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177.森+火


「…私の知ってる旅と違うわね」

「俺の知ってる旅とも違うな」

「こういうものとして受け入れてしまった方がいいのだよ」

「さすが先住民。言う事が違いますぅ」

「ツアー旅行か何かかこれ?観光バスか」

「一応、逃亡旅…かな?」

「追手が追い付けない逃亡旅か。まあ逃げる立場から見ればヌルゲーってやつかもしれねえが」



それでも追いつかれかけたりってのはあったからな。

トランタとか…あれはタークくん達を助けに行くために僕達が渦中に飛び込んだ形だから、追いつかれたってのも違うけど。

火山のは…芝という名のストーカーだから、ラージフール関係じゃない。けど追いつかれかけたのには違いない。

あとはゼイレムでディーンさんに会えなければ、ビスムズでクソガキとエンカウントしてた可能性もある。

って考えると、地味に綱渡りしてた、か…?でも一歩の差で逃れられてるって意味では追いつかれてない、か?

実際カーくんの中にいる間に追いつかれたことはない。どれもカーくんの外にいる時だ。


ならずっとカーくんの中にいればいい話なわけだけど。



「でも確かにずっと車内にいるのはな…」

「そうなんだよ。気分転換とか、筋肉が凝り固まるとか色々あるから、つい出ちゃうんだよ」

「…アキも楽しそうだしな」

「今日は何を採ってくるかなあ…」



そう、現在進行形で今、カーくんから下りて森で採取している。

さっき果物らしきものをもぐために木登りしてるアキ兄さんの後ろ姿は見たけど。

ベルさんも採取してるし、森族の二人は見回りに行くと言ってどこかへ行ってしまった。

魔物じゃなくて何か森族特有の何かを探しに行ったのかもしれない。

さすがに魔力感知だと魔物は見つけられても森に自生してるものとかは見つからないから。



「リオ兄~追加よろしく~」

「へーい」

「誰の分だ?アキか?ベルか?」

「ベルさん」

「なら注意しねえとな…」

『というか、アキさんて鑑定スキルも使ってないのに何で毒とかわかるのかな…?』

「料理スキルの恩恵な気はするけど、それより『アキ兄だから』って答えの方が納得するんよ」

「マジでそれ」



今、僕たちがやっているのは採取物の仕分けである。

まあ、アキ兄さんがハッスルするので…で、ついでにラムもやりたがるしベルさんも得意分野だから張り切ると。

なので籠を渡して、成果はここに入れろとだけ言って放流したわけで。

成果がいっぱいになった籠はこうしてナズやハルが持ってきてくれる。

アキ兄さんはまず大丈夫だけど、ベルさんやラムはたまに毒の果物なんかも採取してしまう。

それの仕分けを、鑑定スキルを用いて僕が担当している。何しろスキル経験値になるの僕だけだからな。

一人でやるのは大変ということで補助にシルバーがついていてくれている。自動的にネロもついてきた。

影からにゅ~っと触手のようなものを伸ばして、うまく操っている。曲芸師になれそう。

アキ兄さんもラムもベルさんもやる気いっぱいなので、本当に一人じゃ手が回らないので助かっている。

まさに猫の手も借りたい…と思ったけど、ネロって影の魔物で本来は猫じゃなかった。

くだらないことを考えてしまった…



「こっちの籠、よけられてるけどなに?」

「毒」

「うわ、…ベルさんのやつかな?」

「そう、多分魔物の毒の息とか毒液かぶったとかそういうの。浄化したら食べれそうだから、アキ兄さんかハルにやってもらおうと思って」

「あー、なるほどな」



元は無毒な果物だ。それでもアキ兄さんは、不思議と毒に侵された果物は避けるんだけど。センサーでもついてんの?

