかなさそうなのに奥行結構あるの不思議だよね」

「考えたら負けです。そもそもこのキャンピングカー、結構小型ですし、背の高い10人乗りくらいのワゴン車って言われても納得いくくらいのサイズですよ」

「初めて見た時、中入ってめちゃめちゃびっくりした。こんな広かったっけ!?って思ったもんな」

「運転する時ちょっと脳内バグりそうになる。幅とか、これ木の近くギリギリ走ってんじゃないかと思ってミラー見たら全然余裕で間隔空いてたし」

「…リオくん以外が運転するのは絶対やめた方が良さそう。絶対スキル補正入ってるよこれ」

「うん、車体の大きさとか錯覚して岩とかガリっといきそう」

「い、一応走らせる時は隠密があるから、岩に接しても隠密のおかげですり抜けるから…!」



前に話した、キャンピングカーの追加機能は空き室の設置に決まった。用途は医務室の予定。

まあ名ばかりのただの空室ですけどね。さらにまだ設置できませんけどね。

あれから3日ほどトランタの町で活動をして、旅の準備を進めていた。


ギルドカードは2ヶ月依頼を受けないと失効する。ガレメナまでは馬車で1ヶ月程。多少オーバーしてもギリギリ失効せずにいられるだろう。

旅に出る前日に念のため依頼を受けておけば1ヶ月半後くらいに着けば問題なく冒険者活動が続けられるだろうし。

ちなみに徒歩だと3ヶ月以上かかるそうだ。まあ、トランタからガレメナに直行する奴なんていないから概算だけど。

一応目的はガレメナの予定だが、イレギュラーが起これば近隣の村や町に寄ることも想定している。

さっき言ったような病気になって動きづらくなるとか、悪天候にぶち当たるとか、色々考えられるからだ。

何もなければダンジョンに入ってみようという話もした。小さなダンジョンがいくつかあり、中には初心者でもクリアできる規模のダンジョンもある。

ダンジョンをクリアすると、初回だけ特別なボーナスが得られるらしい。内容は様々で、アイテムだったり武器だったりスキルだったりだ。

レア度はダンジョンの格によるため、小さなダンジョンであればボーナスもポーション10本くらいのものらしい。

あっても困らないが、わざわざ手に入れようとするようなものでもない、そういうレベルのものだそうだ。

いや、僕らにポーション、地味にありがたいけどね。今はラムがいて回復魔法使えるっちゃ使えるけど。



「ダンジョン行くなら、ここの行きたいなあ」

「あー、肉が多めにドロップするとこか」

「そう!しかも食べられるものがドロップする確率高いって!キノコとかもあるって!」

「モンスターがキノコだったりするらしいですしね。自分なのかな…?」

「マタンゴはまだわかるけど、毒キノコとか出たら食って大丈夫か心配になるよな。解毒すればイケる?」

「歩くキノコって時点で大概だしあえて毒に挑戦したいとも思わないよアキ兄…」

「包丁じゃ心許ないかな?剣買うべき?」

「アキ兄さんだけ違う心配してないか?」

「ま、まあ、候補のひとつってことでさ。単純に食料補充できるのはありがたい。召喚だけじゃ種類も限度あるし」

「メニューの幅も広がりそうですしね」

「うん、ここは行きたいかも!」

「全10階層だし、初心者向けだもんな。僕らにはちょうどいいかも」

「あと1つか2つ、初心者向けダンジョン行ってみたいですね。多分そのくらい寄り道してガレメナに行けば1ヶ月ちょっとくらいで着けるはず」

「旅に1ヶ月か…現代じゃ考えられんな…」

「飛行機かっ飛ばせば大抵のとこに1日で着くからな。直行便がないと乗り換えとかでちょっとかかるけど」

「リオ兄、もしかして海外旅行行ったことある?実感こもってない?」

「旅行じゃないけど行ったよ」

「あ、仕事ですね、じゃあこれ以上聞きません」



もうこれ以上この町での情報収集はいらないだろうということで、明日か明後日にでも町を出ることになった。

少しでもラージフールから離れたいしな。



「うーん、うん。明日にはみんなの分の靴、用意できると思う」

「ありがとう!超助かる!」

「ナズ姉、大丈夫?無理してない?」

「いやー、全然!色々作れそうだから楽しみ!」



実は、靴はずっとラージフールを出てから同じものを使っていた。

僕ら、学校の教室からワープしたもんだから、履いてた靴って上履きだったんだよな。

