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閑話21.盲目の正義(操視点)

戸沢とざわ みさお

一組の女子生徒。ナズ(波川静)のクラスメイト。

スキル『聖剣』、スキルレベル7。基礎レベルは6。脳筋でガッツリ前衛タイプのステータス。

ルート(砂場透)と同じでHP高くてMPが残念。


「お前の行き過ぎた正義感は少し問題だ」



何度か言われた言葉だけど、意味がわからなかった。

正義って正しいことなんじゃないの?何が悪いの?

ねえ、お父さん、剣術道場に通うように言ったのはお父さんなのに、何で辞めろって言うの?



「お前の考え方でこれ以上力をつけるのは良くない。何でそんな変な武士道だか騎士道みたいな考え方になったんだ」



剣術を習ってる影響で漫画やアニメもそういうモチーフのものが好きになった。

味方でも敵でも、剣を使うキャラはたくさんいた。そういうものに影響を受けたのは間違いない。

親としては漫画に影響されるのは嬉しくないんだろう。クラスでもそういう愚痴を言う子はいた。

でも、ウチはその中でもかなり真剣に私から漫画やアニメを排除しようとしていた。


道場を辞めて、塾へ行け。

漫画やアニメは一日一時間まで。


確かに、勉強は出来る方じゃない…いや、多分下から数えた方が早いくらいの成績だ。

来年は受験生なんだから、今からでも勉強に集中しろ。

言われてることはわかる。でも納得できない。

まあ、私が年末の期末テストで30点以上取れなかったのが原因なんだけど。最高で28点はさすがにまずかったか。

冬休みの間にお父さんとお母さんに色々決められて、本当に剣術道場を辞めさせられた。

塾まで行かされて、本当に全然体を動かす時間が無くなった。

鬱憤が溜まってたのは間違いない。勉強も全然わからなくて嫌になってたのも間違いない。


ああ、それで、異世界なんてものに飛ばされて、スキルなんてのを手に入れて。

魔族なんていう、明らかに悪いものを倒すため、なんて言われて、張り切らないはずがなかった。

どう聞いたってラスボスとかそういうのだ。魔族を倒せば、きっと元の世界に戻れる。

…戻ったところで、道場には通えないし、また勉強漬けだけど。

でもこういう場合、元の世界に戻るのが正しい展開だろうから、嫌だけど仕方ない。

そんな風に、考えてた。漫画やアニメやラノベの世界。現実じゃない、って。



「…痛い、痛いよ…」



なのにこの痛みは現実だ。力が入らない。体が勝手に動いて、逆らえない。

どうしてこんなことに、って、周りに当たり散らしたかった。

でも出来なくて、色々考えるようになって、やっと理解でき始めた。


ここは漫画の世界でもアニメの世界でもない、現実。

選択肢が表示されるわけでもない、ストーリーがあるわけでもない。

正しい行いをしたって、理不尽は容赦なく降りかかる。…現実でそうだったように。

それを理解するのが遅すぎた。


役に立たないスキルだからって放置されてた子たちだって、いつか何かのイベントが起きて救済されると思ってた。

だから放っておいても大丈夫なんて根拠もなく思い込んで、自分からは何も行動しようとしなかった。みんなやってないし、なんて集団心理もあったかもしれない。

…けれど、そんなものはなかった。訳がわからないまま、魔物に攫われてしまった。

あの中にはクラスメイトもいた。仲良くしてた子だっていた。助けないとって思ったけど、体は動いてくれなかった。

当たり前だ。フィクションじゃない。ノンフィクションの世界は、救済ルートなんて用意されてるとは限らない。

攫われた子たちは、下手をしたらあの魔物たちの餌に、なんて…


…何が、聖剣。何が、正義。目の前にいた子を救えなくて、何が…

敵だと言われた魔族を倒せば、みんな戻ってくる?そんな保証はどこにもない。

そもそもその魔族だって、一匹も見てない。


ずっと城の一室に放り込まれて、何をするでもない、ただ生かされるだけの日々。

何も出来ない。どこにも行けない。ずっとこのまま、こんな場所で…

こんなことになるなら、もっと友達に寄り添うべきだった。

スキルを鍛えることなんて放っておいて、一緒にいれば、聖剣スキルの持ち主の友達ってことで待遇もよくなってたかもしれない。

魔物に攫われるなんてことに、ならなかったかもしれない。

あの時はとにかく魔族を倒さないとってことしか考えてなかった。悪いやつを倒せば何とかなるって、そればっかりで。

そんなあるかもわからない先ばかりを見て、今を見てなかった。周りを見てなかった。ないがしろにしていた。

