181.1/3の良心
あれから、のんびりまったりビスムズへ進む方針で進んでいる。
一日一回は採取のためにカーくんから下車して森歩きなんかもしてるので、本当にゆっくりだ。
森族はさすがと言うべきか、珍しい薬草やら何やらを採ってくることもある。アキ兄さんとベルさん大喜び。
どうやって探してるんだろう…何か呼びかけられるとか言ってたけど、森族、意味わからん。
地味にスキルレベル上がったりもしたけど、『微』が『小』になった程度で真新しいものはなかった。
初期スキルが16になってたけど、次の派生は18みたいなんだよなあ…
そういえば、ネロは今僕たちの所にいるのは分裂体になっている。
シルバーの従魔になる際に、分裂体から本体になり、シルバーがいる間はずっと本体だったようだ。
けどシルバーがいなくなったので、本体は元々いた魔族領の地中深くに再度潜んでいるのだとか。
魔晶石の中も快適らしいけど、魔族領の地中は闇属性と土属性が豊富で居心地がいいらしい。
それでも、僕たちと一緒にいる分裂体には強めに意識を傾けてるようだ。
いくつも分裂体を作っているので、本体の能力もやや下がっている。安全策をとって、誰にも脅かされない場所にいるとのことだった。
あと、静かなので複数いる分裂体へ意識を割きやすいのだとか。
ラージフールにも潜んでてもらってるし、ネロの負担が一番軽いやり方でやってもらう方がいい。
まあ、最初に会った時も分裂体(結構色々能力を上乗せした強い個体)だったので、戻っただけとも言う。
「…今夜は伝達の予定日やな。どうなったかなあ…」
「そうですね。私たちが信頼されなければ…またシルバーさんが滞在、ということになるでしょうね」
「別にそれでもいいんだよな、俺」
「僕もそれで構わないのだよ」
「引き渡しだけって味気ないものね。まあ、日数はかかっちゃうけど」
「どういう日程でしたっけ?」
「えーと、メモがあったはずだな。…今日はこれの三日目か」
当日。シルバーがヒャッハー組を向こうに連れ帰る。受け渡しと報告。
一日目。才能者界隈の上層部が今後の方針を相談。
二日目。今後の方針がシルバーに伝わる。もしくは相談中。
三日目。シルバーに今後の方針が伝わる(確定)。譲に共有。夜にナズから譲への『伝達』で、方針共有。
四日目。配達開始。
七日目。配達完了。『伝達』でシルバーが来れるかの最終確認。
八日目。シルバー再来。ヒャッハー組回収。
「シルバーがとんぼ返りでも問題ないって判断になれば、明日から配達してもらわないとな」
「坂下さん、権能進化して消費MP減ったみたいですから、無理すれば一日二回出来るって言ってましたね」
「でもそれじゃ『配達』でMP使い切っちゃうだろ。他のスキルの経験値稼ぎもしたいだろうから、一日一回でいいよ。どの道、シルバーが来れる日は先だし」
「そうだよな。坂下さんには改めて無理すんなって言っとくか。今でも充分助かってるんだから」
「七割以上消費してたのが、約半分の消費で済むようになったのだったか…すさまじいのだよ」
「せやな。でも、送れるものの大きさは変わらんかったなー」
「そうですね。となると、レベル15で立体も可になるか、大きいものも送れるか、という方向に進化でしょうか?何であれ助かりますけど」
「次、うまく行くかしら?」
「…どうかな。懸念材料は、あるからなあ…」
そう、前の捕縛は上手くいった。けど、次に予定してる四人が若干問題だ。
何せ…中には『光』スキルを持ってる奴がいるのである。ルートくんも持ってるスキルだな。
ネロ分裂体が張り付いてる時にこのスキルを使われれば、下手したら分裂体が消されるかもしれない。弱点だからな。