石造りの城には不便すぎるということで、一応全員に靴が支給された。僕にもあったのは温情かただのついでか。

兵士や侍女メイドあたりの靴を引っ張り出して、デザイン度外視でちょうどいいサイズの靴を適当に宛がわれたとも言う。

まあおかげである程度動きやすかったけど、これも国章っぽいのがあるから出来れば別のに替えたかった。

でも靴はナズも作れないし、僕の召喚ラインナップにもないので、ナズが靴に布を巻いたりして旅人の靴っぽく偽装してくれていた。

正直、旅にはあまり向いてない靴だ。城勤めの人用のだから当たり前だけど。だから長く歩くのってつらかったんだよな。


けど、ナズのスキルがレベル7になったことで、召喚リストに革製品が並んだのだ。

ナズが大喜びで召喚して、ベルトだの何だの作ろうと張り切っていた。そして、靴も作る!と吠えたのだ。

布と同じように皮だけの召喚があったので、それを選んで好きな形に切って加工するつもりらしい。

ひとまずブーツタイプ、靴紐で締めるタイプのを作るそうだ。紐はラテの糸を使って加工すると。とっとと靴を履き替えたかった僕達は大賛成だった。

ナズ作の靴ができたら、この城の靴はダストシュートで分解してしまおう。これでますます僕らが城から逃げてきた証拠が消える。

ちなみに元々履いてた上履きは城から脱出する時に一緒に持ってきている。

今は寝室のタンスの中に、制服と一緒にナップザックごとしまわれている。元の世界に帰れた時に必要だからな。

意外と言うか当然というか、元々持っていたものは取り上げられたりはしなかった。

まあ城の連中も生徒手帳とかどうするんだって話だろうし。だから、召喚時に持っていたものはすべて持ち出した。

生徒手帳以外なら、ティッシュとかハンカチとか、あとハルが携帯を持っていたくらいか。僕もお守りを持っていた。これは今でも身に着けている。

あとは、通信用にイヤホンタイプの小型通信機があったけど、当然繋がらない。電波がないんだから当たり前だけど。

制服の胸ポケットに入るくらい小さなものだ。多分三人ともただのイヤホンだと思ってる。聞かれても仕事用のものだと言えば納得してくれるだろう。

嘘じゃないし誤魔化す気もない。どこにも繋がらない通信機って何の意味もないしな。ハルの携帯と一緒である。


そしてアキ兄さんもスキルレベルが7になり、加工品がリストに並ぶようになったそうだ。

今までもヨーグルトや牛乳、ジュースはあったらしいが、魔力消費が重いという理由で、ヨーグルトしか召喚していなかった。

更にそこに加えてバターやチーズ、飲むヨーグルトなんてものも並び出した。これでバター無限入手じゃー!と大喜びしていた。

うん、前に作ったクッキー、バター買ってきたやつだったもんな…それ使って作ったクッキーは美味しかったけど。

あとは『乾燥』なんてものを覚えたそうだ。ドライヤーいらずで髪乾かせるってこと?と言っていたが、多分干物を作る方向のものだと思う。

いや、ドライヤーに使うこともできるかもしれないけども。

それを知ってドライフルーツ作り放題だと喜んでいた。あとハーブ類もか。手作業で乾燥させてたらしいから手間が省けて嬉しいんだろう。



「何より、何より、やっと、卵が…っ!」

「一気にバリエーション増えるな」

「ほんとそれ!卵がないだけでどんだけの料理を諦めたか…!」

「アキ兄!卵焼きが食べたいです!」

「よーし、塩と砂糖と出汁とたくさん作っちゃうわよー!」

「いや、そんなにはいらない…」

「急に真顔で落とさないで!?」

「でもこれで旅に出る前に卵やらバターやら買いこまなくてすみました。いいタイミングです」

「卵もバターもこの世界、お高いしな…買い出し行って目ん玉飛び出るかと思ったよ」

「嗜好品なんだろうな、特にバターなんて」

「でも料理のためならいくらでも金使ってええんやで…」



ちなみに、お金は稼いだ分の半分は共用資金、残りの半分を四等分してそれぞれに配られている。

アキ兄さんが食材を買うために使ったのは共用資金である。全員が食べるものだから、誰も文句を言っていない。

というか、こういう時のために分けてある資金なので存分に使って欲しい。

そして前に僕が買ったゴーグルやモノクルは個人用の金で買ったものだ。