強くなってるって実感できるのが楽しくて、そればかり考えてた。

ああ、こういう所が駄目だったのかな、お父さん。


道場に通っていた時だって、試合に出るために練習ばかりして。

道場を閉める時間だって言われてももうちょっと、なんて我儘言ってた。

体力作りで走り込みして、夜中まで走ってて補導されたことだってある。お母さん、警官に何度も謝ってた。

改めて色々思い出すと、私は周りに迷惑をかけてばかりだった気がする。

試合に出るために強くなることは正しい事。だからって何をしてもいいわけじゃない。

定められたルールに従うのは正しい事。だからって、即実行しなければいけない、なんてこともない。

…私、視野が、狭すぎた。考える時間がたっぷりあって、初めて気づけた。私、今まで何をしてたんだろう。

正しいことをしてたつもりだった。でも空回りしてたんじゃない?


休むことだって大事なのに、ずっと体を鍛えようとして。

本番で上手く力が入らなくて、もっとやれるはずなのに上手く立ち回れなかったことだってある。

それを私は鍛え方が足りないって思いこんでた。先生は休むことも大事って何度も言ってくれたのに、そんなわけない、鍛え方が足りなかったからだって思いこんで。

きっと、学校生活でも似たようなことしてた。正しいと思ってても、きっと周りに迷惑をかけてた。私の思い込みで。

私のためを思って言ってくれた助言も、全部無視して。



「…謝りたい」



何を、なんてまだわからない。

でも。



「帰りたい」



お父さんとお母さんに会いたい。謝りたい。

お父さん、多分お父さんは正しかった。私がやってたこと、多分間違ってた。

どう間違ってたかはまだわからない。だから、教えて欲しい。

今なら、ちゃんと聞けると思う。理解できると思うから。

お父さん、言っても無駄だって、ちゃんと言ってくれてなかった。そしてそれは正しい。きっと私は聞かなかっただろうから。

でも、今なら…



「ごめんなさい、ごめんなさい…もう、誰も傷つけたくない」



今まで傷つけてたつもりはない。

でも、きっと傷ついてる人はいた。私が気づいてなかっただけ。



「…助けて」



好き勝手やってた私のことなんて、もう誰も気に留めてないかもしれない。

お父さんもお母さんも、諦めてる節があった。

そうじゃなくたって、何を言ったって私の言葉なんて誰も聞いてない。騎士だって部屋の外で見張りという名の昼寝をしてる。

許しを請うためじゃなくて、溢れた感情をただ口にしてるだけ。


目はかろうじて開けてるけど、何も写してない。

だって目の前には埃が積もりかけた床が見えるだけ。石造りだから寒いし固い。

ベッドまで行けばもっと柔らかいだろうけど、そんな気力もない。

あのベッドだって、何日シーツ変えてないんだっけ。もう覚えてない。

ご飯くらいはもらえてるけど、お風呂なんてこの世界に来てから一度も入ってない。

最初の方は体を拭いたりはしてたけど、ダンジョンから戻って来てからはそれだって無い。

たまに、汚れを落としてるんだろうなって光を受けることはあったけど。最後は何日前だっけ?四日くらい前?

そんな魔法をかけられる時とご飯を食べるために食堂へ連れ出される時だけが、この部屋から出られる時間。

それも終われば床に適当に放り投げられる。ベッドまで連れてってくれることなんてない。今がまさにそう。

常にだるくてもう何もやりたくない。前は暇さえあれば体を動かしてたのに。

つらい、もうやだ。



「お父さん、お母さん、…会いたい…」



壁にかけられたランプに照らされて伸びる自分の影が、僅かに揺らめいた感じがした。

風とかで光源の火が揺れたかな、なんてぼんやり考えた。




***




何をどれだけ後悔したところで、日々は過ぎる。

希望に満ちていようが絶望の縁にいようが、時間は等しく流れる。

何もない日々は退屈で、でも、落ち込んでいた気持ちを僅かに上向かせるくらいには効果があった。

お前は無駄な前向きさと行動力だけは凄まじいと褒められた(?)こともある。

考えるより体を動かすことが得意というか、頭を使うなんてこと、長くは続かない。

今はこんな自分の質がありがたかった。じめじめと考えてばかりいるなんて、私らしくない。

何が出来るわけでもない。それでも、落ち込んでる必要なんてない。多少まともなことを考えられるようになってきた。


そんな時だ。望まない訪問者が来たのは。



「―――喜べ、貴様を僕の妻にしてやる!」

「………は?」



突然乙女の部屋に入ってきて何のたまってんの?