本体であれば、眩しいな、くらいで済むらしいが、分裂体だと特効になる。影に潜んでたとしても、削られてしまう可能性があるという。
一回で消されることはなくても、何度か使われれば分裂体のHPが削り切られるかもしれない。
順番を最後にする等、対策はする予定だけど…どうなるかな。
これを教えてくれたのは、高浜さんだった。どうやら仲のいい子だったようで、何のスキルを得てたか覚えてたらしい。
もっとも、城にいる間の接触は最初だけだったようだが。
そういえばいたなぁ、光スキル…レベルがどのくらいかはわからないけど、レベル1から『点灯』っていう光る派生能力持ってるからな…
ネロもHP自動回復とかのスキルを譲渡するとは言ってるけど、どこまでいけるか…
下手すれば、消されたのでもう一度『配達』で送りつけないといけない、なんてことになる。二回もあったら絶対不審に思うはずだ。
うーん…でも、ネロ以外に送り込んだ上で張り付ける子っていないからな…
本人じゃなくて、近くの木の洞とか草陰とか、視認出来る範囲に潜むとか、色々考えてくれてるみたいだけど、どうなるか。
「シルバーのやつ、うまくやってるのかしら…」
「心配ですかぁ?」
「写真とか動画とかあるけど、頭の固い奴って自分の考え曲げないじゃない?アキたちが凄いってことちゃんと認めるかしら?」
「あ、そういう心配ですかぁ。元気にやってるかどうかの心配かと思いましたぁ」
「自分が生きてた世界なら、その心配はないでしょ…仲のいい家族だっているみたいだし」
「まあ確かに。そうですねぇ、シルバーさん、確かにちょっと口数が少ないというか、口下手な感じはしたので苦戦してるかもですぅ」
「でしょ?どうなの、リオ?」
「何で僕に聞くんだ」
「あんた以外に誰に聞くのよ。特にサイノウシャの上層部なんて私たち全くわかんないし」
「…僕も、ほとんど会ったことないよ。そもそも僕が生まれた国に本部は無いし」
「そういえば、リオとシルバーは別の国の人間だったか。あちらの世界は黒髪の人種ばかりと思っていたから驚いたのだよ」
「召喚されるのが日本人ばっかだったのかもな。まあ、ざっくり言えば人間族領と精霊族領くらいは離れた国に住んでるんだよ」
「遠いわね!」
「海を隔ててますからね。…シルバーさんの出身国知りませんけど」
実のところ僕もよく知らん。欧州のどっか…西欧か中欧か北欧あたりだと予想してるけど合ってるかはわからない。
言葉はね、ディオさんの『翻訳』があるから…母国語、何語喋ってんのかもわからんし。
特に聞こうとも思ってない。僕だって聞かれたくないことはあるし、だからか必要以上に踏み込もうとは思わない。
その割には色々知ってる気もするけど、多分才能者界隈では知れ渡ってる情報だから知ってるだけだ。弟を溺愛してる、とか、あいつ隠す気ないだろうし。
「シルバーさんてどこの国の人なの?」
「知らないなー」
「誕生日は?」
「知らない」
「好きな色とか…」
「知らん」
「血液型…」
「知らない」
「何も知らないじゃないですか」
「だって聞いたことないし」
「…趣味とかは?」
「読書かなあ?」
「それでさえ曖昧じゃないの!本当に友達なの…って言いたいけど、あの態度からして友達よね」
「まあ、全てを知ってるから友達や親しい人物というわけじゃないのだよ。僕だって兄弟の大半のことは知らない」
「確かに、それもそうですねぇ。思えば私、おじいちゃんの好きな色とか知りません~」
「それは知っててあげてよ!薄緑よ!」
「そういえばそんな色の服をよく着てたような~?」
「リーゼさん…」
興味なさすぎんか?