こうして分けてはいるけど、個人用資金はほぼ使っていないらしい。ポーションなどは共用資金で買ったしな。全財産そこまででもないのでゴルダムス(銀行)は未使用だ。

ああ、アキ兄さんはたまに屋台に突撃して色々食べたそうで、それは個人用資金から出したと言ってたか。

ちなみに財布は持ってなかったので、ナズが布で簡易的なものを作ってくれた。巾着袋みたいなやつだけど助かっている。

共用資金は今の所、キャンピングカーの居住スペースの棚にしまわれている。一応この棚アイテムボックス的な役割があるのか、かなり容量があって棚の見た目以上に入る。

しかも出したい時は、棚を開けた時に入ってるものがリストとして出てくるという便利機能つき。

ただし時間停止などはないので、食品を長時間入れたりしたら普通に腐る。

やっぱり食品はアキ兄さんに預けるか、備え付けの冷蔵庫に入れた方が良いらしい。冷蔵庫は時間停止こそないものの、遅延効果があり、悪くなるのを遅くするようだ。

アキ兄さんがいなければかなり有用だし、キャンピングカーの追加機能で冷蔵庫に入れたものの時間停止機能を真っ先に選んでいたかもしれない。


そんな感じで、地道にレベルアップしていて、かなり自由度が大きくなった。

なお、従魔術の方はレベルアップしたが、劇的な変化はなかったそうだ。ただ離れている時にどこにいるかが何となくわかるようになったとは言ってたけど。

今寝室にあるカゴでくつろいでるっぽいーとか。多分もっとレベルが上がれば正確にわかるようになるか、感じ取れる距離が伸びるかするのだろう。



名前:アキ(狭山 茜)

年齢:14

性別:女

LV:4(あと199)

職業:料理人

HP:99/100

MP:67/80


スキル:料理LV7(あと387) 従魔術LV3(あと295)

テイム:エレメンタルスライムLV148



名前:リオ(村雨 涼)

年齢:14(24)

性別:女

LV:4(あと223)

職業:曲芸師

HP:78/80

MP:328/400


スキル:無機物干渉LV7(あと589)



ここ数日討伐依頼を受けたりして、何度か魔物と戦って基礎レベルの方もレベルアップしている。

心なしか体が軽くなってる気がするので、運動神経に反映されてるというか、ステータスアップはしてるのだろう。

というか、いい加減曲芸師を卒業したいんだが???

スキルの方はレベルアップして、ついに植物性っぽいやつ以外の原料のものが召喚リストに並んだ。

それでも鉄製はまだで、陶器っぽいものやプラスチック製がちらほら、という程度だ。

プラスチックの泡だて器を出したらアキ兄さんに拝まれた。城から持ってきたものは質が悪く、キャンピングカーの備え付けも標準的なもの。

悪くはないし使いやすいが、長く使ってると腕が疲れるので、軽いプラスチック製は嬉しいらしい。まあ用途によって使い分けてほしい。

あとボウルとかも欲しいと言われたので出しておいた。やっぱり重かったりするらしい。かき混ぜても重さで動かないから混ぜやすいという点もあるらしいが。

軽いボウルだとかき混ぜた時の反動でガッタガッタ動くもんな。やっぱり使い分けなんだろう。

いつかアキ兄さんの召喚にも調理器具は並ぶんじゃないかなと思ってはいるが、今は食材以外ないらしい。

もし調理器具が召喚に並んだらそっちを使った方が絶対バフがかかるとかプラスになるだろう。その時は今使ってる器具はダストシュート行きかな。

使いやすいのを使うのが一番だろうし、マナに変換されるのはプラスなのでまったく惜しくない。

あと、レベル7で『変形』というのを覚えた。若干形を変えられる、ナズの『加工』に近いものらしい。

今のレベルではやや長くしたり細くしたりとか、微妙な変形しか出来ない。粘土で土台をこねくり回すようなものと言えばいいか。

試しにボウルに鍋みたいな取っ手をつけたらアキ兄さんに超叱られた。ごめんなさい戻します。



名前:ナズ(波川 静)

年齢:14

性別:女

LV:4(あと183)

職業:縫製士

HP:85/88

MP:64/80


スキル:被服LV7(あと411) 従魔術LV3(あと272)

テイム:ヴェノムタランチュラLV47



なあ、ナズの職業結構ころころ変わってないか?前、裁縫士だったよな?