まあそういうのは料理スキルの派生の『浄化』やハルの浄化魔法を使えば問題なくなる。

スキル経験値稼ぎにもなると思って、こうして除けてるのである。


あと、アイテムボックスにしまう時に籠ごとしまえば取り出す時やりやすいらしいから…

採取次第アイテムボックス行きのものもあるらしいけど、籠に取り分けるのもある。

どういう基準かはいまいちわからないけど、アキ兄さん的にやりやすいというならその通りにしておくに限る。



「ベルのはまた毒混じってそうだな。あいつどっか抜けてっから」

「外的要素による毒はどうしようもないだろ…それはそれとして、抜けてるのは同意」

「さっき迷子になってたもんね」



採取に夢中になって採取場所を移動していたら、いつの間にか僕たちからかなり離れていたらしい。

そういえばベルさんって方向音痴だったなってここで思い出した。

迷子になりかけたベルさんはネロがベルさんの影を通じて見つけ出し、連れて来てくれたので事なきを得た。

…影から巨大な手が出てきて、ベルさんの首元の布を摘まみ上げるようにして連れて来てたけど。ベルさん、地面に足ついてなかったよね。

親猫が子猫を運ぶ時みたいなのを想像しちゃったよ…その時のネロに猫の面影なかったのに。

まあ、そういうわけでベルさんを単独で放置するのはまずいということになり、今はスーが一緒にいるわけだ。

ベルさん、オリジンでもある上に飛行練習の先生やってくれたスーにはマジで逆らえないからな。

あとスーも教え子みたいな感覚があるのか、面倒を見ないとという思いがあるらしい。


…その代わりなのか何なのか、僕はシルバーとネロから離れるなと言われたけど。

ネロがベルさんにつけばよかったのでは?と思わなくもない。

が、従魔術スキルの経験値を少しでも稼ぎたいと言われれば、確かにシルバーとネロは一緒にいた方がいい。

ただでさえシルバーは短期間しかこっちにいないので、従魔術スキルは上げづらいから。

とはいえ、基本的に目が届かない場所には行かないように気を付けているので、森族姉妹以外は近くにいる。

それも、昼が近くなってきたあたりで全員が合流した。

採取は最初から昼までと決めていたので。



「ただいま戻りましたぁ」

「ちょっと面倒なことが起きそうだわ…」

「え、どうしたの?魔物いた?」

「いいえ、魔物じゃなくて…幻惑草が大量に生えてましてぇ…引っこ抜いては来たんですけど」

「いつもは見つけたら即処分してるけど…錬金調合の召喚者が欲しがるかなって思って採取してきたわ。どうする?」

「え、ほんと?多分タークくん喜ぶと思う!」

「幻惑草って本でしか見たことないですね」

『大量に生えてたってことは…もしかして、迷いの森が発生する前兆です?』

『あー…確かにそれは面倒なのだ』

「え、そうなの?」



幻惑草は一本や二本生えてたところで、大した力はない。

が、大量に生えることで、大規模な幻覚を生じさせる。そしてマナの濃度によっては迷いの森が発生するという。

森族姉妹の見立てでは、迷いの森になってしまうそうだ。とはいえ、すぐじゃなくてそれこそ一ヶ月後とかに。



「でも、この辺りの森で迷いの森が発生したら困りますぅ。どうにかして阻止したいですねぇ」

「申し訳ないんだけど、手伝ってくれない?もちろん昼食の後でいいんだけど」

「ご飯の後なら俺はいいけど。どうやるんだ?」

『マナの属性の調整をすればいいので、魔法使いまくればいいです。迷いの森なので闇と土に偏ってるはずです』

『光とか火とかが迷いの森の嫌がる属性なのだ。わたしの得意分野なのだ』

『ぼくは駄目だね。あ、でもマナを吸うのは出来るかな』

「私、光魔法の経験値溜めたいので協力します」

「俺も火魔法の経験値稼ぎしたいな」

「シルバーも行っとけ。魔法スキルの経験値溜めるいい機会だ」

「そうだな。俺もやるか」

「あ、ありがとう…!」

「助かりますぅ」



いや、それにしてもよく察知出来たな、そんなこと。

幻惑草の大量発生だけじゃ『=迷いの森発生』とはならないらしい。が、森族から見れば明らかに迷いの森の前兆だとわかるそうだ。

これも種族特性なのだろうか。森に関しては詳しいどころじゃないからな。



「周りの木々や植物がざわめいてるからね。怯えも混じってるから、これは迷いの森になるなって」