仲が悪いわけじゃないみたいだけど。
というか、才能者、あんまり自分のことアレコレ知られるの好きじゃない人多いからな…
知られたくない筆頭のものは能力かもしれないけど、仕事に必要な以上、多少は知れ渡ってることも多い。
ディオさんとかアルさんは代表的だな。
なお、僕の能力はしょぼいのもあってほぼ知れ渡ってない。
上層部には当然報告している。必要な場所には教えたってことで、研究室には知られてるけど。
多分、上層部がそうやって必要な場所にだけ教えてるんだろう。そして皆それを知ってるから、『自分が知らない=自分に必要ない能力』って認識してる。
そんなわけで、シルバーの能力も能力の高さの割にあまり知られていない。大きな力を持ってることは知れ渡ってるらしいけど。
あと、色々な任務を受けてるので、応用の利く能力なんだろうなと想定されてる。それで利用したがる人が大量発生したらしい。
…いや、シルバーがそうやって利用されかねない騒ぎになったからこそ、今は大っぴらに能力を周知しないようになったのかもしれない。
もしかしたら昔は普通に公開してたのかも。まあ、予想でしかないから実際はわからないけど。
「まあ、とにかく今日の伝達は、弟くんからの報告を聞くのがメインだな。俺たちからの情報はないし」
「一応、坂下さんの権能が進化したってことは伝えておきません?MP消費が軽減されたって結果ですけど」
「せやな、それ伝えとこか!」
「あっちからの情報が多ければ、この情報は後回しでもいいな。ナズ、MP管理はしっかりな。無理しないように」
「…それもそっか。うん、無理しない」
「ああ~…ドキドキしてきたのだよ。あともうちょっとで『伝達』か…」
「私たちは傍で聞いてるだけだけどね」
マナリングはつけてるし、いざという時のルーズリーフとボールペンも用意した。
これで大丈夫のはずだ。
そして時間になり、伝達が開始された。
「やっほー譲、元気?あたしたちは元気!」
情報を聞く側なので、こっちからは「元気」とだけ伝えたんだろう。
多分、弟くんにとって一番聞きたいことだしな。
聞いてるこっちは気が抜けるけど。
「うん、うん、おおう…シルバーさんたち無事?…あ、うん、そっか。やっぱ素で強いんやな、あの人」
「…シルバーさんが何がやらかしたんですかね?」
「ヒャッハー組があっちに戻った瞬間、睡眠の状態異常切れたんじゃないか?で、暴れようとしたのを実力行使で止めたとか?」
「ありそう」
「衰弱で疲れてたっていうアドバンテージはあったでしょうが、四人沈めたんでしょうか…拝島くんの体当たりは弱ってても威力ありそうですが」
「目覚めて即『よっしゃ体当たりしたろ!』とはならんだろ、仮にも初対面を相手に」
「ああ、混乱してるとこをボコったとかかな?シルバーさんなら容赦しなさそう」
「初戦闘で臆さず魔物に立ち向かってたしな…人間族は大抵最初は怯えるのに、そんな様子微塵もなかったのだよ」
好き勝手想像して話してるけど、そう間違ってないんじゃないかな。
まあ、シルバー一人じゃなくてアルさんや京さんも参戦した可能性あるけど。
何せ、こっちとあっちが繋がってるのは、僕(お守りと通信機)と京さん・アルさんだからな。出口には二人がいるはずだ。
何の力もない四人の子供じゃ、どうあがいても勝てるはずもない。
拝島くんの体当たりがどれだけ攻撃力があったとしても、当たらなければ意味はない。そして京さんは攻撃をいなすのが得意だ。絶対突破出来ない。
ということで、ヒャッハー組の受け渡しという意味では心配していない。あいつらは確実に無効化されたままどこかへ隔離されたはずだ。
しかるべき時に、あの召喚の起きた場所へ放り込むために。
今日はナズがやけに静かなので…というか普段ぎゃんぎゃん言い合ってるのがおかしいのかもしれないけど。
そんな感じなので、自然僕たちも静かになる。どういう話になっているかは、後でまとめて聞いた方がいいだろう。
今日は聞き役に徹してるようだ。
ナズが何か言わないと、僕たちもどういう話になってるのか推測さえ出来ないもんな。
一応、単語のようなものはメモに書き散らしてるけど、断片的すぎてわからない。
時間にして10分ほどで『伝達』は終了した。MPもほぼ残ってないのか、ぐったりしてた。
『あるじさま、大丈夫ですの?』
「うん、疲れただけ。昼間にスキル経験値稼ぎしまくって、伝達分はあんま残してなかったからなー」
「それでも10分話してたなら結構なMP残してたってことだろ」
「とりあえず、飲みな?落ち着いたら報告してほしいし」
「ありがとアキ兄。やった、はちみつレモンー」
そして、落ち着いたナズから聞いたところによると。
次回のヒャッハー組の回収について、こちらに全面的に任せるということだった。