大した差じゃないのかもしれないけど、ずるい。



名前:ハル(林 千晴)

年齢:14

性別:女

LV:4(あと204)

職業:諜報員

HP:71/72

MP:59/88


スキル:隠密LV7(あと459)



諜報員に二度見した。情報収集のために色々回らせたせいだろうか…すまぬ、すまぬ…

あとスキルレベルが7になったことで『身替わり』を覚えたそうだ。

これはかなりMPを使うが、自分の分身にあたる依り代のようなものを作り、それと自分を入れ替えるというものだ。

つまりハルがピンチになった時、依り代を離れた場所に置いておけば、そこに逃げられる、ということらしい。

めちゃくちゃ凄くないかと思ったが、使い勝手はよくないと。依り代はそれこそ小さなこけしのようなものだ。

これを生成できるらしいのだが、今は一度に1つしか生成できない上に遠くに設置できないらしい。

今はせいぜい1~2メートル離れた場所でしか使えないと。確かにそれを聞いたら微妙感が増す。

でも、それは今だけで、レベルが上がっていったら化ける派生能力な気がする。というか、派生能力って大体そういうのが多い。

まあいざという時の切り札のようなものだろう。ちなみにMPはのっぺらこけし(依り代)生成に15、入れ替えに20使った。ほんの1メートルなのに…

しばらく封印すると言っていた。うん、それがいい。僕の『操作』も大概だけど、これはひどい。

ハルのMPがやや多めなのが救いか。まあ封印と言ってたしあれ以来使ってないそうだが。



「リオ兄、いい?」

「ん?ナズ、どうした?」

「あの、グリップ的なもの、ない?」

「ぐり…?」

「取っ手っていうか、あー傘の柄とか杖の握るとこっていうか」

「木製?プラスチック?陶器?」

「その中だと木製がいいかなあ…」

「麺棒とか?」

「それはちょっと太い。あたしが握れるくらいの…ないかなあ、やっぱ」

「なければ変形させて合わせればいいんじゃないか?ひとまず元がいるな。ちょうどいいのあるかな…」



あ、ドライバーの持ち手部分がある。ドライバー本体はないのに。

握りやすいように使いやすいように色々なサイズがあるんだよな。ドライバーを持ち手に挿して使うやつだ。

5種類の太さの持ち手を召喚する。5種類で1セットなんだよな。



「ナニコレ?」

「ここに穴空いてるだろ?ここにドライバー挿すんだ。人によって力の入れやすい太さってあるからな。細すぎると滑って使いづらいし」

「あー、あー…そういや見たことあるかも」

「この中で一番握りやすいのどれ?」

「えーと、…これかな」

「じゃあ基本はこれで。長さはどのくらい?先は丸みを帯びてた方が良い?真っすぐじゃなくて湾曲させて握りやすくするか。中央を少し細くして…」

「わ、待って待って一気に言わないで」



ナズの手にドライバーの持ち手を握らせながら、変形させていく。微妙な能力だと思ったけど、こういう微調整なら充分な能力か。

持ちやすい、力を入れにくい、色々な意見を聞いて、これだという形に整えていく。

元が木製なので少し滑りやすいかもしれない。プラスチック製もあったけど、木製の方がいいらしいのでこっちにしたけど。あ、プラスチックの方が滑るか。



「大丈夫、どの道布を巻いて滑りにくくするから」

「あ、それもそうか。…てか、何に使うんだそれ?」

「えーと、鞭?」

「は?む、むち?」

「皮を『加工』して、これにくっつけて、ラテの糸とかも巻いて鞭にする。糸と皮なら多少思い通りにできるから。ラテの『糸操作』スキルもあるし」

「…武器を作るのか。でも、ナズ、戦闘は怖いんじゃ」

「怖いよ。怖いから、多分やっつけられない。…でもリオ兄、言ったじゃん。足止めできる人がいたら助かるって」

「…言ったな」

「鞭で、牽制して、足止めする。ラテが糸で魔物の動きを止めてるみたいな、あそこまで出来ないと思うけど、これならまだ出来そうだから」

「そうか…」



怖いなら逃げたっていい。でも、この子は逃げることを選ばなかった。ラテに任せきりにするという選択肢もあっただろうに。

形はどうあれ、戦うことを選んだのだ。



「強いなぁ、中学生のくせに」

「年寄りっぽーい」

「やかましい」


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