誰かと思えば王子だった。名前は知らないというか忘れた。

だってヒョロいから全然好みじゃないし。私の好みは長身のマッチョなのよ。

それに、こいつ確か最初の方に自慢してたはずよね?



『僕がいかに高貴で魅力的であろうと、貴様ら下賤の者相手に心通わせるなど、思い上がるなよ。僕には素晴らしき婚約者がいるのだからな!』



みんなで「うわ何か寝言ぶっこいてる」って無視したんだっけ。

そもそも私たち中学生なのよ。クラスの男の子とか隣のクラスの子かっこいいな、運動部は筋肉いいよねってキャッキャして憧れる年頃なのよ。

突然飛ばされた異世界で初っ端から偉そうにご高説垂れた奴なんて、選択肢にすら入ってないのよ。


なのに、何?

アンタ婚約者いるってのに何で妻とか言い出してんの?恋人でも婚約者でもなく、いきなり妻?

まだ結婚できる年でもないし、したいとも思わないんだけど。喜べる要素なさすぎてビックリよ。

体はだるいし上手く動かせないけど、頭はそこまででもない。

元から頭働かせてないから、いつもと変わらないだけかもしれないけど。

いや、そんな馬鹿な私ですら呆れるって、相当じゃない?何言ってんのコイツ。

今日はベッドに横になって何をするでもなくぼーっとしてた。だるいので動きたくない。

目線だけで王子を見た。起き上がる気は皆無だ。

無礼?そもそもこの体調、あんたらのせいでしょ。



「起き上がったらどうだ!未来の夫に対して無礼だぞ!」

「お前らのせいですよこの体調。っつかお断りですよ筋肉10倍くらいに増やしてから出直して。私のタイプは某強い腕の少佐なのよ」

「は???」

「野菜の宇宙人でもいいけど」

「はあ?」

「分かり合えないみたいなのでこのお話はなかったことにして乙女の部屋から去ってくださいな」



この世界には漫画もアニメもないから元ネタわかんないだろうな。

ええ、アニメキャラですよ。実在しない。でもタイプなのには違いない。筋肉が素敵なんだもん。

これらのアニメの話を出来ないってだけでもうマイナスだ。一昨日来やがれ。本当に来ても困るから一生来ないでほしい。



「…っふざけるな!いいから忠誠を誓え、跪け!結婚に同意しろ!ぜひ私を娶ってくださいと宣言して頭を垂れろ!」

「な、…ッ!?」



何寝言ほざいてんの、って言うつもりだった。けど叶わなかった。

また、意思に反して体が…!

ベッドから起き上がって床に落ちるように転がった。

体そのものが疲労困憊だから動きは遅い。遅いけど、言われるままに座り込んでしまう。

跪け、って言われたもんね…まったく敬意を持てないからめちゃくちゃ嫌だわ。

それから、何だっけ。ああ、結婚に同意…?嫌すぎるんだけど。

てか何をこっち向けてんの?変な機械のようなものが向けられてる。録音機とかそういうの…?