「詳細聞いた方が意味わからんってどういうこと?」

「森族特有の感覚だと思うのだよ。まあ、ヒト族が訪れそうな場所に迷いの森が発生するのは良くないからマナを散らすのは賛成なのだよ」

「防衛目的で発生させると便利なんですけどねぇ。でもこの辺りに発生するのは良くないですぅ。冒険者に犠牲も出かねませんし」

「そっか」



ここは森の中層あたりになるそうで、滅多に来ないけど冒険者が来ることもあるらしい。

今は僕たち以外に誰もいないのが従魔組によって確認できてるけど。

確かに、知らずに迷い込んだら命に関わるのか。どっかの角フェチの魔族みたいに森を燃やすって手段がとれるかも怪しいもんな。

全員でカーくんに引っ込んで昼ご飯を食べることにした。ホットサンド美味しい。

食べ終わって腹休めをした後、森族姉妹の案内で迷いの森が発生しそうになっている場所に来た。

見た目は普通の森だ。ただ、幻惑草は確かに多い気がする。

なお、掲示板で聞いたらタークくんは欲しいと主張してたので、採取したものは『交換』で送ることに決定した。

森族姉妹としても、困った草ではあるけど森の恵みが役立つならと、採取の許可をくれた。むしろ根こそぎ持って行って欲しいそうだ。



「…僕は採取するよ。魔法使えないから、属性の調整には何の役にも立たないし」

「僕も手伝うのだよ。光魔法は持ってないし、火魔法の調整は苦手だからな。森を燃やしかねない」

「あたしも採取するよー」

『わたくしも手伝うですの!』



案外採取に回れるメンツいたな。

というか、ラムやスーも召喚者のスキル経験値稼ぎを優先して欲しいということなので、補助程度しかするつもりはないらしい。

特にシルバーは今回使えそうなのが火魔法しかないとはいえ、MP多いから乱打すればこれでガッツリ経験値が稼げるかもしれない。

一応初期スキルのひとつでもあるし、優先して鍛えてもいいんじゃなかろうか。



「この規模だと幻惑草も上質なのが多いんじゃないかしら。さすがに高品質まではないと思うけど」

「上質があれば上等だと思う。タークくん、栽培スキル持ってるから勝手に増やして品質上げると思うし」

「やりそう。てか、高品質の幻惑草とか自生してるの?」

「迷いの森が発生したら、その中に生えてる幻惑草のほとんどが高品質になるわよ。それが厄介なんだけどね」

「なるほど」

「だから辺りを燃やしてしまうのが一番いいと思うのだが…まあ怒られるからやらない方がいいと思うのだよ」

「炎上オチなんてサイテー」

「森で火は本当にやめて…!」



少し離れた場所ではリーゼ主導のもと、光魔法や火魔法で属性の偏りを調整している。ガッツリ火は出てるけどこれは仕方ないだろう。

思った以上にデカい火を出してしまったシルバーはリーゼに怒られてたけど。「全力出した方がいいと思った」じゃねえんだわ。

ネロが吸い取ったためか、闇属性はかなり減ったようだ。シャルが教えてくれた。

そんなのわかるの…?シャルっていうか森族すごいな?

人数が多いためか、マナの調整は30分ほどで終わった。いい経験値稼ぎになったようだ。こっちも幻惑草は結構採取出来た。



「レベル上がりましたね」

「うん、あんま魔法使う機会ないもんな。火山じゃ火魔法あんま効果なかったし」

「ああ、魔物に火属性の耐性ありましたもんね」

「デカい火出したら怒られた…」

「ちょっと大きすぎましたね。『火球』がアキ兄さんの二倍くらいありましたもん」

「お疲れー。めちゃくちゃ光ってたけど、何だったんだあれ。火じゃないよな?」

「あ、私の光魔法『照射』です。こういう時くらいしか使わないと思って…」

『攻撃に使うことも出来るです。多分ネロとか嫌がるやつです』

『ぼくは狙わないでね…』

「やりませんやりません」



ああ、光魔法スキルレベル10の派生のやつか。

スポットライトみたいな魔法だったな。あれ使ってたのか。確かに『点灯』より範囲が広いから今回は使いやすかったのか。

アンデッドとかにも有効だけど、明るくするだけなら『点灯』で事足りるし、夜の道なんかだと明るくし過ぎると魔物に見つかるらしいから『照射』は好まれない。

ってのがスキル大全に書いてあったな。まず夜に外に出たりしないからいまいちピンと来ないけど。

まあ、夜道を歩くのに提灯かミラーボールか、くらいの違いって考えれば差は何となくわかるような…?