なので、シルバーは回収の時だけこっちに来る、とんぼ返りになるってことだな。
多分、上層部はすんなり納得はしなかっただろうけど、実際に行方不明者四人を連れ帰ってるからゴリ押したんだろう。
何であれ、当初の予定通り、次はシルバーは回収のみになる。
「そうか…滞在しないのだな…嬉しいやら悲しいやらなのだよ」
「あたしたちの力を認めてくれたっぽいって意味では嬉しいけど、シルバーさんいないのは寂しいよねえ」
「そう、それなのだよ」
「まあ、上層部がどれだけこっちを信用してなくても、シルバーがこうするって言い張ったらテコでも動かないの知ってるから、諦めたんだろうな…」
「あっ信用されてたとかじゃないんですね」
「一回も会ってない人を信じるってのも難しいだろうから、俺は腹は立たないかな」
「言われてみればそうやな」
無理やりシルバーをこっちに送り込みたくても、シルバー自身が能力を使わなければ出来ない。
そして、そのシルバーが『あいつらに任せる。俺は回収だけやる』って言い張れば、上層部もどうにも出来ないとして諦めたんだろう。
とはいえ、こっちとしてもスキルという力があること、行方不明者の32人中6人を戻し、19人が無事であることを証明している。
シルバーが写真や動画を取ってたし、冷遇組の存在は、掲示板を見てシルバーが確認している。
やれる能力はある、と証明してるようなものだ。実績があるんだから文句は言わせない。何ならお前らこっちに来るか?という感じである。
実際やりはしないだろうけど、シルバーならそういう脅しをしてる可能性もある。
「予定通り、次は四日後の『七日目』に伝達するって伝えといた。連絡しなかったらこっちで想定外のことが起きてると思っててって伝えてるから」
「想定外…迷いの森に迷い込んだ、とかかな。確かにこれだとヒャッハー組の回収には乗り出せないし」
「あとはダンジョンに入ってしまったとかでしょうか」
「もうカーくんに引きこもっておいた方がいいんじゃない?迷いの森に関しては私とお姉ちゃんで避けられるけど」
「それも含めた『想定外』ですよぉ。何が起きるかなんてわからないのが人生ですぅ」
「確かに、どれだけ安全策をとっていても、何が起きるかなんて読めないのだよ。僕だって一月前は召喚者に会うなんて想像さえしてなかった」
「俺たちだって去年、異世界に転移するなんて予想してなかったもんな」
「やだ…説得力あるぅ…いやマジで何も起こらんとって!」
「何か起きてもオリジン三体いるし、合流の魔道具もあるし、何とでもなると思うけどなあ。完全に他力本願だけど」
「…リオ兄さん、もしラージフールに見つかったりして即離脱しなければいけない時、どこに空間転移します?」
「ええ?怖い想定するじゃん。まあそれならスーの住処かな。ゼイレムに近いし、ここから一番近い『登録先』がそこだから、移動距離的にもロスが少ないし」
『ああ、わたしの巣なのだ?いつでも使ってくれていいのだ。眷属たちにも話しておくし』
「は?ウチの従魔最高か?」
スーの住処ってことでベルさんと森族姉妹がビビってるけど、いい所だから心配はいらない。
あ、恐れ多いって思ってるだけ?それは慣れてほしい。
てか怖い想定するじゃん、ハル。ラムたちの空間魔法じゃなくて僕の権能の空間転移って。
同じワープだけど、僕の権能とスキルの空間魔法の大きな違いは範囲だ。合流の魔道具もそうだけど、僕の空間転移は個人単位である。
そして、空間魔法や転移玉などは一定範囲のもの全てが転移対象。
極端な話、敵がハルあたりに掴みかかって人質にしたと仮定して、その状態で空間魔法を使えば、敵とハルの両方が転移してしまう。
が、僕の空間転移や合流の魔道具の場合、ハルだけが転移する。敵はその場に放置で。
合流の魔道具は『登録されたマナと同じマナを持つ個体』が対象なので、そういう仕様なのだろう。
まあ、僕の権能だとここにいる全員の転移は無理ですけどね!MPが足りないので!
やるとしたら、自分とスーだけ転移し、あとのみんなは合流の魔道具を使うとかしないと無理だ。
「てか、こんな話してたらマジでそうなりそう。フラグか?」
「安心してアキ兄さん。僕はフラグは折る教だから」
「前はアキ兄さんが折りましたよね。オーク殲滅という結果で」
「オークが出た時点でご飯になる未来しか見えないのだよ」
あれだな、崖になってるからカーくんから降りて進まなきゃいけないってなった時だな。
橋を渡ってるっていう足場の悪い場所を進んでる時に魔物が出たらーなんてフラグ立てちゃったけど、見事にアキ兄さんが叩き切ったやつ。
って考えると、フラグなんて立ってもこのメンバーなら誰かしらが折るか殲滅するんじゃないか?