は?娶ってくれって声録音されたら嫌なんだけど。


そうは思っても、やっぱり何故か逆らえない。

動きが遅いのは、体がまともに動かせないくらい疲れてるせいであって、私が抵抗出来てるわけじゃない、と思う。

出来たら抵抗したいけど、体は勝手に声を発して…



「わた、し、を…」

『静寂』

「………?」

「おい、どうした?さっさと言え、愚図が!」

「…、………???」



口は動く。声だけが出ない。

多分、ちゃんと発声自体は出来てる。けど声が届かない、響かない。

薄っすら聞こえた「静寂」って言葉のせい…?覚えのない声だ。

わからない、わからないけど、この声は私を助けてくれたと言ってもいい。

声が出せない。本当なら怖いはずなのに、ひどく安心した。言ってしまったら駄目だと思った。

録音機(仮)の前で言ったら多分本当に取り返しがつかない。何故かそう思ったから。



「…クソ、どうなってる!?早く言え!」

「…、………!」



口はぱくぱく動いてる。金魚みたいじゃないかな、今。

私の体はきっと、この馬鹿王子に命じられたように「私を娶ってください」と言おうとしてる。

でも、何かのせいで声そのものが出ない。だから、多分この王子の思い通りにはなってない。



「…ぐ、なん、だ…?体が、勝手に…ッ!」

「………?」



王子が後ろを向いた。そしてそのまま、ブリキ人形みたいに不格好な感じで部屋を出て行った。

まるで、何かに操られてるように。



「………何あれ…?」



気づけば声が出るようになっていた。

思わず手を喉に当てるけど、特に不調は見られない。

体は重い。めちゃくちゃ疲労感がある。でも、自分の思い通りに動く。



「…何、だったの…?」

『静寂。音を消す効果のある魔法だよ』

「…誰ッ!?」

『初めまして、召喚者。勇者、って言った方が通じるかな?ぼくは魔物。影の魔物。君の影に潜んでる』

「影、の、魔物…!?」



思わず床を見れば、ゆらりと影が揺らめいた気がした。

いつから、こんな…?



『本当は様子見だけのつもりだった。でも、あれはまずいと思ったから…』

「…あいつ、私に、何しようとしてたの…?すごく、嫌な予感がした…」

『多分だけど、契約か誓約じゃないかな。宣言したことを違えたら罰が下る、みたいな』

「は!?じゃあ、私、あれとマジで結婚させられるところだったの…!?」

『しないと何かが起きる。そういう風になってたのかも。あの魔道具の前で宣言しちゃ駄目なやつだったと思う。声に出してないから多分成立してない』

「…あ、ありがとう、本当に、ありがとう…!」

『…どういたしまして』



魔物、なんて。どう考えたって人間の敵だ。

でも、私を助けてくれたのは間違いない。ゲームでは、魔物使いなんていうモンスターを仲間にして戦うものもある。

魔族はともかく、魔物はいい魔物もいる、と思う。そしてこの魔物は多分いい魔物だ。



「さっき、王子が、出てったのは…」

『ぼくがやった。物理的に離れた方がいいと思ったから。部屋まで戻すよ。また、同じことしようとするかもしれないけど』

「そ、そんな…」

『とりあえず部屋に着いたら寝かせておく。夢と思えばいいけど、どうかな』

「…せめて、体が、自由になれば、自衛も出来るんだけど…」

『ぼく、浄化魔法は使えないから状態異常は消せないよ』

「…状態、異常?」

『ああ、そうか、それを知らないのか。今きみには「隷属」「衰弱」「呪印」の状態異常がかけられてるんだ』

「み、みっつも…?」



どういう状態異常なのかも教えてくれた。

そ、そんなのあるんだ…状態異常なんて毒とか麻痺くらいのものだとばかり…

そっか、無理やり従わされてるのは『隷属』のせいだったんだ。

そして体が常にだるいのは『衰弱』の状態異常で、HPとMPが削られてるから。

『呪印』は居場所を知らせるマーカーみたいなもの、かな?

どれかひとつでも厄介なのに三つもあるなんて。



「これ、解除は出来ないの?」

『ぼくには出来ない』

「方法は?」

『浄化魔法か浄化系の薬かポーションを使うことだね』

「なるほど…私のスキルじゃ、無理ね…城の中にあるかな、そういうの…あっても私が行ける場所にないかな…」

『…ぼくを頼らないんだね?』

「え、何で?だって、君には既に助けてもらったもの。解除する方法も教えてくれたし。これ以上は申し訳ないよ。本当にありがとう」

『………そう、君は、ぼくが思ってた悪の召喚者とは少し違うね』

「あ、悪の召喚者…?何それ?」

『君にわかる呼び方だと、優遇組とか、攻撃スキルを得た勇者かな?』

「そ、それが何で悪になるの?私、悪い事なんて…」



してない、なんて言える?…言えない。

魔物を倒すのは悪いことじゃない。でも、友達だった子たちを放置して自分のことしか考えてなかったのは…悪いことかもしれない。

自分本位だった。これは事実だから。



「攻撃スキルじゃなかった子たちを…気にかけてなかったのは、悪いこと、だよね…」

『見下してたんじゃないの?』

「そんなつもりは、なかったの。でも、自分のスキルに舞い上がって、そう振舞ってた、かもしれない」

『悪意はなかったんだね』

「…なかった。でも、悪意がなければ何をしてもいいってわけじゃない。私は、きっとひどいことをしてた」

『攻撃とか、あと傷つけたりはした?』

「してない。それは絶対してない。だって、同じ学校の生徒だもん。傷つけるなんて、そんな酷いことしない」



ただ…他の人がどうしてたかはわからない。

だって、私は周りを見てなかったから。自分のことしか考えてなかったから。

でも、この魔物の言い方。…もしかしたら、他の人は攻撃系スキルじゃなかった子たちを傷つけてた…?