「てか、シルバーの火球がデカいって何?ラムよりデカいわけないよな?」

『ラムは規模を小さくしてるです。調整しないと広範囲が火の海になるので』

「こわっ」

「…それ、俺がやることって出来るか?デカすぎてもいいことねえからな」

『シルバーくんには『感知』スキルがあるですから、多分出来るです。特訓するです?』

「ああ、頼めるか。…先生になるのか」

『せ、先生…ラムが、先生…!』

『…ぼくの主なのに…』

『わたしの方が専門なのにって言葉は飲み込んでおくのだ』

「言ってるんだよなー。飲み込めてないぞ、スー」

『しまったのだ』



もっとも、マナや魔法の調整に関してはエレメンタルスライムのラムの方が長けてるそうだけど。

シルバーが火魔法しか使えないならスーの方がいいかもしれない。けど、他の属性の魔法も使える以上、全属性を満遍なく使えるラムの方が適任だそうだ。

それぞれの属性の魔法は、同じ魔法という形態でも若干使い勝手が違うそうなので。

魔法使えない僕にはわからない世界だな。

まあ、土魔法とかほぼ固形のものに対する魔法と風魔法のように目に見えないものに作用する魔法じゃ使い方が違うのは何となくわかる。



「ていうか、こんな短時間で調整が出来るなんてすごいですぅ」

「…普通、数日かかるものね。早くても一日とかだし」

「これだけオリジン様がいるのだから当然と言えば当然なのだよ」

「ですねぇ。ネロ様が闇属性を吸収してくれたのも大きいですしぃ」

『役に立った?…なら嬉しいな』

「役に立ちまくりですよぉ。ユグドラシル様を信奉してなければダーク様信者になってたかもですぅ」

『そ、それは…トレンツに怒られそうだから…』



ネロ、自己評価低すぎんか…

あんまり表に出ることもなかったせいかもしれないけど。

というか、影の魔物なんて普通表に出ないか。裏方だもんな。

でも縁の下の力持ちって言葉もあるし、目立たなかったからって活躍してないわけじゃないのに。

自覚ないのかな?めちゃくちゃ褒めた方がいいのかな?

僕が褒めるよりシルバーに褒められた方が嬉しいかな?



「シルバーはあとでネロを存分にモフるべきだと思う」

「話飛び過ぎだろ。何でそうなった」

「リオくん、また説明不足?」

「ほんとに稀に頻繁に突拍子もないこと言いますね。直してください」

「ごめんなさい」



ネロの自己評価が低いのと自己主張が弱いのは、肯定してくれる相手や見てくれる相手がいなかったからじゃないかと思ったんだ…

だから大げさでも何でも褒めるのは大事だと思ったわけで。



「気づいたお前がやりゃいいだろ」

「だってネロは僕の従魔じゃないだろ。こういうのって主から褒められる方が嬉しいんじゃないか?」

『そうですね。褒められるのは誰に言われても嬉しいですけど、確かにご主人様に褒められたらもっと嬉しいです』

『わかるですの』

『うむ。特に我自身の力が主人の役に立った時は一入だな』

「うちの子たちが可愛い!」

「些細なことでも褒めなければ。今決めました」

「…そういうもんなのか。なら褒めるか」

『………あの、全部聞こえてるんだけど…』

「そういうことは本人(?)のいない所で相談するのだよ」

「いやあ、ネロは地獄耳スキル持ってるから、どこで話しても聞かれるかなと思って」

「ごもっともだったのだよ!」



うん、ぶっちゃけ5メートルも離れてないから全部丸聞こえだ。

森族姉妹も微妙な顔してたけど、地獄耳スキルについては「確かに…」と言いたげだった。

ネロに隠し事はほぼ無理だろ。

シルバーはさっそくネロを転がして腹を撫でまくっていた。完全に猫扱い。

…いいのかこれ。



『構ってもらえるのが大事です。どんな形でも嬉しいですから、気にしなくていいです』

「そうなのか。撫でる以外の愛情表現も考えた方がいいかな。ワンパターンだし」

『撫でられるの大好きなのでやめないで欲しいです』

「これまで以上に撫でることを誓います」

「選手宣誓かな?」

「アキ兄さん、今でもじゅうぶん撫でまくってるのに」



言ったそばから撫でてる。

とりあえず、これでやることは終わったようなものなのでカーくんに戻ることになった。

ちょっと遅れたけどおやつがふるまわれ、そこからはカーくんの中でそれぞれ行動することに。



「寝床が勝手に目的地に進むなんて初めての経験だわ…」

「異世界ってこんなのがあるんですねぇ。馬車なんて比較にならないくらいの快適さですぅ」

「ここまで至れり尽くせりなのはあっちにもないからな!?」

「リオがおかしい」

「失礼、失礼ー!」

「シルバーさんも大概やけどな。異世界に渡るとか普通出来んから」

「もうこの友人コンビがおかしいということでいいんじゃないでしょうか」

「「ひどい」」



ゼイレムから出て一日目。

カーくんが規格外すぎるという結論で、この日は終了した。何故。

当のカーくんは褒められたって喜んでたけど。

カーくんが喜んでるなら、まあいいか…?


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