「これだけの顔ぶれが揃ってて、ピンチになる方が想像つかないですぅ…」
「あ、うん…事情を知らない人が近くにいるとかじゃなきゃ、絶対火力で全てを蹴散らすのがこのメンツだからな」
『みんな守るです』
『魔物が襲って来たら全部毒で沈めてやるですの!』
『うむ、水で流してしまっても良いな』
『森でさえなければ全部燃やせるのに…』
『地面に引きずり込んで窒息死させる?』
「わあい物騒!頼りになるー!」
「棒読みだぞ、アキ…」
「てかネロこっちに意識移してたんだな」
『伝達使うってことだったから、優先した方がいいと思って』
「そっか」
『また明日からはちょっと寝る…というか、意識しないかも』
「わかった。…ほんとにご飯、いらないのか?」
『だ、大丈夫だよ。ぼく、ご飯ほとんどいらない種族だから』
アキ兄さんの心配ポイント、やっぱりそこなんだな…
今はラージフールに意識を集中させてるらしいので、こっちへの意識を強めてるとは思わなかった。
それだけ、伝達のことは気になってたんだろう。ネロも作戦の要のひとつだしな。
「動きがありましたか?」
『ううん、国の連中はない、はずだよ。ぼくの感知できる範囲ではね』
「気になることがあるって言ってたけど…それ、聞いていいやつか?」
『まだ確信できるわけじゃないから…その…』
『一応言ってみるです。一匹で抱え込んでも仕方ないです。ご主人様たちの言葉に『三人寄れば文殊の知恵』ってあるらしいです』
「おお、知ってるのだよ。一人じゃわからなくても三人いればいい案が浮かぶとか、そういった意味のはずだ」
「あら、よく知ってましたねベルさん」
「ふふん、ママに聞いたことがあるのだよ」
「出たママ」
「ベルさんのお母さんですかぁ?」
「いや、乳母だ。サタン様の眷属でもある凄い人なのだよ」
「紛らわしいわね!何でママなんて呼んでるのよ」
「名前がママレードだから、略称で皆からそう呼ばれてるのだよ。僕もそれに倣って呼んでいる」
「ママレード!?そうだったの!?」
「ジャムじゃん!」
あ、それでママって呼んでたのか。母の意味じゃなくてあだ名みたいなものか。
聞けば、ママレードという名前、ママさんの母親が召喚者からママレードジャムをつけたパンをご馳走になり、味に感動して娘の名前にしたらしい。
まさかの召喚者由来。
「本当に召喚者が身近だったんですね。その召喚者、料理スキル持ちだった可能性あります」
「俺も召喚にママレードジャムあるなあ」
「本当か!?一度本物を食べてみたいのだよ!」
「じゃあ明日の朝ごはん、トーストにママレードジャムつけようか」
「やったのだよー!」
「私も食べてみたいですぅ」
「いいよ。明日トーストにしようか」
「ピーナッツバター欲しい」
「あたしメイプルシロップがいいー」
「甘くないか?おやつじゃん」
「えー、美味しいじゃん!」
「美味しいけども」
「ちなみにママの妹の名前がメープルなのだよ」
「そっちも!?」
「ママさんのお母さん、パンが好きだったんですかね?」
「ホットケーキかパンケーキ食べた可能性もあるけどな」
「そっちの世界、本当に料理の種類が豊富なのねぇ」
何の話してたんだっけ?…いや、ネロの報告じゃん!
明日の朝ごはんの話じゃなかった!
「ごめんネロ、話それまくった!」
『う、ううん、大丈夫…』
『こいつ、ポカーンとしてたです』
『言わなくていいよ』
『それで、何が気になってるのだ?』
『…召喚者の一人がね、何て言うか、他二人に比べて…反省の色が見える、というか…ぼくの気のせいかもしれないんだけど』
「おっと…?」
『今の状況に絶望して、投げやりになってるだけかもしれない。でも、ごめんなさいってずっと言ってて…』
「あー…それは確かに気になるかもなあ。誰だろう?」
『名前はわからない。でも、女の子だよ。こっちにいる召喚者は男二人と女一人だから…』
「そういやそうだな。えっと…誰だ?東さんは連れ帰ってもらったから…」
「坂下さんが『配達』予定リストを掲示板に投稿してたはずだ。どこだっけ?」
「ラージフールにいるから一旦後回しって言ってたやつですね。確かに投稿してた覚えがあります」
「見つけた。ラージフールにいる女子は、戸沢さんか。一組の人だな。ナズ知ってるか?」
「う、うん…親しくはなかったけど。ちょっと変な正義感振りかざす子だったかな?悪い子じゃないけどちょっと面倒って思われてたかも?」
戸沢操、か。何のスキル持ちだったっけか…?