そんな、そんなはず…だって、クラスメイトで、学友で、同じ異世界から一緒に来た子たちなのに。



「…傷つけてた、の?誰が、誰を…?そんな、ひどいこと…」

『そっか、君は知らなかったんだね。ダンジョンに入る前、結構ひどい態度とってたけど』

「そう、なの?私、ダンジョンの方ばっかり見てて、他のみんなのこと、見てなかった…っ!」



あと王子の話が長すぎて半分寝てた。

でも、そういえば、気づいたら周りにみんないなかったな?周りにいたの、いつの間にか騎士とかばっかになってた。

やばい寝過ごした!?なんて焦ってたら急に魔物が襲ってきて大混乱になって…気づけば、何か操られて馬車に乗せられて…

そんなことを話せば、姿も見えないのに何か呆れてるような雰囲気を感じた。



『…ドッグの確認漏れかな。いや、自分のことしか考えてなかったから、それで同類と判断したか、かな』

「どっぐ?犬?」

『ちょっと相談してくるよ。君はとりあえず休んでて。うまくいけば、助けてあげられるかも。期待はしないで欲しいけど』

「…もう既に助けてもらってるから充分なんだけど。あ、でも、最近まともに話してなかったから…話し相手にはなってほしい、かも…」

『………ぼくも、色々やることがあるから、君だけを気にしてられない。でも、無視できる状況じゃないから、また危なくなったら助けるつもり。少し、待っててくれる?』

「あ、うん。あの、私、戸沢操っていうんだけど…君は?」

『名前は…まだ言わない。ぼくの存在も、言わないで。この城の連中に、情報が伝わる恐れがあるから、その危険がなくなった時、名乗るよ』

「あ、そっか、そうだね。私、隷属なんてのがあるんだった。言えって命令されたら、君のことも話しちゃうかもしれない」



でも話せる情報がなければ、話せるわけもない。

名前も知らない。影の魔物ってことしかわからない。

何でここにいるのかもわからない。そもそも味方なのかすら。

…うん、私はこの子のこと、知らない方がいい。

それにこの子、私のこと信用してないだろうし。きっと私、それだけのことを仕出かしてるんだろうし。



『じゃあね、トザワさん。方針が決まったら知らせにくるけど、それまでは体力温存してて』

「うん、わかった。ありがとう、…影くん」



影は、もう波打たない。普通の、私の影になってる。

夢か幻みたいな時間だった。でも、きっと現実だ。

誰かと会話が成立するって、こんなに心穏やかになることだったんだ…


本当にまた来てくれるのかはわからない。

でも、先が見えなかったさっきまでと違って、目の前が開けたような気分になった。



「とりあえず、ベッドに戻って…寝よう。体力、温存しないと…」



衰弱の状態異常のせいで回復はしないけど、体は疲労困憊でも気持ちが上向いてれば動ける。

いつかなんてわからない。でも来るかもしれない「その時」のために、私はベッドによじ登って体を横たえた。


見て見ぬふり、または気づかない。

これもある意味で罪。

感覚は善性だけど、色々足りてないせいで選択肢を悉くしくじって損したり、言葉選び下手くそすぎたり足りなかったりで誤解され距離を置かれるタイプの子。

ちゃんと話せば割といい奴。でも面倒くさい。

悪い子「では」ない。本当に自分から他人を傷つけることはしてない。

他人を簡単に傷つけるような子に『聖剣』スキルは習得できない。


ヒャッハー組の中で唯一、冷遇組に直接危害を加えようとしてなかった子。

ただ、冷遇組のことは「弱いんだから私が守ってあげないと」という善意の元、見下してはいた。(無自覚)


バカ王子。

やらかしたのが理由で、婚約を破棄された。

召喚者を妻にすれば返り咲けると思い込んでるが、割とお先真っ暗な感じ。

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