何でも、本人に悪気はないかもしれないけど、少し遅れただけで注意するとか、若干面倒な子らしい。
日直が黒板を綺麗にするのが遅かっただとか(友達と喋ってた)日誌を適当に書いてただとか。
先生にノート運んでくれと言われて、返事をしたもののすぐ動かなかった子に「早くやれ」と急かしただとか。
掃除の時間に喋りながら適当に床掃除してた男子を真面目にやれと注意しただとか。
ちょっと神経質な子って感じかな?ただ、真面目な子からは感謝されてたらしい。ほどほどに適当にやりたい勢からはウザがられてたようだけど。
ああ、確かに悪い子ってわけじゃなかった…のかな?
「あたしは、そこまで言わんでも、とは思ったかな。言ってることは正しいけど、言い方がちょっとキツい?みたいな?」
「ああ…そういうタイプか」
「確かスキルは『聖剣』やったかなあ?小学生の頃から剣術道場通ってるとか自己紹介で言ってた気するわ」
「ああ、クラス替えした新学期とかは自己紹介しますもんね。聖剣、ですか…」
「意外。剣術スキルじゃないんだ」
「『聖剣』スキルはかなり珍しいのだよ。たとえ棒切れだとしても名剣にしてしまうからな」
「ああ、棒状のものを聖剣にするスキルだっけ?光属性帯びてそうだし、ネロの天敵か?」
『弱点属性ではあるけど、低レベルなら効かないよ。ぼく、『物理無効』スキル持ってるから』
「魔法属性を帯びさせるのは確かレベル10とか15とかでしたっけ?それまでは物理属性なら…確かにネロくんには効きませんね」
「ヒャッハー組なら、スキルレベルも5~8くらいか。じゃあ大丈夫だな」
「向原とか芝を基準に考えると、確かにそうだな」
どうやら、戸沢さんは「謝るから助けて」「帰りたい」みたいなことを繰り返してるらしい。
もう誰も傷つけないように気を付けるから、とも。
大きな力を持って増長してたけど、隷属で縛られて閉じ込められて心が折れて…こうなったのかもしれない。
本当の意味で改心してるのかは怪しいけど、他の男子二人は城の連中に文句しか言ってないので、相対的に戸沢さんの言葉が反省してるように聞こえるそうだ。
確かにな…
「…ネロが接触するとしたら、戸沢さん一択だろうな」
「でも味方につけて、やれることはありますかね?部屋に閉じ込められてるんでしょう?自由に動けませんよ」
「一番まずいのが自棄になって自殺…まではいかなくても、自傷とかに走ることだ。元の世界に帰してやるって言えば…希望は持つかも」
「でも、元の世界に戻ったところで監禁されるようなもんだろ?」
「…反省して、大人しくしてるって言うなら…もうちょっと対応も変わるとは思うけど、どうかなあ…」
「シルバーさんに確認案件ですね。七日目の伝達時か、受け渡しの時に話してみましょう」
「ネロ、まずそうなら話してやってくれるか?」
『既に腕引っかいたりはしてるけどこれ大丈夫かな?』
「おっとすでに自傷してた!」
『まだ軽い痕が残るくらいで、擦り傷未満だけど…』
「うーん、微妙!どうするリオくん!?」
「う、腕くらいなら…まだ…爪立てて傷とかになったり、顔や首に向かったらまずいけど…」
『じゃあ、そうなりそうなら止めるね』
そう言ってネロは魔晶石に入ってしまった。これからラージフールにいる分裂体に意識を集中するのだろう。
というかこれ、掲示板にも報告しておかないとまずいやつでは…と思ったら、もうアキ兄さんが書き込みしていた。
仕事早い!素敵!




